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第1話 未知なる惑星で

 

光が一閃する。
その刹那、漆黒の宇宙空間に眩い光が広がった。
爆発音も同時に聞こえてくるような錯覚にも陥るが、宇宙空間に音を伝達する術はない。
巻き込まれたら助かることはないであろう、見る者全てがそう感じるような爆発。
その光の中から、一隻の鑑が抜けだしてくる。
奇跡。
そんな言葉がふと頭をよぎった。
やがて、爆発の光は宇宙の黒に飲み込まれるように消えていった。
残るはかつて『何か』であったと思われる残骸のみ。
「あぶないところだったわね、レティシア」
通信ポートが開き、目の前に映し出された映像がそう言った。
いかにも、自分が助けましたと言わんばかりの勝ち誇った表情。
「…ええ、お陰様でね」
嫌みっぽく答えを返す。
その口元は、ひくひくと引きつっている。
「あら? なんだか随分と船の中を散らかしてるわねぇ。
 まったくだらしないこと」
「誰のせいか知ってる?
 なんなら教えてあげましょうか?」
レティシアは操縦桿を握る手に力を入れながら、やけに低い声でそう問う。
「ほほほっ。その前にお礼の一言も言って欲しいものだけどね」

ぴきっ。

どっかの血管が切れる音が聞こえるようだった。
「ねぇ、ねぇ、れてぃ〜」
コクピットの後ろから、メニィがレティシア目指して飛んでくる。
「れてぃ〜、なんかせかいがまわってるよぉ」
どうやら目が回っているらしい。
ふらふらと漂いながら、吸い寄せられるようにレティシアの元へ。
そして…。

ばきっ。

「あ、ちょっとメニィ!?」
「おー。なんか折れたよー」
「いや、折れたって……えっ」

メニィのつかんだ操縦桿は、物の見事にすっぽり折れていた。
そのとたん、船体はバランスを失って左右に大きく揺れる。
船内は重力安定システムが搭載されているものの、さすがに万能ではない。
視界が大きく反転する。
むしろ、中途半端に重力調整されてしまい、たちがわるい。

「れてぃ〜きもちわるいよぉ〜」
「…………」
「あれ、れてぃ? 寝てるの?」
「…………」
レティシアは気を失っていた。
そして、機体は惑星へと吸い込まれるように墜ちていくのだった。

「姐さん。墜落しやしたぜ」
「クイーンよ。せっかく助けてあげたと思ったら、どこに行くのよまったく」
「でもちょっと援護にしては火力が強すぎたんじゃあ、ありませんかねぇ」
「私は手加減ってやつが嫌いなの。やるときはとことん主義よ」
味方がいようとも関係なしに、だ。
すでに目的と手段が入れ替わっているらしい。「
そして、その被害を被った船---シューティングスターは未知の惑星へと墜ちていくのだった。

惑星アーク・ヒルズ。
かつては、文明の栄えた都市が乱立していた開発惑星だった。
しかし、乱立する都市は新たな争いを生む。
今までの歴史が語るのと同様に、栄えすぎた文明は自らの手により崩壊していくのであった。
文明によって生活や文化が向上するのに比例して、人の持つ欲も大きくなっていく。
結果として、都市間の闘争ー内乱が勃発していった。
統治者の際限なき欲求は、決して満足する事のない「富と権力」に集約された。
内乱によって都市が廃墟となるには、そう多くの時間を必要としなかった。
「富と権力」を求めた統治者も、内乱の中でその命を失った。
いや、統治者だけではなかった。
こつこつと築いた文明も、滅ぶのは一瞬だ。
破壊するのは、文明の最先端技術だというのは、また皮肉なものだった。
どこででも繰り返される人類の歴史。
今日もまた、あちこちの惑星で争いは続いている。
気がつけば、アーク・ヒルズに残ったものは、争いの代償ともいえる残骸だけ。
噂では、太陽系を本拠地にする巨大企業のクロフト・カンパニーが暗躍していたとの話もあるが、
今となってはその真偽を確かめるすべは残されていなかった。
これはもう、3年前の出来事であった。

「…あいた……」
どの位気を失っていたのだろうか。
体の痛みを感じ、レティシアはようやく意識を取り戻した。
「……なんとか生きてる…みたいね」
痛みを感じるということは、まだ生きているという証拠だ。
うずく痛みをおさえ、レティシアはあたりを見回してみる。
しかし、そこには誰もいなかった。
「メニィ?」
いつも隣にいるはずのチームメイトの名前を呼ぶ。
しかし、返事は帰ってこなかった。
「メニィ…隠れてないで出てきなさい」
「メニィ!」
チームメイトを呼ぶ声は、次第に大きくなっていた。
だけど。
返事はなかった。
「メニ……いたっ……」
レティシアは立ち上がろうとして、足を負傷していることに気がついた。
「くっ……でも、折れてはいないようね…」
打撲はしているが、重傷ではないことを確認し、痛みを我慢しながら立ち上がる。
シートに安全装置がついていなかったら、今頃生きてはいなかったであろう。
「これくらいなら、ちょっと冷やせば治るわ…」
よろよろとブリッジを歩き回る。
「メニィ! メニィ!」
ブリッジにこだまするのは、レティシアのメニィを呼ぶ声だけだった。
次第に不安が頭をよぎる。
「だけどヘンね」
ふと気づいた。
無事か無事じゃないか。
もし無事じゃなかったら、メニィはこのブリッジで倒れているはずだ。
何せシューティングスターは墜落したのだから。
しかし、メニィの姿すらない。
となると、レティシアが気を失っている間にブリッジが出て行ったとしか考えられない。
では、どこへ?
それはわからない。
もしかしたら、外へ出て行ったのだろうか?
この未知の惑星へ、ひとりで?
そんな危険な。
…………。
……。
いや、あの娘が「危険」だからという理由で外へ出る事をためらうだろうか?
むしろ好奇心で外へ出て行ったのかもしれない。
見た目年頃の女の子だが、実年齢は3歳であった。
そう……彼女、メニィはクロフト・カンパニーの作り出した生体兵器だから。
「……もうすぐ日が暮れるわね」
窓の外を見ると、すでにあたりは暗くなっていた。

 

<つづく>