徒然に



「オマエ運転な」
「あ? サイドカー狭いからイヤだとか言ってたのは誰だよ」
救世主のような夏の風を無下に熱くさせるバイクのエンジンを目下に眺める。
「そう言う仕事は肉体労働者に譲っとけってな」
ディナーはそう言って、さっさと揺りかごの様な側車に腰を下ろした。
「俺が運転するなら大型車にしときゃ良かったぜ…」
昔からの、暗黙の了解。
話したいとか、会いたいとか。
そんな理由で呼び出すなんてとてもじゃないけど恥ずかしくてできない。
走りに行こうとか、飲みに行こうとか、面白いパーツが手に入ったとか。
何か理由をかこつけて。
「二人で大型車か? 意味ねぇだろ」
「にしたって、なんでサイドカーかね」
「カッコ良いだろ?」
ただ、隣にいて。
発した言葉を受け止めて。
それだけで充分なんてこと、解りきっていて。
実際、言う必要もないから。
憎まれ口を叩いて。
冗談とも本気ともつかない言葉を返して、返されて。
それだけで。
「オイオイ、足投げ出して乗ってんなよ。いつか吹っ飛ぶぜ?」
走り始めた景色。
どこまでもついてくるエンジン音に、顔のほころびを隠せない。
「足長ぇんだよ。こんな狭いトコ入るか」
「せめてベルトぐらいしとけって。ホラ」
瞬時に低い位置にある隣のベルトを引き、金具に突っ込む。
「勘弁しろ。苦しい」
少し落ちたスピードを立て直して。
「じゃぁ、足しまっとけ」
「却下。オマエが急ブレーキかけなきゃ済むことだろ」
かまわれることに心地よさを感じる、唯一の相手。
「んなこと約束できねぇよ。事故ってのは俺一人が…」
「オラ、余所見してんじゃねぇよ」
目前に現れるガードレール。
「うおあぁ!?……………っぶねぇ…」
慌てて体勢を立て直す。
「ヒハハハ…言ってるそばからこれかよ」
「うるせぇ! もう横向かねぇ」
半分笑いながらも、風に消されぬよう声を荒げて。
何だって笑って受け止められる。
何だって笑って受け止めてくれる。
「事故っても俺だけ吹っ飛んで助かってたりしてな」
「その辺の木に突き刺さってんのがオチだぜ」
「オマエはバイクに足挟まれたまま炎上な」
止まらない減らず口。
良すぎる会話のテンポが増やす口数に、疲れも感じない。
「どっちにしたって心中は勘弁だ」
「そりゃな。相手くらい選ばしてくれ」
向かってくる風に目を細め。
「俺は…誰が相手でもヤだけどな」
半ば冗談めいた風に。
でも、落ちた声のトーンを見逃すわけもなく。
「あの人でも…か」
相も変わらず口の端をあげたまま。
イヤミなポーカーフェイス。
ランチは、軽く笑って。
「あぁ、特に嫌だぜ」
どこか、景色とは違う遠いところを見る。
だからディナーは何の気無く。
「あの人は、良いって言ってたぜ?」
「は!? おまえ、リーダーとそんな話ししたコトあんのか!?」
飛び上がらんばかりの勢いで隣を振り向くランチに。
「おーおー…顔色変えちまってるよ」
想像通りの反応をからかう。
「…チッ…フカシかよ。冗談は…」
「いや、マジな話。…何つってたっけか…」

『もしこの事件で皆が死んでしまうようなことになっても、僕は後悔しないよ』

「ハっ…あの人が言いそうな台詞だ。いざって時は矢面に立っちまうくせに」
ディナーの知らない、諦めたような優しい大人の笑い方。
遠いところを見るような目に映るのは過去の映像。
「矢面に立つのはオマエだろ」
苦笑が漏れる。
「でも、いつの間にか一番危ない橋渡ってんのは、リーダーなんだよ」
「結局アレだろ。後悔するような事をするつもりはなかったんだろ」
「生死を問わず…な。命を粗末にしすぎんだよ。あの人は」
誰かが死ぬようなことがあったとしても、その前に対処するつもりでいたんだろ。
自分の命を呈してでも。
まったく、ハタ迷惑な話だぜ。
「その後どうしてんだ?」
「しらねぇ。会ってねぇよ」
再度、苦笑。
「どうりで」
「…なんだよ」
「なにがだよ?」
ランチは、僅かにすねたような顔をして、それから。
「ヤな顔してやがる」
そう言って、悪戯に笑った。
「生まれつきだ」
風に任せた身体をシートにもたれて。
変わらぬ表情で喉を鳴らすディナーに。
「知ってる。…飛ばすぜ」

今を見る目で眺めた過去を、時折こぼして、また拾って。
風にさらして、はためかせて。
沈む日の匂いに、目を、細めて。
友なんて言葉がチャチに見える。
そんな存在に、感謝して。



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