|
「久しぶりだな、スプーキー。調子はどうだね?」 ぽん。と肩に置かれる手からするりと避けて、にっこりと笑う。 「どうしたんですか?門倉社長。僕は、桜井ですよ」 キリキリと、肋骨の内側が痛む。 その痛みすら、屈辱的な。 「たかが契約社員の名前なんて、覚えてないのも無理はないですけど」 そういって、屈託の無い、無表情な、笑み。 開きかけた唇が、そのまま、閉ざされる。 返される言葉は無く、スプーキーは、とぎれた会話に背を向けた。 キーボードを叩く音。 カタカタカタカタカタカタカタカタ……… 「門倉社長は、プログラミングがお好きなんですか?」 振り返ることなくカタカタと耳障りな音をまき散らしながら。 「よくそうして後ろからのぞいていることが多い」 カタカタカタカタカタカタカタカタ……… イライラする音だ。 「門倉社長は目が良いんですね。ずいぶん遠くからのぞいてらっしゃる事もある」 カタカタカタカタカタカタカタカタ……… イライラする… 「御気を遣ってくださってるのかな。大丈夫ですよ?すぐ後ろにいらしても」 カタカタカタカタカタカタカタカタ……… イライラ… 「僕は全然…」 カタカタン…タン! ひときわ大きくキーを叩く。 「気になんてなりませんから」 タバコをもみ消し、振り返りながら立ち上がる。 薄い唇に、自分のそれをかすめて。 「休憩、行って来ます」 今にも肩がぶつかりそうな、すれすれのところをすり抜ける。 振り返れば、廊下の明かりがうっすらと漏れる扉をくぐる細い影。 小さく、金属が擦れ火花を散らし、それがガスに引火する音。 室内で唯一原始的な炎が、白いフィルターと、それをくわえる歪んだ口元を映し出す。 「あ…」 スプーキーは、思い出したように振り返り、 今まで自分がいた所に立ちつくす男に届くように、少し、大きく、声をかけた。 「僕も、好きですよ。プログラムを組むのって」 僕の作った芸術的なオブジェの迷路で、ぐるぐる巡るハツカネズミを見るような。 …悪い気分じゃないでしょう? あなただってそういう事、大好きなはずだ。 違いますか?門倉社長…。 鼓膜を震わせない声が、直接、脳に響く。 イライラする。 肋骨の内側が酷く痛んで。 だから思わず、ほくそ笑んだ。 カタカタといつまでも響く耳障りな音が頭から離れない。 カタカタカタカタカタカタカタカタ……… ひきつったような笑い声。 それが、本当の、僕の、終止符。 |