4・ヴィラント山への小旅行〜その3〜

 現在三人が歩いているのは、ヴィラント山へ向かう草原。ザールブルグを出発してもう5日。ヴィラント山がもうずいぶんと近くに見える距離だ。

 ここまでの道のりは特に波乱も無く、順調に過ぎていった。野生狼であるウォルフに遭遇したりもしたが、ハレッシュの槍が一閃すると簡単に狼たちは蹴散らされたので、ノルディスとエリーはさしたる危険もなく旅路を行くことができた。

 「この辺も昔は夜盗が多かったんだけどな。盗賊団が壊滅したお陰で、今じゃ盗賊もバラバラになってるから、かなり危険は少なくなってる。」

 道すがら、ハレッシュはそう二人に教えてくれた。

 盗賊団の頭領を倒したのが女性の錬金術師、しかもアカデミーの生徒だったということも。

 「とにかくパワフル、って言葉が良く似合う娘だったな。ものすごーく大雑把で、とても錬金術師には見えなかったけど。」

 「俺に護衛を要請する最近のアカデミーの子はおとなしいのばっかりだからなぁ、たまにはああいう奴が居た方がいい・・・エリーにちょっと似てるかもな。」

 「私、おおざっぱじゃありませんよぉ・・・ってそんなこともないかも・・・」

 「あ、いやスマン。そういうことじゃなくってな、何か面白そうなことをしてくれそうな雰囲気があるってことさ。ノルディスもそう思わないかい?」

 少し慌ててハレッシュがフォローを入れて、ノルディスに話を振る。

 ノルディスも同感だったので、本心から

 「そうですね。エリーは僕のできないことができますよ、きっと。ちょっと羨ましいかな。」

 と言った。


 夜は交代で見張りを立てる。野生の獣は焚き火を恐れてあまり近くには寄ってこないが、焚き火を絶やすわけには勿論いかないし、夜盗に襲われる危険が無い訳でも無い。

 見張り番の間、ノルディスは一人でゆらめく火を見つめながら考え事をしていることが多かった。一人でいる時間が好きなノルディスにとって、それは別段苦痛なことでもないといえる。

 しかし、5日目の今日は少し勝手が違った。ハレッシュが眠れないといって起き出してきたのだ。見張り交代まではまだ結構な時間がある。ハレッシュはノルディスに、もう見張りは代るから寝るといい、と言ったのだが、生真面目なノルディスがそれを受け入れるはずも無く、今は二人で焚き火の炎を見つめている。

 「・・・なぁ」

 先に口を開いたのはハレッシュの方だった。

 「君は、なんで錬金術師になろうと思ったんだい?」

 彼は更に語を続ける。

 「エリーから君の話は色々聞かせてもらってるよ。これは俺の偏見だから、もし間違ってたら聞き流して欲しいんだけど、君みたいな子には錬金術はきついんじゃないかと思うんだ。君の事だから、恐らくアカデミーに来る前から色々な話を聞いてたと思う。こうやって採集で歩き回ったり、危険な目に遭ったりすることも承知の上でアカデミーに入学したんだろう?何が君を錬金術に引きつけて行ったのかに興味があってね。・・・いや、当然答えたくないなら答えなくても構わないけどな。」

 ノルディスはちょっと考えてから、答えた。

 「そうですね・・・僕も、自分ではあまり錬金術師に向いてるとは思ってないんですよ。錬金術って、机の前に一人で向かってるだけじゃできない学問ですし、外で色々収集して回るって、見た目通りに苦手なんですよ、僕。」

 炎を見ながら、ゆっくりとノルディスは話し続ける。

 「でも、子供の頃からの憧れでしたから。うちの両親が新しい物好きで、錬金術師の人たちをよく家に招いてたりしてたんですよ。そこで不思議な世界を色々見せて貰って、ああ、僕もこうなりたいなって。きっかけはそれですね。」

 「きっかけ、ってことは、今は少し変わってるってことか。」

 「ええ。言葉にするとちょっと恥ずかしいんですけど、実際に人の役に立ってみたいんですよ。錬金術で人の役に立つものを一つでも作れれば、それが僕の周りに対する役割っていうか・・・上手く表現できないですけど、自分の価値が解ると思うんですよね。」

 「若いのに、よく考えてるな。正直な所、君はただ机にかじりついて勉強するだけの秀才タイプかと思ってたんだけど、俺は君をちょっと誤解してたかもしれない。すまん。」

 そう言ってハレッシュは少しばつが悪そうに頭をかきながら謝った。

 「いえ、そんな頭を下げないでくださいよ。・・・っと、そろそろ交代の時間なんですね。僕、もう寝ます。」

 謝られたノルディスは、突然の事に慌てた様子で、時計を取り出してそう言った。気が付けば、見張りの交代の時間がやってきている。

 「ああ、そうだな・・・明日は採集に入るから、今日はゆっくり休むといいよ。」

 そして、毛布をかぶって横になったノルディスが寝静まるのを確認して、ハレッシュは一人、炎の前で考え事をしている風で座り込んだ。

 「自分の価値、存在意義、か・・・」

 一人つぶやいて、ポケットの一つからペンダントらしき物を取り出し。静かにそのペンダントを見つめるハレッシュ。それは、よく磨かれた銀で出来ており、そこにはノルディス達が今住まっている国、シグザール王家の紋章が彫り込まれていた。

 
 

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