切り落とされた魅了の傷痕



人を殺す事を、何とも思わなくなったのは、いつからだ?
そして、人を殺さなくなったのは、いつからだったろう。

悪党は殺しても良いとか、
そのテの免罪符をかかげるつもりは、さらさら無かった。
腹が減ったら魚を捕まえ、
陸にあがればウサギだって殺して食う。
それと同じ。
ちょっとマトモなメシが喰いたくなった。
ちょっとウマイ酒が呑みたくなった。
だから手っ取り早く賞金首を捕まえた。
下手打ちゃ殺しちまう事だってある。
相手だって死に物狂いだ。
最初の内は、いつだって殺し合だった。
負けやしなかったけどな。
負けない変わりに、人を殺した。
殺さなきゃ殺されるくらい、弱かった。
海ってのは、思った以上に広いって事だ。
井の中の蛙ってトコか。
でも、誰にも負けるつもりはなかった。
だから躊躇いもなく、殺せた。
それが強さだと信じた。

斬った数だけ、強くなれる。
殺されそうな時ほど、神経がキリキリに細くなって。
頭の中は真っ白なクセに、相手の姿と、
そのまわりから霧状に立ち上るものが見えた。
心臓の音は止まり、
刀を握る手は、いくら力を込めても、変わらない。
ゆっくりと、動く。
本来のスピードは意味をなさない。
すべてが、ゆっくりと。
空高くから手足を糸で吊られた俺がいる。
糸の先には、自分を見下ろす、俺。
命じれば、
硬い体は跳ね上がるように、
意志のままに。
すべては、その一瞬の為にある。
何よりも、得難い、一瞬の為に。

狙った海賊の大半はそれなりの大御所で。
ガキの俺をバカにして、
同じくらいガキの雑用に、相手をさせたヤツが居た。
そいつはビビって泣いたんだ。
殺せない
そう言って泣いて賞金首に懇願して。
みっともねェって、鼻で笑った。
ガキ一人殺せねェで何が海賊だ。
だけどそいつが、一番マトモだったんだ。
今なら解る。
笑って人を殺せるようになっちゃァ、
そいつは剣豪じゃねェ。
タダの人斬りだ。
狂人にしか、なれねェよ。

殺す必要は、なかったんだ。

幾度か死線を潜って来れば、解るようになる。
幾人か人を殺してくれば。
幾人かに殺されそうになれば。
簡単に行き付ける、答えだ。

殺さずにすむ程、強くなりてェ。

刀を振うのは、最高だ。
何よりも、一人になれる。
何よりも、自由だ。
時間すらも、操れる。
視界に入れたい物しか映らない景色に。
月さえも、その背に消えるだろう。


OP小説跡地