あゆの夢

序章

眼下には小さな街並みが見え、背中には大きな白い翼がある。
気が付いた時には大空の中を飛んでいた。

「私は誰?」
「何故ここにいるの?」

透き通る体、感覚が無い手足、意識だけの存在。
自分の事を考える・・・、何も思い出せない。

どこかに行く目的もなく漂う様に飛ぶ私は、強い力に引き寄せられここに来た。
私を引き寄せるのは、黒い服を着た少年。


「・・・・・・・・・・・・・・。」
独り言を言いながら、少年は空を見上げて泣いている。

ほのかに空を赤く染める夕焼け近く、長い長い煙突の先からゆっくりと薄紫の煙が昇っていく。
頼りなさそうな、でも確実に、真っ直ぐ天へと上昇するその煙は大気の塵へ変化する。
その様子を眺めて少年は泣いている。

少年は動かない。
何年も前からの苔むした銅像の様に体を動かす事なく立ち続ける。
少年が生きている事を主張するのは、絶えずこぼれる涙。
体中の水分を全て吐き出す様に、止まることなく流れ続ける。

そこへ一人の女性が来た。
女性は少年に何事か話すと紙を手渡す。
少年は広げて目を通すと、抱きついて又泣き出した。

泣き続ける少年。
包むように抱きしめる女性。
女性の頬にも少年と呼応するように涙が流れている。


「どうして、そんなに泣いているの?」
心が締め付けられ悲鳴を上げる。

「泣かないで。」
聞こえないであろう叫びが、感情が、堰をきってあふれ出す。

「何があったの?」
少年の心に、一生消す事の出来ない傷が見える。

女性にすがりついて泣いている少年を見ているうちに私は思った。

「笑顔を見たい。」
心から笑い、傷が癒える、その時を見てみたい。

突然、光が現れて私の中に飛び込んできた。
瞬間、肢体に感覚が戻ってくる。

胸の中の光は私に語りかけてくる。
「貴方の願いを叶えて上げます。」と・・・