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ランチの背中は大好きだ。 ソファーベッドに腰掛けて、方ひざだけあぐらをかいたようなカッコで、いつもと同じに、 工具セットを手の届く範囲にばらまいて、僕にはわからない何かをいじくっている。 真剣な顔をしているから表情には表れないけれど、すごく、楽しそうで。 こうして、彼の背に背中をもたれている事が、 彼にとって何でもない幸せのような錯覚に陥って、 めまいがするほど気持ちがいい。 ふと、ランチが顔を上げて、こつんと、僕の頭に首をもたれて、一休みする。 「疲れたかい?」 そう尋ねたら、頭蓋骨に直接響く深い声で。 「疲れたなら、退いてもいいぜ?」 そう、答えた。 でも、僕にもたれてくる重さは変わることなく。 「今僕が退いたら、君は倒れちゃうよ?」 少し、意地悪を言ってみた。 「それじゃぁ…」 首の位置をずらして、肩に頭をもたれて来る。 僕のすぐ耳元で。 「そこにいてくれよ」 くすぐるみたいな、囁くみたいな、優しい、感じで。 甘え? 甘えてくれてるのかな? 今、僕が退いても、ランチが退いても、僕らは倒れてしまう。 見え隠れするそんな関係。 甘やかされるだけじゃない、必要としてもらえる事に。 安心する。 「何か、僕に内緒で悪い事でもしたのかい?」 普段、こんな風にあからさまに甘えて来る事なんて無いランチに不自然を感じたとしても、 確かに、おかしくはなく。 冗談めいた風に、問うてみる。 「悪い事…?さぁ、どれの事だろうな」 冗談めいた風に、返されて。 どっちにしたって、嬉しい事には変わりないんだけど。 でも何の理由も無く甘えられている方が好きだから、そう思う事にして。 ランチの位置からじゃ見えないのを良い事に、 顔が笑いっぱなしになっちゃってるのが自分でもわかる。 「…何だよ。何かおかしいか?」 …見えないくせに、何でわかるんだろうなぁ。 少し、驚いて。 でも、そんな事も、嬉しい。 「おかしいよ?」 声に、いつもより表情が付いていて、もしかしたら僕の方が不自然なんじゃないかな? そんな風に、考える。 見えないけど、たぶん背中から肩にもたれたまま目をつぶっているだろうランチに。 「いつもより、優しくて、変だよ」 少しゆっくりとした口調で、イヤミな感じにならないように。 こうしている事によって、こんな他愛の無い会話を続ける事によって、彼が、癒えるなら。 そうしていたい。 「いつもより、穏やかでさ」 彼を、癒してやりたいって、思うんだ。 「優しいと、変なのか?」 喉で押さえたようないつもの笑い方に、ランチなんだなって、思って。 背中をもたれながらも全体重をかけないようにって体を支えている腕に、触れながら。 「そうだね。変だよ」 そう言って、ランチと同じように、ランチの肩に、頭をもたれた。 「………」 たぶんランチは…そうか。って言ったんだと思う。 聞き取れないようなつぶやきが、彼に触れた所から、音ではない形で、伝わって来る。 線対称に、触れた所から、無に帰っていきそうな、錯覚。 同じだけの力が引き合えば、安定するって事は、力学的にも証明されていて。 僕達は、本当の意味で、静止する。 ゆっくりと、でも確実に流れていく時間を、さらに、ゆっくりと。 そう。 こうすれば、夜は、長い。 |