偽りの王が見る夢を


夢を、見るんだ。
生まれたばかりの無垢な魂が、汚れた物の手により汚されていく様。
生まれたばかりの文明が、それに寄生する物の手により汚されていく様。
生まれたばかりの赤ん坊が、現代社会に生きる者達の手により汚されていく様。
そんなのは駄目だ!
僕が…僕が助けてあげなければ…!
マニトゥと言う名の、汚された、この世界を…
僕の…この…選ばれ…た…力…で………



「裸の王様の話を…知っているか?」

体が半分沈み込むウォーターベッド。
艶光する黒いシルクのシーツ。
下界を一望できる壁一面のガラス窓。
派手で下品な装飾が目障りな薄明かり。
なんて、悪趣味な。

「王様は、煌びやかな衣装を身に纏っているつもりだった」

素肌に羽織った手触りの良いシャツの下に、手を滑らせる。
沈み込むベッドに腰掛けた背中から、落ちる髪の隙間に舌を這わせ。
薄い体の側面を、胸からひざまで、焦らすように、撫でて。

「王様のその頑ななまでのイメージが、あるはずの無い衣装を、あるものにさせていた」

シャツの肩が、片方だけ落とされる。
漆黒のシャツ、シーツの中に痛いほど白い肌。
吸収する黒。反射する白。
まるで、飲込まれていくかと思われるほど。

「だとすると、彼の国そのものが彼のイメージによる架空の物だ。と言う説も、
 無いとは言い切れない。そう思わないか?」

「…何が言いたい」

窓の外を見ているようで、実際何を見るでもない門倉。
薄く開いた、まるで死んでいるような目。
掠れた、感情の無い声。

「これは失礼。おとぎばなしはお気に召さないようですな…キング?」

喉で、笑う。

「…くだらない話だ」

僕の築いた地位が、僕の物では無いと言いたいのか?
王たる地位をを夢見た妄想だとでも言いたいのか?
僕の力は、僕の力だ。
誰の物でもない、持って生まれた、天性の、才能。

「ふふ…実にくだらない話だよ」

クッ…と、もれる笑みをこらえる。
体に回された腕を引かれ、軽い音を立てて、ベッドへと沈んだ。
…これだけの地位を持つ物すら、僕の才能に嫉妬心を抱く。
僕を征服したいのか?
したければすればいい。
僕はそれを利用するだけ…

「ふ…クックックックッ………」

「…何がおかしい?」

幼い子供に問うような、甘ったるい声色。
浮いた肋骨を開いた手のひらで一本一本なぞる。
ごっそりとえぐられたようなアバラの下の腹部の皮を噛んで。
水が流れるように、中央にある窪みに向かって、舌を這わせる。
反応する、体。

「…っ………西次官…おとぎばなしは結構だ。今君がすべき事は一つ…だけ…」

「…何だね?」

鳴り止まない壊れた笑い声。
漏れる声すら、おかしさを誘う。
茶番。
芝居。
化かしあい。
勝者は己だと信じて疑わない敗者達。

「…私に……夢を見させるな………」



この世界は僕が助けなくては。
汚れた魂を糧にせざるをえなかった、哀れな魂。
マニトゥ。
何をそんなに共鳴する?
僕が、助けてあげるよ。
だって僕は、世界を救う事の出来る、ただ一人の…



自分の物ではない何かの意志に操られるように、
自分と、そうでない物が綯交ぜになった夢を見る。
良くない夢だ。そう直感した。
…僕に、夢を見させるな。

「王様の、御命令とあらば…」

…化かしていると思っている人間ほど、化かされている事実。
その皮肉で馬鹿げた真実に
笑いが
止まらない。



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