目次へ朝日奈徹へのメール一つ前に戻る次へ

角度


  剣道場に響き渡る気合声。足を踏む音。十萌、杉村、仁科、三人が一列に並
んで斬撃の稽古をしている。
「そこまで。ちょっと外に出ろ」
  俺が三人を連れて行ったのは、道場の裏手だ。
  支えの上に横に渡した板の上に、湿らせた砂を盛り上げてある。その前に並
ぶように言うと、砂の橋を挟んで反対側に立った。木刀を振りかぶり、一気に斬
撃する。木刀の刃はまっすぐに砂を断った。俺は木刀をあげず、三人に砂の断線
を見るように言った。
「正確に斬撃すれば、当然、このようにまっすぐ砂が割れる。刃は下の板に対し
て垂直になっているわけだ」
  近くに寄って、その様子を三人が検分するのを待ってから、木刀を抜き出し
た。今度は、三人にやらせる番だ。
  始め、の声とともに、三人が一斉に木刀を振りかぶった。鋭い吐気とともに、
三振りの木刀が振り下ろされる。
「よし。自分のをよく見てみろ。まっすぐ垂直に振り下ろせているかどうか、こ
れでわかったはずだ。あ、そんな顔をしなくてもいいぞ。実は、正確にまっすぐ
振り下ろすのって意外に難しいんだ。どうしても左右のどちらかに傾きがちにな
る。でも、これで自分がどういう角度にずれやすいか、把握できただろう?」
  木刀の汚れを落として道場へ戻る。
  三人に木刀を振りかぶらせ、次々に肘を取って角度を修正していった。
「まっすぐ振り下ろせないのは、肘の角度が悪いからだ。左右均等に、正しい位
置にないと、刃筋が歪むんだ。もうひとつはな」
  木刀を青眼に付けさせる。
「握り方を自分の目で、よく確認してみよう。右手が先、左手が手前だ。間に握
り拳一つくらい置く。内に絞り込みすぎたり、外に手首が出過ぎていたりすると、
振り下ろす時に、手首が回ってしまう。これも刃先を歪ませる原因だ。今は、木
刀を振り下ろす事に慣れてきて、一番癖がつきやすい時だ。稽古を始める時に、
必ず正しく握っているかどうか、確認しておいた方が良い」


目次へ朝日奈徹へのメール一つ前に戻る次へ