4・ヴィラント山への小旅行〜その1〜

 寒さを増す朝。日が昇り始めたころ、ノルディスは目を覚ました。傍らには前日彼が用意した携帯用の食料や護身用のナイフが入った少し大きめの背負い袋があった。
 
 一見すれば旅を続ける冒険者のものとも見える荷物であったが、その袋には栓付きのフラスコがいくつか入っていて、それに何よりその荷物の主たるノルディスが全く冒険と縁の無いような体付きであるため、誰か他の人がこの様子を見れば、強い違和感を覚えるかもしれない。
 
 なんといっても、その姿を見て一番違和感を覚えているのはノルディス自身だった。改めて自分の荷物をチェックしながら、一人苦笑する。
 
「ちょっとは体鍛えないとな。これじゃ家出少年みたいだ。」
 
 今日は、先日飛翔亭でエリーに頼まれた、ヴィラント山への採集に出発する日だった。護衛の冒険者が付いてくれるとはいえ、モンスターや野盗が出現する危険地帯には変わりがない。準備は入念にすべきだ。いざというときの武器として、自作したニュートやフラムといった爆発物をチェックする。
 
「僕がヴィラント山に採集かぁ・・・」
 
 アカデミーの入学要項には、「原則的に、学生が必要とする基本的な材料はアカデミーより支給されます」と明言されている。この原則的という言葉がくせ者で、例えばエリーのような条件付き合格者であれば、自力で採集しないと基本的な材料すらおぼつかない。
 
 しかも、寮生であったとしても、高度な調合の為には自分で材料の調達をしなければならないことも多いのだ。最も、マイスタークラスと呼ばれるアカデミーの上位学部に入学を志すようなレベルで無い限りは、あまり厳しい採集は必要とされないのだが。
 
 ノルディスも、いつかは街の外に出て採集をすることがあるだろう、と思ってはいたが、まさかそれが一年目というこれだけ早い時期になるとは流石に想像の外だった。
 
 「まあいつかは通る道だからなぁ」
 
 不安も多少あった。危険が多いとされているヴィラント山なんだからそれも仕方がないことだ。しかし、今回のように、自分の知らない材料や調合法があるならば、それは自分で探しに行かなければならない。アカデミーは普通の学校に比べれば生徒に与えられた自由は遥かに多いが、それは同時に学生への自主性を重んじる、厳しい校風であるとも言えよう。
 
「ノルディス、準備できた?」
 
 部屋のドアを叩き、自分を呼ぶ声が聞こえた。
 
「あぁ、エリー。ちょっと待ってて、今出るから」
 
「おはよう、エリー」
 
「おはよう、ノルディス。今日からしばらく、よろしくね。」
 
「こちらこそ、よろしく。」
 
 そんな当たり前の朝の挨拶を交わし、二人は彼等を護衛してくれる冒険者−ハレッシュとの待ち合わせ場所である、街の中心にある泉へと向かった。

 
 

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