ジッポライター



いつもの仕草でタバコをくわえる。
いつもの仕草でポケットを叩いて。
時折、ごくまれにライターが発掘されるが、そう滅多にあることじゃない。
「よくそれだけ頻繁になくせるな」
イヤミ混じりに預かり物のそれを差し出し、火を付ける。
「ありがとう」
そう言って、深く深くに煙を吸い込み、
ランチの手によって磨かれたライターをちらりと眺めて、ふっと、笑った。
ゆっくりと煙を吐き出して。
「…君に預けて正解だったみたいだね」
「良い色だろ?」
銀細工ってのは磨けばいくらでも生き返る物なんだよ。
日光にかざしたそれが、光を反射し、スプーキーの顔を映す。
「…生き返る…か」
ランチの手から、ひどく明るい表情をした自分が映るそれをやんわりと取り上げて。
でもそれは、スプーキーの手の中では、先ほどの輝きを失ってしまう。
うつむいた顔が、ぼんやりと映った。
スプーキーの影と重なって、光が届かない。
ただそれだけの事なのだけれど。
「僕は、殺すことばっかりだね」
少し首を傾けて、ため息みたいな微笑み。
それがランチに痛みとなって届く。
「わ…!?」
急に上方に引っ張られた手に驚いて、それから、眩しくて目を閉じた。
「見方が違う」
スプーキーの肩にあごを乗せて、目線を同じにする。
驚いて、ランチの方を見ようとするスプーキーの顔を、
空いた片手で自分と同じ角度に傾けて。
それから、ライターを持ったまま伸ばした腕に添えていた手で、
ライターの角度を少しずつ、変えさせた。
「光らせたかったら、光らせようとしなきゃ、ダメなんだよ」
角度によって光ったり光らなかったりするそれの、一番きれいな角度を見つけだす。
「…OK。この感覚を覚えておけばいい」
ゆっくりと手を離し、身体を離す。
スプーキーは、その形のまましばらく固まっていた。
魅入られたようにその光を眺める。
口にくわえていたタバコが音もなく落ちて、はっと我に返った。
隣で、ランチが笑っている。
「そんなに気に入ったのか?」
「…え?…あぁ、すごいね」
照れくさげにへらっと笑って、もう一度、それを眺める。
ランチは、ひょいと指を天に向けて、
「投げてみろよ」
そう言う。
言われるままに、腕を振り下ろし、力一杯投げてみた。
「…あ」
ライターの角の、空に近いところから、とけ込むみたいに同化して、消えた。
瞬きと同時に目前に落ちてくるそれに驚き、あわててきつく目をつぶって。
閉じたまぶたを、風が横切った。
「………」
何も落ちてきた衝撃は無く、恐る恐る、片方ずつ、目を開ける。
「…悪い。かすったか?」
ライターの代わり…と言うには大きさのだいぶ違うランチの顔が目の前にあって。
「ぅわ…!」
と大きな声を上げて、再度目をつぶった。
ぎゅうぎゅうに目を閉じたその顔に、ランチの手が触れ、包み込む。
びくっとして、肩をすくめた。
「あー。やっぱり赤くなってんじゃねぇか」
頬にある手はそのままに、親指だけ、少し赤くなったまぶたに触れる。
「で…でも全然痛くないんだよ?」
「なら、いいんだけどよ」
まぶたに、音のするキスをひとつ。
びっくりした顔で目を開けると、後ろ姿のランチがライターを手のひらで弾ませていた。
「あんたにはちょっと高等技術だったみたいだな」
意地悪そうに、首だけ振り返らせて。
それから、ひときわ高く、ライターを空に放った。
さっきよりも朱色がかった太陽の光に、燃えるように輝く。
何の意図も無く、口から言葉がこぼれた。
「…君に預けて、良かったよ」
キラキラと光るそれは、スプーキーの唯一の過去。
「まるで、生きているみたいだね」
今まではただの骸だった過去。
燃え上がる炎を素手で掴むイメージで、ランチは、その光る物を手のひらに収め、
「…生きてるんだよ」
そう言って、悪戯っぽく、微笑んだ。



こうやって僕の重たい物は、ひとつひとつ、君に浄化されていくんだ



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