4・ヴィラント山への小旅行〜その2〜
待ち合わせは街の中心の泉。時間は、午前の鐘の刻。
この世界の時制について簡単に説明すると、時計を持たない人が大多数であるザールブルグでは、一日六回、各所に配置された時計塔から時を知らせる鐘が鳴る。
それぞれ、人々が仕事を始める朝の鐘、午前の休憩を知らせる午前の鐘、昼食時を知らせる昼の鐘、午後の休憩を知らせる午後の鐘、仕事の終わりを知らせる夕の鐘、街を外を結ぶ城門の閉門をしらせる夜の鐘、である。これらを目安にして人々は働き、休む。この鐘のお陰で、普通の市民は高額な時計を必要とすることが少なかった。
そして、泉の側にある時計塔が鐘を一回鳴らしてからしばらくたった今、ノルディスとエリーは泉のへりに座り込んでいる。
「ハレッシュさん、遅いね」
「あの人ちょっと時間にルーズなんだよね・・・そのうちきっと来るよ」
という会話をしている内に、
「いやーすまんすまん、ちょっと準備にてまどっちゃってなぁ」
などと言いながら護衛役のハレッシュが走ってきた。よく手入れされた−とノルディスは思った−軽そうな皮の鎧を着込み、背にはバックパックを背負っている。
「大丈夫ですよ、大して待ってないですし・・・ところでハレッシュさん、武器は持ってきてないんですか?」
ノルディスの率直な疑問だった。ハレッシュはそれに答えて
「ああ、武器屋のオヤジんとこに預けてあるんだわ。すぐそこだから、ちょっと行ってくる」
といって、さっさと行ってしまった。
ノルディスもエリーも無言で待っていると、言葉通り、ハレッシュはすぐに帰ってきた。彼の背丈はあろうかという長い槍を手に持って。てっきり剣を持ってくるんだと思いこんでいたノルディスは、
「うわあ、凄い武器ですねぇ」
と、感想を述べた。彼は、槍を間近で見るのが初めてなのだ。そう言われたハレッシュは嬉しそうに、
「そうか、ノルディス君は初めて見るんだな。いい槍だろ?俺の相棒さ。とりあえず、コレが俺の手元にある間は君らに危ない目には遭わせないよ」
と、二人に言って見せた。
街の外へつながる城門までの道すがら、ハレッシュは二人にヴィラント山とそこへの道のりについて説明していた。
「ヴィラント山までの道のりは山賊が出てくるポイントだから、無理はしないでゆっくりいこうと思う。予定通り、往復だけで12日かかる計算になるな。あとは二人がどれだけ採集に時間をかけるか、だな。ノルディス君、君は忙しいのかい?」
「いえ、20日くらいなら空けても大丈夫なように調整してきてますんで」
「なら大丈夫だな。エリー・・・は聞くまでもないか」
「ひど〜い、差別ですよっ、それ〜」
「はは、ごめんごめん。で、草原では山賊やウォルフが出るし、山道になるともっとやっかいな魔物も出てくる。で、もう一回行ったことのあるエリーちゃん、前回の方針はどうだったかな?」
「なんだかんだいって逃げ回った記憶しかありませんよ」
「そう。俺だけならともかく、君たちは闘いには明らかに不向きだ。だから基本は逃げること。逃げ切れないと思ったときだけ闘うんだ。もしそんな状況になってしまっても、無理して前に出る必要はない。君たちを守るために俺がいるんだから、命を大事にして隠れてくれ。いいかい?」
二人は神妙にうなずいた。近くの森に出没する、ノルディス達でも十分闘えるぷにぷになどとは訳が違うのだ。本当に命を落としかねない。
そうこうしてる内に城門に着いた。ここを出れば、衛兵達と城壁が守ってくれる街の中とは違い、魔物や野生動物、賊といった危険だらけの外界に出ていくことになる。
「いいですか、夜の鐘の刻には城門を閉めますから、それまでに帰ってきてくださいよ」
と、衛兵が三人に声を掛ける。
「ああ、わかってるよ、大丈夫」
と軽くハレッシュは返し、城門の外へ出た。そして、少し後ろを歩いていた二人の方に振り返り、
「さて、お二人さん、行きましょうか」
と、軽い口調で言った。