「HARUKO」 晴子は2年の教室にいた。彩子のクラスだ。 最初は体育館で練習を手伝っていたが、夏のIHでの対山王戦のときに 各選手の弱点がはっきりしてきたのでいままでのスコアブックを参考に選抜に向けて 冬のトレーニングメニューを組むことにした。今はその作業の真っ最中だ。 部室では少し肌寒いので陽あたりのいい2年の教室で作業を行っている。 こうしてスコアブックを見ていると夏の熱戦がよみがえってくる。 大歓声。 花道のケガ。 兄の涙。 流川から花道へのパス。 そして逆転の合宿シュート。 試合が決まったとき、晴子は笑顔で泣いていた。 (桜木君もがんばってるかな。いつ戻ってこれるんだろう…。) 「晴子ちゃん?…晴子ちゃん!ほら、ぼーっとしない!」 「はっ」 「さっさとやんないと日が暮れちゃうわよ。」 「は、はい!」 晴子は今日はいつもにもましてぽーっとしていた。 その理由はただひとつ。そう、全日本Jrの合宿に行っていた流川が今日、帰って きたからだ。彩子はため息をついた。 (やれやれ。好きねー、この子も。) …………………… 「あーっ、やっと終わった。そろそろ帰らないと。」 彩子がそう言ったとき、ちょうど何かのエンジン音が聞こえた。 「バイク?」 晴子がそうつぶやくと彩子はまったく、といった感じで窓を開ける。もう辺りは薄暗い。 外には練習を終えてバイクにまたがった新キャプテンがいた。 彩子が出てくるのを待っているようだ。 「えー…と、他の部員はまだいるのかしら。晴子ちゃん、体育館の戸締まり確認してきてくれる? あともし誰かいたら今日できたこのトレーニングメニュー渡しといてね。」 「はーい」 「あたしはリョータに渡しとくから。お疲れ様」 じゃあね、と言い残して彩子はバイクの音と共に帰っていった。 ふうっと一息ついて晴子は体育館に向かった。 「………!」 誰もいないと思っていたのに窓からは明かりがもれている。 「お疲れ様でーす」 と晴子は中に入った。……が、誰もいない。 「・………?」 しかし電気はついているしボールも数個転がっている。 「???」 とりあえず戸締まりを確認しにいく。窓をぐるっと確かめて次は部室に向かった。 「ガチャッ」 ドアは簡単に開いた。 「あれっ?開いてないと思ったのに。このぶんじゃ窓もあいてるかな。」 薄暗い中を窓のそばまで行こうとした……そのとき! 何かに足をかけ、トロい晴子はこけてしまった。 「うー…イタイ……電気、電気。」 慎重に立ちあがり手探りでスイッチを探す。 「……!」 なんと、人が倒れている。 晴子は慌てて駆け寄り、顔を覗きこむ。 「!!」 晴子はさっきよりびっくりした。 倒れていたその人は晴子の片思いの相手、流川だった。 晴子は流川につまづいたのだった。 流川だとわかれば話は早い。ただ寝ているだけだ。 しかし晴子はいきなり間近で流川の顔を直視したことに動転し、舞い上がってしまった。 「るっ、流川君!!ご、ごめんなさい!わたしトロいから つまづいちゃって。痛かったでしょう!?ケガは!?」 もちろん寝ている流川から返事が帰って来ることはない。 「・……あれ?」 晴子は緊張していたのか、一気に体の力が抜けてヘタヘタと床に座り込んでしまった。 「…………」 晴子は少し遠まきに流川の顔を見つめた。 今、マネージャーとしてとはいえ、自分が流川にとってかなり近い存在な実感がない。 中学からいつもこの真っ黒な瞳を追いつづけてきた。 でもそれはいつもコートサイドからだったり、 すれちがう程度で流川の意識に入ることはなかった。 それは中学を卒業し、同じ高校に入学しても変わりなく、 IHを前に日本一の高校生になることを決意した流川の中に 自分の存在がないことを知り、そのプレイに涙したこともある。 どんどん遠くなっていきそうなくらい成長するのを 見ていて寂しさを感じるのはしょっちゅうだ。 しかし、そういう流川が好きなのは晴子が一番よくわかっていた▼ NEXT