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「メリークリスマス」 そう言って、軽くグラスを触れ合わせる。 小さな澄んだ音が響く中、涼介と啓介はお互いの瞳を見詰めて微笑んだ。 「二人っきりのクリスマスイブも今年で何度目だ?」 普段はほとんど飲まないシャンパンを『今日はクリスマスだから』と空けながら、涼介は 訊いた。 「俺はアニキと二人っきりのクリスマスしか、記憶にねぇーもん」 『物心ついた時から、そうだっただろ?』と続けながら、啓介もグラスを口へと運ぶ。 「でも、アニキが初めて一緒に飲ませてくれるようになったの、嬉しかったなあ」 その時のことを思い出したのか、啓介が頬を緩ませるのを涼介は微笑ましく思った。 (少しは大人になったと思ってたが、そういう顔をするとまだまだ子供だな) 二つ年下の弟がどんなにゴネても、大学に入るまではと、一切酒を飲ませなかった自分に 啓介が散々文句を言っていたのを覚えている。 『駄目だ』と言われるたび、その時は引き下がるのだが、諦めもせずに涼介が家でビール を空けると必ず一緒に飲みたがった。 (そう言えば、俺が飲み会で遅くなるたびに、寝ないで待ってたな………) そんな子供じみた抗議の仕方にしょうがないヤツだと言いながらも、そういう啓介が可愛 いと思ってしまうのだから、自分もかなり終わっているなと、何度も苦笑したものだ。 啓介には今でも内緒であるが、実は、涼介自身は高校生の頃には酒を楽しむことを覚え ていたりする。 自分のことは棚に上げて啓介には飲酒を禁じていたのだから、今思うと勝手な話である が、せめて啓介だけは、という気持ちがあったのだろう。 そんな自分が『特別だぞ』と言って、初めて飲ませてやったのが、啓介が高校3年生の クリスマスだった。 『俺もう18なんだぜ』と膨れっ面で訴える啓介に根負けして、今と同じようにグラス を合わせたのが、もう3年も前のことだ………。 「何考えてんの?アニキ」 「何でもないよ」 思い出し笑い、それも苦笑いをしていたであろう自分を不思議そうに見やる啓介の視線 がくすぐったくて、それだけで涼介は幸せになる。 こんな気持ちになっていることを啓介に知られたら………。 (これ以上甘やかすことになってどうする) 考えて、肩を竦めながら涼介は立ち上がった。 途端に自分の行く先を啓介が目で追う。その余裕の無さがおかしい。 (普段は自信たっぷりのくせに、俺のことになるとコレだからな………) 「上、行くぞ」 「??」 「来ないのか?」 啓介のキョトンとした顔がジッとこちらを見ている。 (最近忙しさにかまけて、相手をしてやってなかったからな………) 『今日くらいは』と、着ているシャツの第二ボタンを開けながら、涼介は意味ありげに 振りかえってやった。 「アニキ…それって」 これ以上は無理と言うくらい目が開かれた後、パアッと啓介の顔が明るくなる。 (この顔が、俺は好きなんだろうな………) 啓介の真っ直ぐな想いに、いつも救われているような気がする。 いろいろ考えなければならないことはあるのだろうが、与えられる感情の中にいる居心 地の良さに、つい身を任せてしまう。 (もしかすると本当は俺の方が、啓介としたいだけなのかもしれないな) 口に出して言わない分だけ、自分の方が情は深いのかもと、苦笑する。 「アニキー!」 啓介が立ち上がって、抱きついてきた。 受け止めて頭を撫でてやるのはいつものことだ。 嬉しそうにじゃれ付く啓介を適当にあしらいながら、涼介は部屋へと続く階段を昇って いった。 終わり |