甘さのカタチ


お腹の上でくーすか寝息を立てているしんごくんの頭を、ずっとずっと撫でてやる。
二度目に出会った屋根裏のような部屋のベッドの上で、ゴロンと横になって天窓を眺めていた。
口の中にあるキャンディーが、いつまでもなくなってくれない。
甘くて、口の中がねっとりしていて気持ちが悪い。
「やっぱり、小さな子供は良いね」
座るときしむベッドに腰掛け、腹の上のしんごの頬を指の背で撫でる。
撫でながら。
「まだ、持ってたんだね。あのキャンディー」
自分の腕を枕に、天窓を眺めているランチに目配せ。
いっつも下がっている口の端が、少し、持ち上がる。
「あんたが一番喜んでただろ?」
「君がくれた物だからね」
「何だよ。それ」
ランチの、こういった感じの落着いた笑い方が、すごく好きだ。
「…タバコ、吸わないのか?」
「子供の寝室ではさすがに…ね」
「…あんたも食うか?」
そう言ってポケットを探るから、
「じゃぁ、もらおうかな」
と、にっこり笑った。
しばらくごそごそとポケットを探る。
が、出てこない。
「…悪ぃ。おわっちまったみてぇだ」
ポケットから手を出し、指先で手招きをする。
「別に、ないならいいよ?」
そう言いながら手招きされるがままに近づいた。
首の後ろに手をかけ、ひょいと引っ張られ、つんのめるように鼻が鼻をかすめる。
重なった唇の隙間から押し込まれる甘い舌。
固い物が、カランと歯にぶつかる音。
それと同じ香りのする甘い吐息と甘い声。
「やるよ。甘くて食えたもんじゃねぇ」
口に広がるトロンとした甘さと、甘い感覚と、それから、自分の、大きすぎる鼓動の音。
…なんだか、熱い。
「あ…ありがとう」
シャツの胸のあたりをぎゅっと掴んで。
これだけ熱かったらきっと顔なんて真っ赤だろうな…
そう思ったら、自然と顔がうつむいた。
でも自分よりも下の方に寝っ転がってるランチには、そんな事しても無駄なんだけど…
ランチが、喉で笑う。
こういう時にそう言う笑い方されると…何だかやだな…
恥ずかしさで、少し、眉が寄った。
「良いよな…」
手を伸ばして。
「あんたのそういう顔、すごく、可愛いって思うよ」
意地悪そうに笑って。
頭を抱え込もうと伸ばした手から、すっと避けてやる。
お腹の上に眠っているしんごくんがいる以上、動く事は出来ない。
「こっち来いよ。とどかねぇよ」
余裕のある人なのかと思ったら、すぐに、すねたような顔をして…
君の方が、よっぽど…
「ランチのそういう顔も、可愛いよ?」
おかしくて、くすくす笑いながら、軽く、キスをする。
離れようと、状態を起こしかけたら、ネクタイを引かれた。
引き寄せられた頭をしっかりとつかまれ、かなり強引な、キス。
唇で包んで、その中で舌を這わせ、歯をなぞって。
ネクタイを掴んでいた片手を離して、すこし、上体を起こして。
巧みに、首の角度を変えて、何度も、何度も。
お腹の上のしんごくんが、小さな声を出して、寝返りをうつ。
ビクッとして、そっちを向こうとずらした顔を、追いかけて。
唇にぶつかる吐息は、いまだ甘く。
「…そっちじゃねぇだろ?」
少し低くて、掠れた声で、ささやくみたいに。
ひどく、大人びた感じで。
音がするように何度か唇を吸って、舌に、触れて。
狭い所を逃げる舌を追いかけて、からめて、吸い取って、引っ張り出すみたいに、噛んで。
すごく、ドキドキして、ひどく、セクシャルな…
上がった息と、湿った音と、伏せた隙間から覗く彼の目に、くらくらする。
体が辛くなって、床にひざをついた。
少し低くなった頭の位置に、苦しくないように、角度を変えてくれる。
どこまでも追いかけてきてくれるような、絶対はなしてくれないような。
錯覚に、おぼれそうだ。
何だか、涙が出そうな感じで、息が、喉に突っかかる。
それに気付いたのか、ゆっくりと、唇をはなして。
伏せた目が、穏やかに笑う。
いろんな顔を、見せてくれる。
だから?
だからこんなに感情的になるのかな…?
熱い目の下の柔らかい所に、軽い、キスをする。
二度、三度。
切ないって、こういう事を言うのかな?
顔中にキスを受けながら、そう思った。
今の幸せが大きければ大きいほど、消失点に向かう角度は急になっていくようで。
こんな関係に終わりが無い訳がない事は解る。
だけど、それをふっと忘れて。
忘れてる自分が、恐くなるんだ。
唇に、音のするキスを一つ。
知らぬ間にうつむいていた顔を持ち上げてくれる。
「あんたはいっつも、俺じゃないとこばっかり見てるんだな」
もう一度、音のする。
「俺はいつだって、あんたの事しか見てないんだぜ?」
キス。
優しくされると辛くなる。
もうこれ以上、幸せになんかなっちゃいけないんじゃないか?
溢れた涙を唇でぬぐってもらうなんて、ほんとうは、いけないって事。
解ってるくせに…
彼のカタチに囚われて、初めて自分がカタチを成してる事に…
気付いちゃうんだよ…。



TOP Q小説跡地 裏小説跡地