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いつも持ち歩いているアタッシュケースを、珍しく人前で開いた。 中に見える組立式無線機に、少年は興味を示したように視線を止める。 「…好きなのか?」 無造作に取り出したパーツを手際よく組み立てながら、パオフゥは尋ねた。 「バイクは、良く弄る」 「へぇ…」 あまり、瞬きをしない。 そのせいか、まったく視線をそらすことなく アタッシュケースの中身をじっと見つめているような印象を受ける。 「…やってみるか?」 あごをしゃくって、残っているパーツを指し示した。 少年は静かにケースに手をかけると、物珍しげに一つのパーツを取り出し、眺める。 「俺のヤツと形は同じだ。そこのネジに赤を右、青を左に巻いて閉めてくれ」 先端の極端に細いドライバーを投げてよこす。 「出来たら対になる方に被せた時向かい合うように繋げて…聞いてるか?」 「…あぁ…聞いてる……」 少年の意識は、既に手元に集中しているらしい。 とりあえずな返事。 それから、絨毯に吸い込まれる、ドライバーの落ちる音。 「…無くすなよ。ネジの換え無ぇぞ」 「…あぁ………」 細い身体は猫のように柔らかく。 小さく光る小さなネジを拾って。 摘んだ長い指先は、パオフゥの位置から見ても震えているのが見て取れた。 「器用な方じゃァねぇみてぇだな」 苦笑混じりに返してくれと手を出した。 その手を、避けられる。 「いや、器用だと思う。…『俺』は」 ムキになってひじを立ててドライバーを扱う姿は、どう考えても器用には見えない。 「器用不器用ってのは『身体』…なのかね」 あえて意地の悪い苦笑を漏らし、既に組み立て終わったパーツを立て掛け、 シガーケースから漢字らしき文字で書かれた異国のタバコを取り出した。 「火ぃ貸してくれよ」 「…今、それどころじゃない」 答えてから少年は、からかわれている事に気付き顔を上げる。 パオフゥは既にコインとマッチを片手に。 二本の指でマッチを、残りの指でコインを支え、器用に火を点す。 少年の視線は、手元のパーツからパオフゥの手にある火に。 瞬きもせず、炎を見つめた。 「…今それどころじゃねぇんじゃなかったのか?」 丸い異形のサングラスの奧で、目を細めたのが解る。 まるで少年の興味の対象を知り尽くしている大人の顔で。 少年は眉をしかめ、慣れた手つきでポケットからジッポライターを取り出し、 火を点けた。 二つの炎にパオフゥは一瞬おかしな顔をして、 それから口の端を持ち上げ、手にしたマッチを振って消す。 ジッポライターに顔を近づけ、目に留めた。 HARLEY-DAVIDSON 「アメリカかぶれのバイク少年か…ありがちだな」 吸い込んで。 「まぁ、たまにゃぁオイル臭ぇタバコも悪かねぇ」 紫煙をこぼし、喉で笑う。 「…これは、俺のじゃない」 少年の指でロゴをなぞって。 ジッポライターを見つめる視線は、空虚。 「お前さんのモノなんざ、『こっち側』にゃぁねぇだろ?」 何一つ。 「無ぇ方が…イイんだよ…」 無くすくらいなら。 「あぁ…知ってる」 何かを守るために、生きていることを知っているのだとしても。 失った大きすぎるパーツ それが 知らざるべき『罪』を知る者への 『罰』 |