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「ランチィ〜!歩くの速いよぉ!」 あふれ返る人の波の中から、姿の見えないユーイチが大きな声を上げた。 「そんなにちんたら歩いてたら日が暮れちまうよ」 かなりげんなりした風に振り返るランチ。 「あ?リーダーはどうした?」 人込みの中を巧くすり抜けながら、足を止めたランチに駆け寄ったユーイチは、 「あっち」 と、はるか後方を指差した。 建ち並ぶ露店。 おもちゃがたくさん並んだ店をニコニコ眺めながら、のんびりと歩いている。 しばらくしてようやく、立ち止まって彼を待っている 頭一つ飛び出たドレッドに気付いたスプーキーは、 名残惜しそうに露店に視線を残しながら、 彼にとっては精一杯の早足で、彼を待つ者達の所へ近寄った。 「おもちゃのピストルがあったんだけど、シックスに買っていってあげたら喜ぶかな?」 大きなため息。 何で俺がこんな子守りに付き合わなきゃいけないんだ? 誰の目から見てもそう受け取れる長くて深いため息を、 ユーイチとスプーキーは見ようともしない。 「あ!綿菓子!ねぇ、ランチィ!あれ買ってもいーい?」 「あー、綿菓子かぁ。美味しいんだよね。僕も買ってきても良いかい?」 「ハッカーっつったらハードボイルドでショ!?お祭りなんて行くワケないじゃん!」 そう言って留守番を決め込んだシックス。 しばらくその袖を引いて、何とかシックスを動かそうと必死になっていたユーイチは、 「いいよぉ!ランチと一緒に行くから!」 と、突然、矛先を変えた。 「はぁ!?」 素っ頓狂な声を上げたランチと、ぼけっとその様子を見ていたスプーキーの腕を掴み、 トレーラーハウスを飛び出すユーイチ。 引きずられるように、狭いトレーラーハウスの出入り口に突っかかる二人を ちからまかせに引っ張って、ここまで連れてきた。 「こういう時のユーイチはほんとにパワフルだね」 そう言って苦笑しているリーダーの隣で、ランチはすでにげんなりしていた。 このメンツじゃ、子守り決定だ。 まぁ、シックスが居た所で何も変わりはしないのだけれど。 二人はお互いの綿菓子をつまみあいっこしている。 どっちのだって同じじゃねぇか… いつもよりも1センチ近く口の端が下がっているランチに、 二人は同時に綿菓子を突きつけた。 「…いらねぇよ」 ぷいとそっぽを向き歩き出すランチの後ろを、 「美味しいのにね」 「ねー?」 と、大きな綿菓子に半分顔を埋め、楽しくてしょうがないといった感じでついていく二人。 「一周回ったら帰るからな!」 ………返事はない。 「おい聞いて…」 振り返る。 またいない。 …もう勘弁しろよ… その場でしゃがみこみたくなる衝動をぐっとこらえる。 「ハハハ…ランチは本当に足が速いなぁ…」 少し息が切れたようなスプーキーが、人の隙間から姿を現す。 「もォ!ランチ、速いってばぁ!」 ちらちらと見え隠れする黄色い物体が、ぷりぷりしながら飛び出した。 「おまえらが遅…」 「あ!」 …人の話なんて聞いちゃいねぇよ。 帽子の耳が立ち上がるほど勢いよく。 「オレ良い事思い付いた!」 ころころとよく変わる表情で。 「ランチ!手ぇつなごうよ!」 「バカ言ってんじゃねぇ」 即答。 当然だ。そんな恥ずかしい事できるか! 「えぇ〜?何でぇ〜?」 …まずい。このごね方はまずい。長引くやつだ。 「いいでしょぉ〜?オレが迷子になっちゃってもいいのぉ〜?」 「…帰る道ぐらい知ってんだろ」 「…ランチ」 眉を少し下げたスプーキーが、困ったように笑いながら、視線でユーイチの方へ促す。 つないでやれって言うのか!? …くそ…もう二度とこいつらとは表なんか歩かねぇぞ… そう心でつぶやき、 「…ほら」 と、投げ出すように手を差し出す。 「わーい!」 綿菓子を持ち替えて、ぐるぐるに腕をからめて、ぎゅーっと手を握って。 「だからランチ大好き!」 そう言って、ぶら下がるみたいにびったりと体をすりつける。 女の子と間違えそうなほどに可愛らしい抜群の笑顔。 …まいるよな…何で許せちまうんだろう。 ユーイチの笑顔は、そんな風に、少し穏やかな気持ちにさせてくれる。 しかし、ユーイチは容赦しない。 少しゆるんだそのぶっちょう面に追い討ちをかけるように、 「リーダーは?」 そう、問い掛けた。 「え!?僕もかい?」 驚いたその顔をそのままランチに向ける。 そりゃ、ランチの眉だって寄るだろう。 「だってリーダーが一番迷子になりやすいもん」 ねー? って、ランチを見上げる。 ユーイチの満身の笑顔と、スプーキーの困ったような笑顔。 どちらにも逆らえない。 「…だってよ」 肯定の意味合いでその言葉を吐き、ランチはポケットからしぶしぶ手を出した。 その差し出された手にゆっくりと自分の手を近づけるスプーキー。 上目遣いに、ちらり…と、ランチを見る。 …いいのかい? …しょうがねぇだろ。 無言の会話。 触れる指先。 それを包み込むように、優しく、指を折り曲げる。 大きな手のひらにほとんど収まってしまったスプーキーの、 ほんの少しだけ飛び出た指先を、ランチの手の側面に引っかけた。 「ハハ…何か、親子みたいだね」 照れ隠しのつもりだろう台詞が、さらにランチの羞恥心をあおる。 「…ハタチ前でこんなでかい子供がいるのか?勘弁しろよ」 冗談で返すしかないだろう!? 「それは…そうだね」 そう言ってうつむき、手にした綿菓子で顔を隠すように、それを口にするスプーキー。 心なしか笑ってやがる…。 くそっ… 「ねぇランチぃ!金魚すくいやろうよぉ!」 ランチの返答を待たずに腕ごとランチを引きずるユーイチ。 それにつられてつんのめりながら後を付いてくるスプーキー。 「あぁ!もうなんだってやってやるよ!」 こうなったらヤケになる以外にどうしようもない。 露店の明りに吸い寄せられていく二人の後ろから、 いつもよりも幸せそうに、ニコニコと笑うスプーキー。 いつも皆の先頭に立たなきゃいけない彼が、 誰かに手を引かれて歩いている事に対する幸せ。 …もう一周回りたいって言ったら、ランチは回ってくれるかな? そんなもくろみに気付く事なく金魚すくいに熱中するランチの、 金魚と格闘する後ろ姿が、そこにあった。 「なによ。それ」 「きんぎょー」 三つの袋にびっちり詰まってアップアップ言ってる金魚を シックスの前に自慢げに差し出すユーイチ。 その金魚の数にも確かに驚くが、それよりも。 「なんで三人仲良く手なんかつないでんのよ」 「いや、いろいろあって…ね?」 まだ食べきれない綿菓子と、義理で貰った金魚を一匹手にぶら下げて、 もう片手はしっかりランチとつながっているスプーキー。 「すごいんだよぉ!この金魚、ほとんどランチが取ったの! 射的だってすごく上手でねぇ!」 「あぁ、これ、シックスにお土産」 スプーキーのポケットから次々と出てくるお菓子やおもちゃを シックスの手のひらに乗せていく。 「それより、大丈夫なワケ?…ランチは」 ドレッドまでぐったりとしたその姿は、思わず同情するほどに疲れ果てている。 「…たのむ…もう勘弁してくれ…」 「えー!?ダメだよぉ!もう一周回るんだもん! カエルちゃんとウサちゃんだって取ってないし!」 ぐいっと金魚をシックスに押し付ける。 「荷物増えちゃったから置きに来たのぉ!シックスも来る?」 「あ…いや…遠慮しときマス…」 「ふぅぅぅん。たのしいのにねー?」 「ハハハ…」 スプーキーも、さすがに笑うしか出来ない。 「じゃ、いってきまーす」 そう言ってガクガクのランチを引っ張っていくユーイチ。 されるがままのランチの恨めしそうな目と、 何だか疲れてるわりに楽しそうなスプーキーを見送ったシックスは、 手のひらに乗せきれず、ひざの上に散乱したおもちゃやお菓子に目を落とし、 確信に近い思いを、ぼそりと口にした。 「………ホント、行かなくて…よかった…」 |