〜1〜
彼女は倒れていた満天の星々のもと…
ただ彼女の脇腹からは少しずつ少しずつ命の灯火とも言える紅き血が流れ出していた。最後の追跡者を倒したまでは良かったが、彼女も負傷してしまった。
いつもであれば勝利の女神が微笑んでくれるはずであった。
相手が撃った狙いの定まらない銃弾は彼女の脇を難なく通りすぎるだけだった。
しかし、今回は勝利の女神は微笑んではくれなかった。
逆に脇腹に負傷してしまった。
自分の戦士としての勘が外れたということはこのまま死に至ると考ええるものだった。
そして彼女は仰向けになると、瞬く星空を見つめた。「ふふふ……どうやら私にも死期が訪れようとしているようね…
……これであの人のところに行ける………」彼女はかつていたロシアでの恋人であり、上官だった人の面影を見ていた。
いつもは笑顔を見せてくれるあの人は寂しげな表情をしていた。「ごめんなさい隊長……
もうこれ以上生きることは無理かも知れません…
それでもあなたの元へ行くのですから…
そんな寂しげな顔をしないで下さい……」暫くして彼女は光の塊が落ちて来るのを見た。
(遂に私のところにお迎えが来たようね…)
彼女は目を瞑り、自分の魂が肉体を離れるさまをじっと待った。
しかし、待っても魂は肉体から離れようとしない…
代わりに……「おねえちゃん…どうしたの?」
予想外にもその光は問い掛けてきた。声はまだ歳若い感じである。
まるで女の子ともいえるものだった。
内心驚きを隠せない彼女は思いきって目を開けた。
彼女の目の前にはリボンをつけた可愛らしい女の子がいた。
いや実際は年のころは10歳前後と感じられた。
しかし、普通の少女たちと違い、その女の子の姿は宙に浮いており、輪郭は光に包まれているためか存在が希薄に感じられた。(これが天の御使いなのかしら…だとしたら私はもう死んだのかしら?)
しかし、彼女の肉体は少しではあるが痛みを残している。
まだ、死には至ってはいないようだ。
そして彼女は意を決して女の子に質問をした。「あなたは私を迎えに来た天の御使いなの?
もしそうであるならば…私を死出の旅へと連れていってくれないかしら?」「…ごめんなさいお姉ちゃん……私は天使ではないの……
でも…お姉ちゃんをまだ死なせるわけには行かない……
私の運命とお姉ちゃんの運命は共有され、交わるのだから……
とても深く複雑に……
…だから…死なせるわけには行かないの……」女の子がしゃべり終わると同時に女の子の周囲に更なる光が現れ始める。
「お姉ちゃん…少しの間我慢してね……」
言うや光は急激に膨張して彼女を包みこんだ……
白い光に包まれながら彼女はなにやら懐かしい感じを覚えた。(そう…これはまるで…………)
〜2〜
気が付くと彼女はとある部屋のベッドの上に居た。
と、いうより眠っていた。姿は下着のみとなっていたが…(いったいここは……)
周りを見ようと上体を起こしてみる。
ごくありふれた宿屋の一室のようだ……
やがてベッドの上からではたいした情報が得られないと悟ってか…
彼女はベッドから立ちあがった。
そこで彼女は気が付いた…(おかしい…脇腹に受けたはずの傷が無くなっている?
…… なにも痛みを感じないなんて……もしかして…あれは夢?)ガチャッ…
急に近くのドアが開いた。
彼女はとっさに身構えた…
相手がどのような者でも 闘えるようにだ。
しかし、ドアから現れたのは女性だった。
しかもその風貌から極東方面の出身らしい。
それを見て彼女は警戒を止めた。
自分を追っている組織とは違うと判断したからだ。「あらっ?もう目が覚めたの?
さすがに若いと回復が早いわね〜!
でも、2日間まるまる眠っていたのだから無理はしないほうが良いわよ…
なにか飲み物でも戴く?それともなにか口に入れておく? 」その言葉に彼女のお腹の虫が鳴いた。
「ふふふっ、やっぱり先にご飯にしましょうか?
厨房からなにか戴いてくるわ。
ねっ?マリア・タチバナさん…」彼女…マリアはドキッとした。
「どこで私の名前を…」
アメリカ大陸に渡ったとき彼女はマリアの名前を使わずにいた。
いや…暗殺稼業を営むとき本名は捨てていた。
そうしないといろいろと狙われるときもあるからだ。「うふふ…ごめんなさいね……
私たちはあなたをスカウトするためにいろいろと調べさせてもらったの……」「スカウト…?
いったい何のスカウトなんです?
それに…私のことを調べられるほどの組織だなんて……」「あら…?そういえば私たちの自己紹介がまだだったわね…
アイリスこっちへいらっしゃい… 」「は〜〜い☆」
アイリスと呼ばれた少女がドアの向こうから女性の側にやってきた。
「この子はイリス・シャトーブリアン…」
「キャハ♪アイリスだよ〜☆
この子はクマのジャンポールっていうの〜♪
お姉ちゃんに挨拶しようね〜♪」と、言ってマリアにジャンポールと呼んだクマのぬいぐるみを見せる。
しかし、マリアはぬいぐるみを見てはいなかった。
アイリスと呼ばれた少女を見て驚いていたからだ。(まさか、昨晩の…?)
マリアはそう感じた。
目の前のアイリスと呼ばれた少女は昨晩のことを知らないようだが……
容姿、雰囲気共に似ていた。「あれ〜、お姉ちゃんどうしたの?」
「あっ…いや……」
急なアイリスの質問に言い淀んでしまった。
それを察してか助け舟が出た。「アイリス…このお姉ちゃんはまだ疲れているの……
挨拶が済んだらまたさっきの部屋へ戻ってくれないかしら?」「え〜〜、アイリス、お姉ちゃんとお話したいのに〜…」
「あとで、先ほどお話した日本の神話を話してあげるから…
今は…ねっ?」「は〜い…じゃあ、後できっとだよ?」
「はいはい…あとできちんとお話してあげるから…」
「うん♪お姉ちゃんまたあとでお話しようね〜」
と、言ってマリアの視界から消えた。
「助かりました……えっと…」
「ふふふっ…私の名前は藤枝あやめ」
「…藤枝……あやめ…さん……?」
そうつぶやいたマリアの中でなにかが『カチリ』と音を起てた。
まるで、運命の輪が周り始めたかのように………
〜エピローグ〜
数年後彼女は戦場に立っていた。
傍らにはいつも側にいるあの隊長がいる。
彼女の廻りは霊子甲冑と呼ばれるもので鎧われていたが……(ふふふ…私の運命はあの時に決まったのね……)
あやめに出会ったその日に想いを馳せながら、隊長である大神の方を見る。
銀に輝く霊子甲冑は傷だらけでもマリアの目には頼もしく写った。「マリア…もう少しで深奥に辿り着く……
行こう!……皆の未来を守るため……
そして…二人の未来のために……」「はいっ…隊長……」
応えるマリアの左薬指には指輪が輝いていた。
二人の未来を暗示するかのように………