SECRET:かなえの「過去の記憶」



かなえの「母」である水沢 秋江。
かなえは彼女を「おかあさん」と呼び慕い、彼女もまたかなえを実の娘のように可愛いがっている。

秋江は、かなえのことを「かなちゃん」と呼ぶ。
・・・しかし、それに単なる'愛称'を超えた深い意味があることを知る人は少ない。

X  X  X

かなえの人格は、結晶生命体人工知能に0〜13歳までの記憶を「疑似体験」で与えることによって形成されている。
(13歳以後は現実世界の経験)

・・・実は、その10歳までの記憶には、ある人間の少女の記憶が深くかかわっている・・・

X  X  X

彼女の記憶(0〜10歳まで)は、水沢博士の愛娘(故人)である「水沢 香奈」の記憶がベースになっている。


「娘」の存在(していたこと)は下沢博士は知らない(ことになっている)。
結婚歴があることは知っているが「過去を追求される辛さ」を知っている彼は、あえて自分から問うことはしなかったのである。


相手は参然院教授の元でともに研究をしていた男。
参然院教授は、ときどき香奈の面倒を見ており、香奈にとっても「おじいちゃん」のような存在であった。

・・・しかし、ある事故で父娘ともとも他界することとなる・・・


水沢博士は、悲しみの中で香奈の記憶を研究中の人工知能に写す。
「思考」することはまだ不可能であったが、記憶を維持することはできる「記憶箱」の中に。

この行為は彼女の独断でおこなわれたものであった。
そして、教授はその事実に気づいていた。
研究所の機材を私事に使った背任行為ではあるが、せめて記憶だけでも残してやりたいと考えた彼女の行為を誰が責められるであろうか?

X  X  X


そして参然院教授は、彼女のような人たちの心の支えともなるような、人の心を持った「あんどろいど」の研究に心血を注ぐ。

しかし、教授もまた志半ばで倒れることとなる。

教授は、かつてその「野望」をくじき、今は愛弟子以上に気にかけている相手・・・自らに私淑する科学者・下沢博士を病床に呼び寄せる。
病床で彼は、下沢博士にこっそり事の子細を語る。
水沢博士のこと、彼女の愛娘のこと、そして「あんどろいど」開発のことを。
そして教授は、下沢博士に「自分の研究を引き継いでくれ」と頼む。

過去の「事件」以来、本来の専門分野であったはずのロボット工学を「封印」し、参然院教授に誘われながらも師事しなかった下沢博士であったが、彼の熱意を受け、ふたたびロボットの研究−「あんどろいど」の開発−を決心する。

X  X  X


水沢博士の「AIと心理学に関する理論」、参然院教授の「擬人化義体システム理論」、そして下沢博士の「ロボット工学理論」による技術的ブレイクスルーを加え、9割方完成に近づいていた「あんどろいど」の開発完了には、ほとんど時を必要としなかった。

そして「あんどろいど」の研究が最終段階に入り、AIの教育が始まろうとしていた時、下沢博士は水沢博士を呼び、こう告げるのだった。


「わしのような「おっさん」では女の子はよう教育できんよ。
        「かなえ」の教育は君に全部任せたいんじゃが、引き受けてくれんかね?」



・・・それはちょうどあの日から2年、香奈の2回目の命日のことであった。


X  X  X

かなえは、それとは知らず香奈の記憶を持っている。
もっともそれは、水沢博士の手によって「香奈」とわからないようにされてはいるが(プログラミングではなく暗示に近い)、時にかなえが感じる「懐かしい」気持ち、それは幼い頃に「香奈」が感じた記憶なのである・・・


・・・それは、香奈がかなえの中で生きている証と呼べないだろうか。


▲戻る