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「うわぁ!!」 夜の夜中、相変わらずPCを占領していたスプーキーが、突然、声を上げた。 同時に、激しくキーボードが叩かれる音。 「っどうした!?ウイルスか!?」 大掃除を終えたばかりだというのに、 一日足らずで元の有様のトレーラーハウスを片付けていたランチが飛んでくる。 スプーキーは笑いだした。 モニターには、画面いっぱいの奇怪な線、色。 「…何笑ってんだよ。まさかこれだけって事ねぇだろ?早く寄生されたファイルを……」 「いや、これだけだよ」 スプーキーは目を潤ませて笑いをこらえる。 「俺は始めてみるウイルスだな…。知ってんのか?」 「知ってるよ。僕が作ったんだ」 「…は?」 ニトムズの、粘着性のあるテープが巻き付けられた掃除器具を片手に 眉をひそめ、口を開けるランチ。 「1月1日になったらモニターに広がるようにセットしたんだよ。 …でも…ハハハ…僕が引っかかるとは思わなかったなぁ」 自分が仕掛けたイタズラに自分が引っかかったことがそれほどおかしかったのか、 スプーキーは再び笑い出した。 「丁度良い。初詣に行こうか?」 「は?…別にかまわねぇけど、サーバーダウンしてんじゃねぇか?」 「いや、本物の神社に、だよ。きっとそんなに混んでないんじゃないかな」 スプーキーは立ち上がると、ランチを見上げ、にっこり笑う。 「サーバーダウンもしないしね」 神社は、まばらに参拝客が居る程度。 それもお年寄りばかりだった。 「あんたの言う通りだな」 ランチはそう言いながら、お賽銭箱の隣にある両替機にカードを差し込む。 「いくらが良い?」 「チャリンって音がすれば何でも良いよ」 硬貨で、一番高い金額のボタンを押した。 「何か、ありがたみが薄れるな」 スプーキーに硬貨を渡して、軽く首を傾けるランチに。 「神様に、愛想つかされてないと良いね」 そう言って笑い、硬貨を投げた。 「…えーっと…手は叩いて良いのかい?」 「あぁ。叩いて神様を呼ぶんだと」 がらんがらん 頭上にある鈴からぶら下がったカラフルなロープを振るランチ。 ぱんぱん 二人同時に手を叩き、目を閉じ、お願い事をする。 ぱんぱん! …隣から手を叩く音が聞こえた。 パンパンパンパンパンパンパンパン! 「…そんなに手を叩いても、神様がたくさん来るわけじゃないよ。ユーイチ」 スプーキーは笑いながら、片方だけ目を開ける。 「すっごーい!なんでわかるのぉ?」 「そんな馬鹿な事すんの、一人だけだって事でしょ」 後ろにはユーイチに無理矢理連れ出されただろう事が一目でわかる形相のシックス。 「凄いのはお前らだぜ。何でここだって解ったんだ?」 「トレーラーハウスのモニターを見て、来たんだろう?」 なんだか嬉しそうなスプーキー。 「うん!シックスは解らないって言ってたけど」 「っつーか、あれ何よ?」 「モニターって…あのウイルスもどきの事か?」 理解不可能な約2名。 「ウサギさんと神社の絵が描いてあったから、ここかなぁ?って思ったんだ!」 「ハハ…正解」 「………」 「……絵…?」 未だ理解不可能な約2名。 「ウサギと神社…?」 「あれ、絵だったの!?」 「え?本当に解らなかったのかい?」 「はいはーい!オレ解ったよぉ!!」 一人跳ね回るユーイチ。 「ウイルスで良くあるアレじゃねぇのか?」 「じゃあ、あの赤いのって、神社だったワケ?」 「うーん…マウスで描いたからなぁ。ちょっと解りにくかったかな?」 「あ!オレおみくじ引く〜!!」 一人走り出すユーイチ。 腑に落ちない約3名。 「早く早く〜!」 ユーイチはさっさとおみくじを引いて、開けずに皆が引き終わるのを待っている。 「こーゆーのって案外アテにならないって言うじゃん」 「まぁ、縁起物だしな」 「白いウサギの色使いは難しいしね…」 「みんな引いた〜?開けるよぉ?」 各自思い思いの心中で、おみくじを開く。 「あ!あったり〜!!大吉だって!」 「おみくじに当たりもハズレも無いってーの。…吉ね。こんなモンでしょ」 「何だ、凶かよ。失物出ず…だと」 「ハハハ…すごいや…」 下がりきった眉を極限まで下げた、情けない表情のスプーキー。 「大凶…だって。どうりで」 「そのせいでリーダーの絵が理解されないワケじゃ無いと思うケド」 心ない発言をさらりと言うシックス。 「甘酒配ってるみたいだよぉ!オレ甘酒好き〜!!」 「リーダー。飲んで忘れちまえよ。甘いの好きだろ?」 「甘酒で酔えるとは思えないけどね…」 肩を落とし、ランチ背を押され歩くスプーキー。 BGMは、昭和枯れススキだった。 その画力の貧しさ故に…。 「…誰だよ、甘酒じゃ酔えねぇとか言ってたヤツは」 「美味しかったね〜!」 スプーキーに肩を貸したランチの隣に、シックスに肩を貸したユーイチ。 「うーん、美味しかったれぇ…ウサギ色らったけろ…」 ろれつの回らないスプーキーは、未だに根に持っているようだ。 「けろって言っららカエルれひょ!」 けたけた笑うシックス。 これはランチの真似をして御神酒を飲んだ当然の結果。 「カエルはみろりらから、描きやすいれぇ…カエル年らんれらいけろれ…」 もう何を言っているのか解らない。 「あ、オレ帰る!初夢見るんだ〜!」 「じゃぁ、タクシー拾ってやるからシックス送って行ってくれ」 「俺は帰ららいれ!?」 「ランチはどうするのぉ?」 「アジトの方、かたしてから帰る。…どうせ電気付けっぱなしだろ?」 案の定、消し忘れて来たユーイチは、誤魔化すようにへへっと笑う。 「あ、タクシー!」 千切れんばかりにブンブンと手を振り、タクシーを止めると、 「じゃぁね〜!良いお年を〜!!」 とシックスを詰め込んだ。 「あぁ、良いお年を」 「俺は帰ららいっれ!!」 シックスの主張をよそに、タクシーは走り出す。 それを見送り、ランチは再び歩き出した。 「…あれ…?ふらりは?」 「今タクシーに乗って帰ったぜ。…寝てたのか?」 立ち止まった瞬間に眠れるとは、器用な人である。 「寝るなら負ぶされよ。腰が痛ぇ」 身長差のため、かなり身体を曲げていたランチに限界が来たらしい。 「あ…うん。もうらいりょうぶ。ひろりで歩けるよ…」 そう言って、ランチの肩に掛けていた腕を解いて歩き出すスプーキー。 しかし、足取りはおぼつかない。 そのまま壁にぶつかり、動かなくなった。 「リーダー!そこで寝るなよ!?」 「え…?……あぁ…ハハハ…」 振り返った顔に、開かれた目は無い。 完全な、おねむモード。 「…駄目だな。頼むから負ぶさってくれ」 溜息混じりにスプーキーの前にしゃがみ込み、腕を肩に乗せ、両足を掴んで立ち上がるランチ。 「…ごめんよ…?」 「あぁ。どうせずっと寝てないんだろ?ついたら起こしてやるから寝てて良いぜ」 「…うん……ありらろ………」 語尾はすでに寝息だった。 ランチは静かに苦笑を漏らす。 「…初夢くらい、良い夢見てくれよ…?」 トレーラーは、例によって例のごとく、皓々と明かりが付いていた。 とりあえず寝こけているスプーキーをソファーに下ろし、毛布をかける。 途中だった掃除を適当に終わらせ、スクリーンセイバーの流れるモニターを眺めた。 マウスを少し動かすと、スプーキーが描いた奇怪な線と色の画像。 「…ウサギ…か?」 言われてみれば、ここが耳かもしれない。と思われる程度には理解できなくも無い。 「って事は、この赤いのが神社か?…いや、ウサギの目かもしれねぇなぁ…」 苦笑しながら、エスケープキーを押す。 パスワードの入力を求められた。 「…パスワード?」 とりあえず、スプーキーのいつも使うパターンのパスワードを、いくつか打ち込んでみる。 が、違うらしい。 静かなトレーラーハウス内に、大きすぎるエラー音が響く。 くすくすと笑う声が、ソファーから聞こえてきた。 「悪い。起こしちまったな」 「…答えは、表示されているよ?」 片方だけうっすらと目を開けたスプーキーは、それだけ言って、また目を閉じる。 口元は、笑みの形をしたままだ。 その幸せそうな寝顔に、思わず、表情が緩む。 大凶。と言うおみくじは、これ以上悪い事が無い。と言う意味も、あるらしい。 わざわざ神様の御前まで寒いさなか出かけて行って、お賽銭をあげて、御神酒も飲んできた。 せめて俺の願い事くらいは、叶えてくれよ? 「表示…?」 モニターをまじまじと眺め、まさかとは思いながらも、キーボードを叩く。 rabbit エンターキーを叩くと、あっさりと画面が切り替わった。 あけましておめでとう! これもマウスで描いたのか、かろうじて読める程度のへったくそな文字が現れ、消えていく。 残された、いつもと変わりのないデスクトップを目前に、ランチは笑いを堪えきれなかった。 「表示って…一番難しいパスワードだぜ」 後日、レティキュリアンから連絡があった。 新年早々現れた謎のウイルスは、各地にかなりの被害を発生させたらしい。 名のあるハッカーから解除の仕方を教えてくれ。と言う連絡もあったそうだ。 「おかげで一儲けさせて貰ったけどねぇ」 そう言ったアルファも、しばらく引っかかって身動きがとれなかった。 と言うのはベータからの口コミ。 「うーん…簡単すぎて難しかったのかな?」 「いや、違うと思うぜ」 「ねぇ、スプーキー。どうしても解らないんだけどぉ…」 ベータは唇の下に人差し指をあて、首を傾ける。 「なんでrabbitなのぉ?」 情けなく笑うスプーキーは、答えにならない答えを返した。 「…芸術って言うのは、後世代にしか理解されない物なんだね」 「なぁ、あんた、悪い事は言わねぇから、初詣の願い事、変更してもらえ」 「え?変更?」 「来年はもう少し絵がうまくなりますように。でしょぉ?」 ベータの言葉に、被害者は一斉に頷いた。 その頷いた首の数は、軽く日本の人口を超えたと言われているが、定かではない。 本当はもっと多いはずである。 「あ、そうか。日本国外に干支は通用しないからかな?」 「いや、それも違うと思うぜ………」 |