空の青と本当の気持ち



「なんだか、細胞になった気分だね」
訳のわからない言葉に、片方の眉を持ち上げた。
「…シートベルト」
アナウンスなど聞こえていないほどはしゃぐスプーキーに、そう言って。
「え?あぁ」
慌てて自分の下敷きにされたベルトの金具をさぐる。
「ハハ…初めてなんだよ。飛行機」
25にもなって…
少しはにかむように金具をはめる。
「何だよ?細胞って」
何度かベルトを引っ張って、金具がしっかり噛んでいる事を確認していたスプーキーは、
顔を上げ、少し不思議そうな表情をして、それから、
「あぁ。うん細胞になった気分がしないかい?」
そう、言った。
「ほら、たくさんの細胞が集まって、意志を持った一つの生き物になるだろう?」
「あぁ」
「たくさんの人が集まって、それが何者かの意志により空を飛ぶのって、
 似てると思ったんだよ」
ウキウキした声で、ニコニコとランチの顔を見る。
と、急に真顔になって。
「これ、飛ぶんだよね?」
…理解できねぇ。
いきなりの突飛な発想と、飛行機が空を跳ぶ事に対する不信感。
そのギャップに苦笑する。
ここに積み込まれているコンピューターのプログラムを組む事だって出来るヤツが、だぜ?
「飛ぶから、飛行機って言うんだろ?」
つられて、顔が笑う。
「あ、そうか…そうだね」
少しゆるんだ真顔を、そのまま張り付かせて。
「まさか逆さになったりとか、しないよね?」
「…ジェットコースターかよ」
「わ…うごいた」
流れはじめた景色を、窓に張り付いてじっと見る。
しばらくの滑走。
それから、ガタンと、機体が浮く感じ。
体にかかる重力。
斜め上方からのそれにたえかねて、シートに体をつけて、それでも外を眺める。
ぐんぐんと重くなる体と、耳の奥の気圧の変化による不快感。
黙って、外を眺めるスプーキー。
青かった空が白くなり、また青くなって、重力から開放された。
機体が安定した事を知らせるアナウンス。
「…僕らは、今、飛んでるんだね…」
ゆっくりと窓から目をそらし、振り向いた顔に、爆笑する。
「…っなんて顔してんだよ!」
「だって…!」
わずかに、頬が赤らむ。
「……僕も、飛べるんだなぁって」
その声に、なんとなく、穏やかになれる。
「…あぁ。飛べるさ」
窓の外には、見渡す限りの、空。



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