夏の終わりの風物詩



すぐ近くで、本当にすぐ近くで、花火を見上げたことは、あるかい?
まるで自分のまわりを覆うように降り注いでくる光が誰かさんを彷彿とさせる…
なんてこと、隣にいる本人にはとてもじゃないけど言えやしない。
それが嬉しかった、なんて、もっと言えないけどね。



「自分が真ん中にいるみたいだったね」
胸ポケットから取り出したソフトケースを軽く振って、タバコを口にくわえる。
「あ? あぁ、今日の花火はデカかったからな」
少し強い風を手で覆って、火を点けてくれる。
「大きいのって、いいね」
僕はありがとうの意味で笑って、ランチを見上げた。
「…そう言いながら、何で俺を見るんだよ」
「いや、錯覚って怖いなって思ったんだよ」
そう、錯覚だ。
隣に君が居ることで、真ん中にいるような錯覚。
僕がいくらうろちょろしても、君の許容範囲にいる限り起こる錯覚。
君を見上げることを止めなければ、止むことのない、錯覚だよ。
「錯覚、ね…。けどよ、あんたが見たものがあんたの世界では正しいんだぜ?」
そう、言われ続けて、僕は錯覚を錯覚と認識することすら出来なくなるんだ。
「君も、真ん中にいたのかい?」
「いや…俺は、見てるものが違ったからな」
意地悪なことを、言ってみようか?
「花火を見に来て、綺麗な浴衣のお姉さんでも見てたのかな」
だけどランチは苦笑いをして。
「隣で口開けたまま呆然としてるヤツの手に持ったタバコを見てたんだよ」
言われて、始めて気付いた。
「あれ? そういえば、その時吸ってたタバコ、どうしたんだろう」
「…まったく呆れるぜ。落としたことにも気付いてねぇのか」
「あぁ、それでか。君が何かを捨てに行ってたのは」
言って、始めて気付いた。
ランチが、喉の奥で笑う。
「それは、気付いてたのか」
同じように、喉の奥で笑った。
「…それはね、気付いちゃうんだよ」

僕の真ん中にいるのは、どうやら、僕じゃないみたいだね。



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