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猛烈に暑い。
夏休みはもう終わりだというのに、この陽射しは休むことを知らない。
桜木花道は走っていた。
「ふぬーっ!遅刻だー!」
今日の練習は10時から。
しかし花道が目覚めたとき、すでに時計は10時を回っていた。
汗を拭くヒマもなく、猛スピードで歩道を走りぬけた。
ようやく校門が見える。
そして、その校門を曲がろうとした瞬間、
「!!」
思いっきり何かとぶつかった。
どうやら出てきた人とぶつかったらしい。
相手が文句をいってくる。
「いってえ…、てめえ!どこ見てやがんだ!!」
「ぬっ…なんだと!?」
むっとして痛みをこらえながら立ち上がると、そこには見なれた顔。
向こうもどうやら気づいたようだ。
「なんだ、花道かよ。マジでいてーぞ、お前。前見て走れよ。」
「リョーちん!」
「どーせ、寝坊してあわてて走ってきたんだろ。」
「ぬっ…」
あたっているだけに言い返せない。
「あっ、遅刻!……?リョーちんどこ行くんだ?」
「家、帰んだよ。今日は練習なしだ。バレー部が使ってやがる。」
「何―!?だって、きのう10時からだっていったじゃねーか!」
確かにきのう、彩子は体育館使用ローテーション表を見ながらそう言った。
「オレだって知らねーよ。だからここにいんだ。」
「ぬう…、この天才がわざわざ走ってきたのに…。納得いかん。
アヤコさんに電話しろ、リョーちん」
花道はあせっていた。
まだ背中のケガから復帰したばかりで、練習量は失った分、それから遅れた分まである。
本当なら今日も一人で朝練をする予定だったのだ。
「りょーちん、はやくしろっ」
「ったく、しょうがねーな…。花道ちょっとあっち行ってろ」
宮城はスポーツバッグの中からケイタイをとりだした。
しょうがねーとはいいつつもちょっとうれしそうだ。
花道も耳をダンボにする。…が、声は聞こえない。
「だめだ。電源切れてる。」
「ちっ。」
「あっ、お前晴子ちゃんに電話しろよ。なんか知ってんじゃねえ?」
「ハッ、ハルコさんに!?な、なななに言ってんだリョーちん!自分でかけろっ!」
晴子の名前を出した途端、花道の顔はみるみる頭と同じ色になった。
なにもかも分かっている宮城が
「あっそ、じゃあオレかけるぞ。」というか言わないかのうちに
「はうっ、バカリョーちん!貸せっっ!!」
と宮城の手からケイタイを奪った。
(ゴリは出るな出るな出るな……)
得意の呪い(?)をかけて番号を押す。
「はい、赤木です」
その声はまぎれもなく晴子だった。
「ハッ、ハルコさん!?さささ桜木です!!」
「あっ、桜木くん!?」
「そーです!天才・桜木です!」
いきごんでそう答えた。が、その答えに反応したのは晴子ではなかった。
「桜木花道―!そこにリョータいるー!?」
「ぬ!?…いるけど」
どうやら晴子とかわったのは彩子だ。
しかし、なぜ彩子が赤木家に…?
そんなことを聞こうとするのも知らず、彩子は
「リョータと二人で赤木先輩んちに来てねー。」
とだけ言うと、電話を一方的に切ってしまった。
花道が首をかしげていると、終わったか、とリョータがやってきた。
「あんだってー?」
「……?なんかアヤコさんいたぞ。」
「あ!?なんでアヤちゃんがダンナんちにいんだ!?」
「???わからん」
「で、練習は?」
「なんか…ゴリんちに二人で来いって。」
二人ではて、と考えてみるがなんだかよく分からない。
だが、この陽射しの中にいても体力を消耗するだけなので
とりあえず二人は赤木家へ向かうことにした。
「!!」
インターホンを押して開かれた扉の前でふたりは一瞬固まった。
そして、花道は全速で逃げようとした。が、大きな手に首根っこをつかまれた。
「どこへ行く」
「ああーっ!!なんでゴリがああっ!」
「ダンナ…、ちわす」
二人はてっきり、ゴリはいないものだと勝手にきめていた。
「たわけ!なんで人の顔見て逃げるんだ」
なぜ、と言われても花道は反射的に。
「ったく、バカモンが。さっさと上がれ」
二人がリビングに入ると、晴子、彩子、木暮、三井がいた。
「ぬ!?何でミッチーとネガネくんが?」
花道にはまったく状況が理解できない。
「ミーティングかなんかっすか?ヤスとか桑田は?」
リョータも分かっていない。
「安田たちは来ないよ。ははは、ミーティングか。まあそんなもんだな?三井」
木暮が笑いながら答える。
三井は不機嫌でなにやらブツブツ言っている。
「それより、練習は!」
花道がしびれを切らしてどなる。
「練習は今日はお休みよ。」
晴子が、ね?と言う感じで彩子をみる。彩子もうなずきながら、
「そう、今日は休み。連絡網回したのに二人とも出なかったでしょ。」
「そうだっけ…?」
花道とリョータは顔を見合わせる。
思い出せないのも無理はない。その時間、二人は熟睡していたのだ。
「じゃあ、なんでみんなここにいんだ?」
「バカねー、このメンバー見てわかんないのー?あ、一人足りないけど」
「そろそろ、もう一回電話してみろ」
ゴリが口を挟む。
リョータと花道は相変わらず首をひねっていた。
彩子が受話器を耳にあてたまま無言のときがずいぶんすぎる。
いったん受話器から耳を離し、ゴリと木暮の方へ首を振り、
受話器を置こうとしたその時、「ガチャッ」と受話器の向こう側から受け取る音がした。
彩子はすぐにまた受話器に耳をつける。
「流川!?」
「………………………………………」
長い沈黙が流れる。
「…………先輩?」
どうやら彼はまだ寝ていたらしい。
声がいつもよりさらに低い。
「先輩、じゃないわよ。さっき、電話したのに何で来ないの?」
「…………」
この沈黙を訳すとこうだ。
(寝ているところに電話が来た。
なぜか、ゴ…前キャプテンの家に来いと言う。
気が向かないのと、チーム練習がなさそう、と言う理由からすっぽかして
一人で練習でもしようと思ってるうちに二度寝してしまった。…まだネムイ。)
長年付き合いのある彩子はなんとなく分かるらしい。
「ったく、あんたは…。まあ、とにかくさっさと来なさいよ?」
「む………」
流川が返事をしぶっていると、聞きなれた罵声が飛んできた。
「バカモン、遅刻だ!さっさと来ォい!!」
ブツッ…ツー、ツー、ツー。
「………」
どうやら行くしかないようだ。
「ブーブー、キツネなんか呼ぶなー!」
花道がさっきからギャーギャーうるさい。
晴子はどことなくソワソワしだしたし、リョータは
「アヤちゃん、流川にやさしくない?」と、ふくれて彩子にハリセンをくらう。
どいつもこいつも色ボケだ。
「お前ら、ちょっとは落ち着け!」
「まあ、まあ、にぎやかでいいじゃないか」
アメムチコンビもコンビネーションを発揮している。
キキキキーーーーー!!ガッシャーーン!!!
「!?」
突然の物音にうとうとしていた三井までも、全員が玄関に向かう。
ドアを開けると流川がいた。
「………ういす」
「どーしたんだ、今の音!?」
心配症の木暮がまっさきに尋ねる。
「イヤ、別に……」
別に、と流川はいうが流川のひいている自転車は明らかに形が歪んでいる。
しかし、流川は日常茶飯事のごとくケロッとしている。
「あっ!!」
晴子が叫ぶ。
ゴリが辺りを見まわすと・…向かいの家の車がかなり派手にへこんでいる。
「あれか…。」
大きくため息をついたところで、その家のドアが開きそうになったので
全員、あわてて中に走りこんだ。
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