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雲に懸橋
罪を犯すことは私にはあまりに簡単すぎた。
罪と知りつつも犯さずにはいられなかったのだ、
...それは魅かれてはならない人に恋した罪。
その腕の中を夢見る、それすら許されないことであるのに何故にこの胸は高鳴るのか。
万人に向けられた優しさを、私ひとりのためだけだと錯覚してしまう。何気ない言葉を本気にしてしまう。
届かないと知っているからこそ、叶わないと解っているからこそ募る想いであるのに、理性を失うほどの魅力で私を魅きつける。
隠し切れずに募る想いに涙は溢れ、届かない想いは積もり積もって私を押し潰す。
この想いを拭い去れるものならば、それが毒薬であろうと躊躇わないものを。
地獄の底に堕ちたとしてもこの想いは消えはしない。たとえこの身が滅んでも、この想いもこの罪も決して消えてはくれないのだ。
知りながらに犯す罪は知らずに犯すものより遥かに重く、日夜私を責め苛む。そしてそれでも想いは募る。
抜け出せない泥沼、底のない沼。その中で全身を罪の泥に浸してもなお慕い続ける。
どれほど涙を流してもこの泥は落ちてはくれない、
私は泥に塗(まみ)れた貪欲な獣(けだもの)。
この想いを伝えられたら、この胸を抉れたら、どれだけ楽になるだろうか。
口に出すことの、態度に表すことの叶わぬ想いであるから、ひとり堪え忍ぶしか術はない。
駄目押しの笑顔。その優しさは私には拷問でしかなくても、煩悩に満ち溢れ汚れたこの身を焦がす想いは燃え尽きることを知らない。
数え出したらきりがない多すぎる障害の前で私はただ泣き続ける。
明るい未来は来なくても、幸せな明日は約束されなくてもひたすらに恋い焦がれる、偽りの、ただひとときの愛を求めて。
さり気ない優しさは針の筵(むしろ)となってこの身を突き刺し、心までをも貫き通す。
心を溶かす至上の笑顔、迷い無く差し伸べられた両腕、世界中のどこより暖かいその胸の中、
すべてが私を誘惑する。
遥かエデンの園にあるという禁断の果実、それは甘さを有しつつ何より苛酷な苦しみを課す。
この身を滅ぼすのは私自身、地獄の業火よりも熱くたぎるこの想い。
焦がれ止まないこの心はいつか彷徨い消えるのを待っている。
呪うべきは汚れたこの身、恨むべきはこの世の運命(さだめ)。
出会った不幸を嘆くより、巡り会えた奇跡を信じたい。
それなのに。
手を伸ばしても、背伸びをしても届かない、目を凝らしても、どんなに捜しても見えない遠い人。
雲の上のその上の、私の知らない世界に住む人。
雲に橋を懸けること、それは絶対不可能なこと、
それは即ち、叶わぬ思い
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