喉元過ぎて忘れるまでの甘すぎる処方箋



「埋めてしまおうと、思うんだ」
何を?
野暮。
解っているから。
解らないから。
口に出さない。
「土なんて、ねェよ。このへんには」
コンクリートで敷き詰められて。
キレイに、キレイに。
埋めて、還れる、土は、無い。
過去は。
「二重にも三重にも、あってはいけない物なんだ」
同じような、それでいて少しずつ違う。
いくつも持って居続けるには。
「重たいからね」
小さな小さな箱に入れて。
深く深く土を掘って。
一番下に、埋めてしまおうと。
…埋めてしまおうと思うんだ。
いくつも重なった、君との記憶も。
一緒に。
「手伝ってやろうか?」
差し出されたヘラに付いたチョコレートを舐めて。
「助かるよ」
丁度良い甘さに笑顔の返事を。
毎日がデジャヴ。
また、繰り返してしまう時のために。
既知を未知へ置換。
Enter。
フラグの1を0へ。
それだけのこと。
彼が買ってきたオーブンも。
今日の出来事も。
CD−ROMの回転と共に、デリート。
料理中に聞こえるメロディ。
その鼻歌も、デリート。
跡形もなく。
差し出されたケーキの匂いも。
満足げな君の顔も。
全て。
うつむく目線の先に、差し出されたナイフ。
「僕が?」
「手伝ってやるって言ったろ」
二つに。
「チョコレートケーキなんだね」
「ちょっと早いけどな」
どうせ誰からももらえやしねェんだろ?
暗に嫌味な装い。
いつもの笑い方。
それすらも。
「…あれ?」
手応え。
ケーキの底には、小さな箱。
「開けてみな」
埋められた箱を取り出して。
6枚のチョコレート板で出来た箱の。
箱の1枚を剥がす。
中には、墓標。
幾つもの、見慣れた、ロゴマーク。
「ハハ…器用だね」
「あんたが、不器用すぎんだよ」
食っちまえば、否応なしに、消化されるだろ?
「それとも、コンクリ掘り返して土に埋めるか?」
取り出した過去を、口へ。
甘い。
甘いばかりの、都合の良い記憶。
「埋めてしまうのは、もったいなくなってきたよ」
迷い。
フリダシへ還る思考。
繰り返される。
君によって繰り返されるなら、それが良い。
どうせなら。
「甘い方が、良いよね」
彼は容易く、消化を促す。
「あんたは素から、甘い方が好きだろ?」
無に還すよりは、僕に還す方が良い。
望む方へ傾く。
天秤の作りは皆同様に、単純。
単純な天秤を狂わせるのは小さなプライド。
それも一緒に。
解ってる。
胃凭れくらいは覚悟の上さ。



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