ともあれ、私は駅へ向けて全速力で坂道を駆け抜けて行った。
思えば、この時から普段とは何かが違っていたような気もする。



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普段何気なく通過している横断歩道。
私が全速力で通過しようとした時、信号が赤に変わった。

止まらなければ、と思った。
ここは朝でも交通量が多い。
仕方がない事だ。それにこれも「いつもの事」だ。気にするほどでもない。
しかし少々急がなくてはならないかもしれない…

再び信号が青に変わった。
私は自転車のペダルをあらん限りの力で漕ぎ出した。

加速する自転車。
秋も終わりに近づき、冬の空気が混じって来る時分だ。
しかも前日は大雨で、辺りにはまだ大きな水溜りが沢山有った。
私にぶつかってくる冷たく湿った空気はそれだけで私の心を暗くする。
手の感覚が消えて行くのが自分でも判る。
しかし、そんな事を気にしている場合ではない。
「いつもの事」だ。
それに、そんな事を気にして遅刻でもしたら事だ。



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考えてみれば、その日の状況を「いつもの事」と認識していたのは私だけだったのかもしれない。
そもそも私にとっての「普段」とは何だったのか。
「1年にも満たない経験」に基づく「普段」…

「1年未満」という期間…
それは世間一般からすれば、そこから「普段」という認識を産むには脆弱にして薄弱な条件だったのかもしれない。


しかし私はその時、その場所においては、その「普段」と言う認識を絶対視し、
「普段」の外に有った物の悉くを無視していた。

その慢心こそが、
原因だったのだろうか。



そして、事件は起きた。



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その3へ続く