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「男が地位を求めるのって言うのは、 結局、好きな人に不自由させたくないって言うのが本音なのかな」 「…何だよ、それ」 社会的地位の何も無いランチにとって、それは聞き逃せない発言で。 それはランチに対しての言葉ではないとわかっていても、少し言葉に痛みを感じて。 いつもより声が低くなる。 「ん?与えられてばかりじゃ、関係は成り立たないって事だよ」 すねた感じで言葉を促すランチに、余裕の笑みで。 その余裕が、さらにランチを不安にさせる。 だから冗談紛いで言葉を返す。 そういう形の、牽制。 「…好きな人でも出来たのか?」 「好きな人は、もういるよ」 ニッコリと微笑んで、水が流れるみたいに。 「自覚、無いのかい?」 タバコの煙がするりと目の前を通り過ぎて行く。 「…俺は、不自由なんかしてないぜ?」 「そう言わせるのが、不自由なんだよ」 スプーキーの、リズム。 まるで相手が何を言い返すか解っているみたいに、一定のテンポで。 早すぎず、どちらかと言うと一息ついてからゆるりと繰り出す小さなボートに似た感じ。 「わかんないかい?」 意地悪そうななぞなぞを出すみたいに。 「…わかんねぇな」 そのくせ、少し辛そうに微笑む。 楽しんでいるフリを継続させようとする。 …俺は、何をしてやれる? 「…君は、ワガママすら言ってくれないだろう?」 「そうか?」 「意地悪は言っても、決定的に僕には出来ない事を、口にしない」 そうだろう? そんな感じで、でも責めるでもない、柔らかな口調。 「出来ねぇ事を言ったって、しょうがねぇだろ」 「でも君は、僕が何も言ってないのに不可を可にして僕に与えてくれる」 「…記憶にねぇな」 眉を寄せ、考え込むようにするランチに、小さく声を出して笑って。 「でも実際、そうなんだよ」 目を細めて、裏の無さそうな笑み。 少し、ほっとして。 「それって…あれだろ」 いつもの調子を維持できる。 「あんたが全部プラスとして受け取ってくれてるだけなんじゃねぇの?」 「…は?」 間の抜けた返事。 表情がひどく幼くなって、空いたままの口の奥で何かを思い出すようにする。 「俺のことを肯定することが、基本形態なんじゃねぇのって事だよ」 「あ…いや、君が言いたいことは大体解ったんだ…けど」 途切れた言葉が、喉の奥へと返っていってしまいそうで、 「…けど?」 と、先を促した。 どこを見るとも無くフラフラとしていた視線を、ぴたっとランチに合わせる。 まるでニュートンがリンゴの実の落ちる瞬間に何かを垣間見た。 そんな顔で。 「………そんな事考えもしなかったよ…」 ランチは、切れ長の目をスプーキーと同じように丸くして、 そうして、それをゆるめ、笑う。 優しい、でも少し呆れたような声で。 「…あんたらしいぜ」 そう、ため息みたいに、音をこぼした。 |