少し複雑な食物連鎖


「ねぇユーイチ。キリンの首や象の鼻がどうして長いか、知ってるかな」
ランチの肩に足をかけ、小さなリスのように所定の場所で落ち着くユーイチに尋ねる。
「しらなーい。…どうして?」
ユーイチはふかふかのドレッドが気に入っているようで、
よくランチに肩車をしてもらっては、その頭をこね回し、ランチに怒られていた。
肩車を「してもらっている」…と言うのは、少し語弊があるが…。
ランチはランチで、もう諦めてしまったのかムスッとしたまま怒る気力も無いようだ。
「キリンや象が好きな木の実は、高い所にあるだろう?
 だからそれを取りやすいように進化したんだよ」
口にくわえたままのタバコが喋るたびに揺れて、ランチはそれが気になってしょうがない。
ユーイチを肩に乗せたまま、灰皿を探しスプーキーの前に持ってくる。
「あぁ…ありがとう」
無言でしかめっ面のランチを気遣うように、同情の笑みを向けるスプーキー。
重しの乗った肩をすくめて、ランチはうんざりしていた。
過去に何度も、髪に触るな! 土足で肩に乗るな! と大騒ぎをしていたが、
言うだけ無駄だったようだ。
逆にかまってもらえる分、長居をする。と言う事を学び、
ようやく、ユーイチがあきるのを黙って待つ事を覚えたようだった。
「じゃぁ、どうして木の実は高い所になるか、知ってるかい?」
話を聞き、考えている間はユーイチの手が止る。
そうして少しは被害を食い止めてやろう。と言う作戦なのだろう。
ランチはそう思っていた。
「高い所の方が、お日様に良く当たるからでしょ?」
あまりその答に自信が無いのか、少し首を傾げながらスプーキーの言葉を待つユーイチ。
…本当に小動物みたいだ……。
その仕種に思わず優しい顔になるスプーキーは、
「それもあるけど…」
と、本当は言いたい事を遠回しに例えて言った。
「木は、昔はそんなに背が高くなかったそうだよ。
 でも、低い所にあると、たくさんの動物に熟す前の実を食べられてしまうだろう?
 実を取られたくなかったから、背が高くなったのかもしれないね」
「リーダー。言いたい事は良く解るけど、それじゃ通じねぇと思うぜ」
ポケットに手を突っ込んだまま困ったように笑うランチに、
「あれ…?そうかな…」
と少し不思議そうな顔をして、言葉を続けた。
「じゃぁユーイチ。ランチはどうして背が高いと思う?」
スプーキーが言いたい事など、ユーイチは、とうの昔に解っていた。
「…サルは木の実を取るために木に登るよ?だからオレも登るの」
頬を膨らませたユーイチは、ほおぶくろに木の実をためているようにも見える。
それが少し可笑しかった。
「スプーキーは、オレがランチと遊んでるの、嫌なの?」
…鋭い事を言う…
ランチは一瞬ギクッとして、スプーキーの顔色をうかがった。
しかしスプーキーはいつもと変わらぬ底の見えない笑顔を絶やさない。
「べ…別に嫌じゃねぇよなぁ?リーダー」
何とかフォローしようと口を割って出て来た言葉は、まったくフォローになっていなかった。
「そうだなぁ…少し、嫌かな」
とんでもない事を言い出すスプーキーに、ランチの焦りは更に上昇していく。
「…っリーダー?」
「だって、僕だってユーイチと遊びたいと思ってたんだよ?」
擬音が聞こえそうなほどニッコリと笑うスプーキーに、
見る見るユーイチの機嫌が良くなっていくのが解った。
「しょうがないなぁ」
ぴょんっ…と、かなり高さのあるランチの肩から飛び降りる。
ユーイチは、スプーキーに負けないほどニコニコした顔でランチのコートのすそを掴むと、
ぐいっと首をもたげてランチに言った。
「ごめんねぇ。また後で遊んであげるから!」
…俺は遊んでもらってたのか?
腑に落ちない眉と、苦笑のもれそうな口元で、
「あぁ…」
と言うしかないランチ。
たぶんそんな返答など聞いてはいないだろうユーイチは、
ソファーベッドに腰掛けたままのスプーキーの横に、ぱふん…と座って、
「…何して遊ぶ?」
そう言うと、少し照れくさそうに、へへ…っと笑った。
難を逃れた。と、早々に立ち去るランチの背中を確認してから、
ユーイチは、スプーキーにしか聞こえないよう小さな声で問い掛ける。
「…オレと遊びたいって言ったの、わざとでしょ」
「ん?そう思ったのかい?」
スプーキーは、小さく笑う。
「やきもち焼いたの?」
同じようにクスクス笑うユーイチ。
「そうかもしれないね」
スプーキーは、ユーイチの頭に手を乗せて、内緒話をするように引き寄せた。
「だって、ランチも好きだけど、ユーイチも好きだからね」
「オレも、ランチ好きだけど、スプーキーも好き!」
でもスプーキーはランチの方が好きなんでしょ?
そんな事は解っていても、ユーイチは言わないし、
ユーイチが言わない事も、スプーキーは知っていた。
少し離れた所から、ランチはちらりとその様子を眺めていた。
…まったく。似た者同士だな。
そう、心の中でつぶやいて、今度は遠くでその仲良さげな様子を
いじけたように眺めるシックスの相手をしに行くランチ。
こうして、スプーキーズ内の調和は、日夜、守られているのだった。



TOP Q小説跡地 裏小説跡地