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リーダーが死んで一年がたった。 一年ぶりのトレーラーハウスは嘘のように冷たく、 それが鉄の固まりだと初めて思い知らされる。 「トレーラー…だったんだよな…」 いつもそこにいたリーダーは、もういない。 ただそれだけの事なのにランチにはその鉄の固まりを 「ハウス」と呼ぶ事がもうできそうになかった。 一年前に自分が切った発電機のスイッチをオンにする。 モーターの音。 一年間何も手入れをしなかったそれが 一年前と同じに動く事に軽い感動を憶える。 いつもリーダーはこういった物を どこからか仕入れてきてはランチの前に広げて見せた。 「君なら何とかしてくれるんじゃないかと思ってね」 まるで病気の子犬を拾ってきたような顔をして 「どうかな…?」 と問う。 ランチの言葉はいつも決まっていた。 「買ってきちまったんだろ?……… どうにかするしかねぇじゃねーか…」 そう言いながらも玩具を買い与えられた子供のように 目を輝かせるランチを見て、穏やかに目を細めるリーダー。 それ見たさに必要以上にはしゃいだ時もあった事を思い出し、 ランチは暗証番号を打ち込む事をためらった。 この扉を開けたら、認めなくてはいけない。 リーダーがいない事を。 ……………………………………。 肺の中身をゆっくりと吐き出す。 指が憶えている暗証番号。 Enterキーをたたく。 扉がスライドし、光が漏れる。 こぼれ落ちるホコリが誰もいない事を語っていた。 期待はしていない。 そう言い聞かせ扉をくぐった。 しかし一番最初に目が行くのは一台のPC。 いつもリーダーが使っていたもの。 そこにあるべき背中は当然なかった。 「………………………………っ」 自嘲の笑み。 …当たり前だ。…リーダーは死んだのだから。 リーダーにしか使いこなせない 自作のソフトやショートカットの詰まったPC。 …こいつらも…一人ぼっちだったんだな… もう、たばこの匂いすら残っていない。 ホコリの積もったPCにその大きく無骨な手を乗せ それを掃い、電源を入れた。 椅子に座りPCが立ち上がるのを待つ。 と、ランチは思い出したようにポケットを探った。 「………アンタにみやげだ…」 PCの上に乗せる。 「アンタがいつも無いって騒ぐもんだから… 持ってるのが癖になっちまってな」 くすんでもなお安っぽさの残る メッキの剥れかけたゴールドのライター。 タバコをくわえるまでライターの有無に 気付かないリーダーは、その吸いそびれたタバコを そのままポケットにしまい、ポケットの中を こぼれたタバコの葉でいっぱいにしている事がよくあった。 これだけひっきりなしにタバコを吸っているにもかかわらず どうしてタバコがよれるのかと不思議に思ったが、 どうやらそういった理由らしい。 それを見かねたランチが、 リーダーのタバコの火付け係をかってでたのだ。 しかし、そのライターも、もう必要ない。 ライターから目をそらし 白い文字が点滅する真っ黒なモニターを見る。 「…!?」 ランチはぎょっとした。 ……俺は………泣いてるのか……? モニターに写ったその顔には、 サングラスをつたって落ちるほどの大量の涙を流す自分がいた。 急に胸が苦しくなり、キーボードに突っ伏す。 額で押されたキーが 意味の無い文字の羅列となってモニターをうめていく。 自分の感情が解らなかった。 何故に涙が出ているのか。 何故にこんなに苦しいのか。 いったいどうしたらいいのか…なにひとつ。 「………なーにおセンチになってんのよ?」 「…!?」 急にかけられた声にランチは驚いた。 「来てんじゃねーかなってね。 一周忌ってヤツなんでショ?今日。 アンタそーゆーのにうるさそうだから」 シックスはそのまま壁にもたれ、ちらりとランチを見ると いやらしく口のはしを持ち上げた。 「まさかアンタのそんな姿が拝めるなんて 思いもしなかったケドね」 「うるせぇ。ユーイチはどうした?」 今、顔を上げる事なんて死んだってできない。 ランチはそのままの体制で言葉をはいた。 「またどーしてアンタは俺とあんな奴をワンセットにするかな…」 大袈裟にため息を吐いたシックスは 入り口の外にしゃがみこんでいるユーイチを あごでしゃくって見せる。 「アンタの後ろ姿見たら急に泣き出しやがってよぉ。 何でもアンタとリーダーがダブってみえたとか言って… うるせぇから置いてきたってワケ」 「………………………………………」 あのころと同じだ。 リーダーがいて。それが当たり前で。 シックスとユーイチがもめているのを 困ったように、でも笑いながら仲介しに行く。 だけど、もう、リーダーはいない。 「………………………………………」 「……………っ案外さぁ…忘れらんないモンなんだな… こーゆーのって」 その重たい沈黙に耐えかね、ぼそっと音をもらすシックス。 「姉さんの事は…あんなに簡単に忘れちまったのにさぁ… リーダーの事となると…何にも…忘れらんねーんだよ… リーダーが…死んだって事以外はサァ…」 語尾は聞き取れなかった。 片手で目頭を覆い上を向くシックス。 頬を伝いあごからこぼれる。雫。 誰もが愛していた。 誰からも愛されていた。 誰の事も愛してくれた。 リーダーは、もう、いない。 こんなにも好きだった事に、いまさら気付いた。 笑って別れようと、そう言って結成されたスプーキーズ。 それが、当然だと思っていた。 誰かが死ぬなんて思ってもみなかった。 それが、リーダーだとは、誰も… ………ずっといっしょにいられるって、こころのどこかでおもってたんだ……… …ポーン……………アタラシイメールガトドキマシタ。 「…!?」 その機械的な音に誰もが注目した。 …嘘だ…。そんなはずはない…。 期待なんかしちゃいけない… 手が震え上手く操作ができない。 …でも…っ… ようやくポインタが合う。 …開けっ…早く…! 広がる青い画面。 中央のロゴに重なるように、短いメッセージ。 「ありがとう」 改行。 改行。 長い長い改行の間。 そしてページの終わりの右端に見なれたスペル。 「SPOOKY」 こんな出来事も何年か後には記憶のかなただ。 事件があり、人が死に、それに涙する。 人が生きていくうちに何度か出くわす当たり前の非日常的な一時。 忘れがたい出来事、しかしいつかは忘れてしまうもの。 その涙の理由も、感動も。悔しいほどに。 だから僕らはこう思うんだ。 …いつもと何も変わらない一日だった。 …デモボクラノブンキテンハ、モットモオオキクマガッタミチヲエランデイタ… 「リーダーの示す道は、いつだってぜんぜん先が見えねぇ状態で。 でも途中で気付くんだよな。自分が何やってるかって」 「そうそう!それが面白くって 俺リーダーの後ろついて歩いてたんだもん」 「明らかに邪魔くさそうだったけどなっ」 「えぇー!?そんなことないよぉー」 「いーや、ぜっっっっったい邪魔だったね。あれは」 「…シックスにはそう見えたのか?」 「…え?」 「リーダー、楽しんでたんじゃねぇかな。 そういった事もふくめて」 「そぉだよ!リーダー、シックスみたくいじわる言わないもん」 「ばーか。それじゃあやっぱり邪魔だったんじゃねーか」 「え…?…あれ…?うっウソだよぉそんなのー! ねぇー?ランチぃ?」 「…さぁな」 「あれ…そういやアンタ発電機オフにしてきたっけ?」 「…あれはいいんだ。あのまんまで」 「えー?なんでぇ?泥棒とか来ちゃったらどーするの?」 「ばっっっかじゃねぇの!?お前っ。 何のためのセキュリティだよっ! ………でも、なんでよ?ランチ」 「…あのトレーラーハウスはリーダーのもんだろ?」 「……………そうだけど?」 「いいかげんてめぇで散らかしたもんはてめぇでかたせって 説教してやろうと思ってな!」 彼等が後にしたトレーラーハウスから まるで狼煙のように 煙が一筋 立ち昇っていた。 |