第3回 引落
「練習してるか?」
開口一番、俺はそう尋ねた。三月は新堂が本土へ帰っていた事もあり、前回
逆手を教えてから一ヶ月以上経っている。最近は仙道先輩から八卦掌を習ってい
るみたいだから、杖の方をどのくらい稽古していたかは、どんなものかと思った
んだ。
「十分ではないかもしれませんが私なりに練習してきたつもりです」
「……本手構え、逆手構えは絶対の基本だから、手は抜けない。ちょっとやって
みろ」
左右の本手、逆手を指定しながら、新堂に繰り返させる。最初は動作にぎこ
ちないところが出たり、癖が出たりしているのを、途中途中で、直す。
そのまま一時間くらいも復習していたか。大丈夫と見極めがついたところで、
俺は言った。
「それじゃ、今度は、引落(ひきおとし)をやってみよう」
杖術と剣術の大きな違いの一つは、剣術なら右からでも左からでも、同じ握
り方をして揮うところ、杖術の場合、手の位置が左右で逆になる事だ。
引落も、当然、右引落と左引落の二種類があるわけだ。
「左引落から始める。元構え」
新堂がぴたりと杖を構える。
「右足を大きく前へ」
わかりやすいように、目の前で実演してみせる。大きくというのは、並足で
一歩踏み出すのに対し、二歩分くらい前へ出すつもりで踏み込むんだ。
「右手で杖先を握り、右手を胸につける。右半身に開き、左手は持ち替える」
この状態で、杖は体の全面を斜めに横切り、杖先が脇より後ろ、床に向かっ
て降りるような形になっている。左手は、だいたい、杖の中程を、杖先に指を向
ける形で握る感じだ。
「もとへ」
左手を持ち替えて右手を杖尾から離し、踏み出した右足に対して、左足を揃
える。
「続いて、右引落を行う。元構え」
新堂の様子を確認しながら、俺は続けた。
「まず、本手構えに付ける」
ここまでは、右逆手と同じだ。
「この状態で、右の親指を離し、右手で持ち替える。そのまま杖を引き落として
左手を持ち替える」
左足を大きく踏み出して、体の前から後ろ下へ落とした杖先の、握っている
根本の方、つまり杖尾を左手で握って胸あたりに付けた。体は左半身に開いてい
る。
「もとへ」
左引落と同じ要領で戻してから、杖は左手に持ち替えて元構えに戻る。
「どうだ、できそうか?」
「……何とか。最初に比べれば慣れてきたと思います。」
新堂の答を聞いてから、俺は軽く頷いた。
「ここまでが、構えの基本だ。続きをやりたければ、次からは、実際の技に入る」