FIGMENT


トレーラーハウスの扉が開く音。
何をするでもなく、ボケッとモニターに向かっていたスプーキーは、首から上だけを、振り返らせる。
「やぁ、ランチ。こんな夜中にどうしたんだい?」
丸めた肩に、うなだれた首をぶら下げたランチは、溜息を吐くように、ソファーに腰を下ろす。
「忘れ物かい?」
ランチは顔も上げない。
スプーキーは、ランチの代わりに溜息を吐いて、寂しそうに笑う。
「…リーダー」
つぶやくみたいな小さな声。
酸素よりも重たい声は、たゆたうように、足下に落ちる。
「…何?」
しかしランチはそれっきり。
頭は下げたまま。
もう声は、聞こえない。
スプーキーはプラスティックの堅いイスから腰を上げ、身体ごと、ランチの方を向く。
それと同時に、うなだれた首を持ち上げて、急に立ち上がったランチが、PCに向かって歩いてきた。
「あぁ…ごめん。これが使いたかったんだね」
ランチは何も言わず先客の居たイスに乱暴に腰を下ろして、なれた手つきで回線をつなげた。
「調べ物かい?」
最新のサーチェンジャーは、ランチが叩いた単語をすぐさま調べ上げ、幾千もの情報を提供する。
スプーキー。
ずらりと並んだ情報の全てに、共通する単語。
それを一つずつ覗いては、デリートキーを押す。
「…無駄だよ?」
スプーキーは寂しそうに笑う。
覗いては消し、覗いては消し…
スプーキーは、その行為が、痛かった。
しばらく続いた一定のリズムが、最後の一つをデリートして、終わる。
ランチはそのまま、動かなかった。
「…ランチ………?」
もう一度、サーチェンジャーに同じ単語をたたき込んで。
同じ答え。
同じ動作。
繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し………
「…無駄だよ、ランチ」
苛立つ指が、中も覗かずデリートキーを連打する。
指が折れるんじゃないか…?
そう思うほど、叩き付けるように。
エラー音が鳴る。
何度も、何度も。
もう消すべき項目は、残ってなどいない。
それでも、指は叩き付けられた。
「ランチ!」
見ていられない。
スプーキーは、声を荒げる。
「…リーダー?」
ランチは振り返った。
スプーキーは、寂しそうに笑う。
「…無駄だよ……」
軋むような音が聞こえそうな風に、ランチはモニターに向き直る。
「もう………」
無駄だよ………
キーボードに乗せた、骨張った大きな手。
それをゆっくりと持ち上げて、自分の顔の、斜め上あたりに触れようとする。
いつも、彼が居た場所。
手を伸ばせば、いつも、彼が居た。
しかし、その手に触れるものは何もない。
そのままゆっくりと、自分の額に手を当てた。
停止した蒸気機関車が走り出すように、ゆっくりと、それから徐々に早く、笑いをこらえた声が漏れる。
大きく、息を吸った。
喉を通るのは、冷たすぎる空気。
「…あんた…どこに行っちまったんだよ………」
「探しても、無駄なんだよ」
スプーキーは、寂しそうに笑う。
「もう、無駄なんだ」
もう、皆飽きてしまった。
もう、ゲームの電源は消されてしまった。
ピカピカのDCロムは、きれいにケースにしまわれて、探し出すのも、困難なほど。
もう、ゲームは、終わり。
「僕たちに、未来なんて、存在しないんだよ」



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