通り雨



空一面の暗雲に、しばらくぶりの空を見上げた。
「こりゃ、一雨来んじゃねぇか…?」
そうつぶやいた矢先に、大きな滴。
雲の隙間が瞬く。
「おいリーダー」
キレイな雷を見せたくて、モニターから目を離さないスプーキーに、声をかけた。
「…!?」
肩が総毛立つほど驚くスプーキー。
恐る恐る振り返るその顔には、間違いなく、脅えた色。
ランチは、底意地の悪い笑みと共に、からかうような口調で問うた。
「…あんた、恐いんだろ?」
ニヤニヤとしたその顔に、
「ち…違うよ!」
珍しく慌てて、否定にならない否定をする。
空が、光った。
一瞬その光に目を奪われて、気がつけばスプーキーはいない。
目線を下ろせば、頭を抱え、しゃがみこんでいる25歳。
格好のエサを見つけたように、目を細め、言葉に苦笑を含ませる。
「…知ってるか?雷って、電気を発してる物に吸い寄せられるんだと」
いつものポーカーフェイスからは想像できないほど、一気に顔を青くして。
「でっ…データとばされたら困るからね…」
慌ててバックアップをとり、電源を落とす。
それでもまだ落ち着かないらしく、しばらくウロウロして。
「電気、消した方が良いかな…?」
ここ、最上階だからカミナリ落ちやすいかもしれないしね…
引きつった笑みで独り言。
電気のスイッチをわざわざ消して、こわごわと、ランチの近くに歩み寄る。
「外、見てみろよ」
あごをしゃくって外へと視線を促すランチ。
外を見た。
「電気消してる家なんてねぇだろ」
漏れる苦笑を隠そうともせず、子供が子供にするような意地悪に、
抗議をしようと口を開こうとした矢先。
「…うわ!?」
フラッシュをたかれたような眩しさに驚き、直後の雷鳴で、ランチにしがみついた。
地響きのするような音。
さすがにランチも少し驚いた口調で、
「近くに落ちたな…」
そうつぶやく。
腕にしがみついているスプーキーの指先が、小刻みに震えていた。
「…そんなに恐いかよ」
「………ランチは、恐くないのかい…?」
恐る恐る顔を上げて、少し涙目になっているスプーキーを、その場で座らせた。
「ガキの頃は、恐いと思ってた」
すぐ後ろに腰を下ろして、足の間にいるスプーキーの肩を、しっかりと抱えてやる。
「空、見てろよ。光ったら、数を数えるんだ」
少しして、瞬き。
「光った。…いち…にい…さん…」
語尾をさらうような、雷鳴。
ビクッと肩をすくめるスプーキーを、きつく、抱え直して。
「もう一度だ」
震える肩にあごを乗せ、頬をよせて。
…雷光。
「いち…にい…さん…しい…ご…」
先ほどよりも、ほんの少しおとなしくなった、音。
「…光ってから、音がするまでの間隔が、長くなってるだろ?…遠のいてるって事だよ」
低く、ゆっくりと、物語を聞かせるように穏やかに話す声に、少し、落ち着いた。
強く抱かれた肩が、背中が、暖かい。
「こうやって見ると、結構キレイなもんだろ?」
「…うん」
こうしてみると、そんなに恐いだけの物じゃないって事が解る。
雲の隙間が、その形が、光った時だけ明確に現れて、次の瞬きが、待ち遠しいほど。
窓の外をじっと見て、少し口が開いたまま、次の雷光を待つスプーキーに。
「案外…好きになれるだろ?」
耳元で、優しい、口調。
「…うん」
すぐ隣りにある頬に、自分の頬を摺り寄せて。
「…ランチが、優しいしね」
先ほどの脅えた顔からは想像の出来ない機嫌の良さに。
「何だよ、それ」
思わず苦笑する。
「僕にとっては大事な事だよ?」
くすくすと笑うスプーキー。
ランチは優しく目を細め、肩を抱く手にもう一度力を入れて、それから、頬にキス。
小さく、小さく囁いて。
「俺にだって…大事なんだぜ?」
遠くの空が、光る。
真っ白な壁に映し出される、一つになったシルエット。
あっと言う間にいなくなってしまう通り雨を逃さないように。
あっと言う間にいなくなってしまう幸せを、逃さないように。
雷雲が遠のき、星空が覗いても、気付かないフリをして。

あっと言う間にいなくなってしまう短い命を、逃さないように…。



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