素地を作る
剣道場に入ると、新堂、仁科、杉村が一斉に振り向いた。抜き身を手に持っ
たままだ。
「全員、納刀」
やや慌てたように、三人とも刀を鞘に納める。
「本身を手にしている時は、一瞬でも気を抜くな」
少し離れたところで、百合がにこっと笑った。
「ところで、皆、本身で立法をやっているようだが、どういう風にしているか、
ちょっとやってみろ」
てんでに刀を抜いて、青眼に構える三人の様子を俺はしばらく見守った。木
刀との差を理解しているようなのは良いとして、全員、緊張しすぎだ。納刀、と
声をかけ、自分の佩刀に左手を添える。
「みんな、木刀での素振りはやっているな。それを思い出して、立法に入る時、
上段から振り下ろして青眼に付けるところからやってみろ。これが正確にできる
かどうかで、だいぶ違う」
百合を呼んで、見本を手伝ってもらう事にした。
俺が新堂達に左半身の側を向け、百合には新堂達と正対するように頼む。ど
ういう風な動きになるか、よくわかるように、ゆっくりと抜刀し、そのまま上段
に構えて、ゆっくりと青眼に移行した。
「全員、倣え」
まだぎこちない手つきで刀を抜き、上段から青眼に付ける様子を黙って検分
した。そのまま十五分ほど、立ち続ける。
「納刀する」
これも、わかりやすいようにゆっくりと行い、俺は改めて三人と正対した。
「次に、素振りを行う。最初は、今やったように、上段からまっすぐ青眼に付け
る練習を繰り返してすれば良い。何事も、慣れだ。これができるようになれば、
斬撃の稽古が出来る」
言葉を切って、三人を順次見ていった。
「まだ、真剣は怖いか? 緊張したまま稽古すると、怪我の元だぞ。この前新堂
には言ったが、慣れてくるまでは刃引きした刀を使うという判断もある。焦って
無理をするのが一番いけない」