未熟な技術者



大きな手が、二の腕を掴む。
びっくりしてenterキーを触ってしまい、エラー音が響いた。
「なっ…何だい?」
「腰、痛ぇんだろ」
有無を言わさず立ち上がらされ、きょとんとする。
「どうしてそう思うんだい?」
呆れたように、ため息。
「何日間そこに座ってると思ってんだよ。腰のあたり庇うみてぇにしてるし」
確かに、痛みはある。
でも…
「平気だよ」
「平気じゃねぇだろ」
腕をひかれ、少しつんのめるように体が前に倒れかける。
ピンッと言う感じの痛み。
思わず、表情に出してしまって。
…しまったな。
「やっぱ痛ぇんじゃねぇか」
「…ひどい事するなぁ」
恨めしそうな顔。
つまりは諦め。
しぶしぶ、ソファーベッドへと足を運ぶ。
重たい足取りに。
「そんなに嫌かよ」
苦笑された。
「痛いのが嫌じゃない人なんて、いないよ」
「痛くないようにしてやるからさ」
してやったりな即答に、信用なんて無い。
「僕の事、実験動物か何かと勘違いしてないかい?」
そう言いながらソファーに横たわり、また走る痛みに、小さく、声が漏れた。
新しく得た知識を実践したいのは、理解できる。
だからって…
シャツを引っ張り出され、背中のあたりにまとめられる。
「…どの辺だ?」
手が、触れた。
あったかくて気持ちがいい。
…これだけだったら、良いんだけどな…
「もう少し、下のほう…なんだけど」
するっ…と、ベルトの下に手を滑らせる。
ビクッと跳ねる体に、また、苦笑され。
「ベルト」
一言。
肩越しに、ちらりと、ランチを見やる。
…やな笑い方してる…
視線に気付いて、
「なんだ?俺に外してもらいたいのか?」
そう言って腰に手を回し浮かせようとするから、
「い…いいよ。自分でやるよ」
慌てて制して、ベルトと、ズボンのボタンを外した。
腰骨のあたりまで下げられて、一番へこんだ所に、両手をそえる。
脅えきった体に、親指と、その付け根のあたりで外側に向かうように優しくさすって。
何か前と違う…
「やり方、変えたのかい?」
「あんたが痛がるからだよ」
少し、リラックス。
「うん。これなら気持ち良いよ」
「だろ?」
素直に喜ばれて、気持ち良くて、これなら、嫌じゃないな。
そう思った矢先に、手付きが変わった。
触れているような触れていないようなすれすれの感じで、腰の周りを撫で上げて。
そのまま親指で背骨の両脇を上って来る。
首の後ろのあたりがゾクッとして。
「…ランチ」
少し、強い口調で、たしなめる。
「なんだよ?」
くすくす笑いながら。
「気持ち良いんだろ?」
スッと背中から腰のあたりまで線をひくように下りていく感覚に、腰が跳ねる。
「ランチ…!」
更に強く抗議の声を上げたとたんに、一番痛む所に、ねじ込まれるような、圧迫。
「いっ……」
ほとんど、声にならない声。
ぐいぐいと押されて、痛みで、こめかみのあたりがジンジンする。
「いたっ…痛いよ!ランチ…っ」
「気持ち良いのじゃ、駄目なんだろ?」
意地悪な声に、痛みが追い討ちをかける。
ぎゅっと閉じた目に、涙がにじむ。
「やっ…やだって!もう…っいい…から…っ!」
「あとで楽になるから、ちょっと我慢しろよ」
ちょっと!?ちょっとじゃないよ!この痛みは!!
痛みに、意識が遠のく中で、
…やっぱりもう二度とランチには触らせない!
そう心に誓う、プーキーだった。

その後、ランチの本棚、PCのフォルダから、
マッサージ、指圧、整体関係のありとあらゆる物が処分された事は、言うまでもない。



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