『雨』

『っと、ダリィ〜な』

大雨が降り頻る中、傘を忘れて店の軒先で、空を見上げていた。
視線を戻せば、傘の花が色とりどりに咲き乱れている。
傘の花と人をかき分けて、背丈の高い人影が近付いてきた。

「なんだ、お前かよ」

雨の中、傘を持って前にやって来た相手に、労いの言葉もない。
相手も判っているのか、少し苦笑いをするだけだった。

「誰も、暇を持て余していなかったからな」

開かれていない傘を差し出したが、それを受け取らずにさしている傘に入り込んだ。

「濡れるぞ」
「いいんだよ、こうしてえんだから」

同じ店の軒先で、雨宿りしてる女性を見付けると、傘をぶん取る。女性に近付いて、にこりと笑顔で手渡した。

「これ使って?なんか止みそうにないし。それに早く帰らないと風邪、ひくよ?」

目のやり場に困るほど、ずぶ濡れになった女性を見たら、誰もがそういうだろうという状態だった。返さなくていいからと、男同士の相合傘にもどって家路についた。





家に着く少し前には、すっかり大雨は止んでいた。空には雲が切れ、晴れ間が見え隠れし始めた。

「止んじまったな」

傘を閉じてしまう姿に、少し名残惜しそうな顔をした。

「明けない朝がないように、止まない雨はない」

判ってる、と背中を叩く。

「少し遠回りするか。このあと予定はないんだろ?」

そっと互いの手が触れて、どちらからともなく手を繋ぐ。
人目がない裏路地へ、足を踏みいれた。薄暗い細い道は、二人の行動を受け流すように静かな時間が流れていた。

「なあ、俺たち何してんだろうな。家に帰れば人目を気にしなくていいし、理解されてるし」
「理解があっても、いい顔はされていないだろう。お前は長男。私は居候の身で、嘘の戸籍で固められている。どこぞの馬の骨・・・」
「偽りの戸籍だって、あればいいほうだ。それにそれに見合う仕事もやってるだろ」

襟首を掴み自分の方に引き寄せ、下から見上げる瞳は怒りとも哀しみとも取れない色で染まっていた。

「俺は、俺自身が決めたことに後悔はない。あんた、俺と来たこと、後悔してるのか?」
「私も私自身が決めたこと。後悔はない」

相手の言葉を聞くと、襟首から乱暴に手を離した。捕まれた服は、くしゃくしゃになっていたが、それを直すこともしないで相手を見ていた。

「ならいいじゃねえか。周りがなんて言ったって、俺たちは俺たちだ。それだけで、充分じゃねえ?」

腕を伸ばして首に回し、少し背伸びしないと届かない唇に軽く触れる。
腰に回された腕が、強く引き寄せた。さらに密着した身体に、お互いの体温が伝わる。軽い口づけから、ディープなものへと変えた。息の上がり回した手が外れそうになっている相手の身体を、倒れ落ちないように支える。

「大丈夫か?」

少しやりすぎたかと、イヤらしい顔で覗き込んだ。

「エロ親父・・・んなとこで、盛ってんなよ」

嫌味で言った言葉も、相手には通じてなかった。それどころか、耳元で。

「そんなうるんだ瞳で、凄んでも説得力はないぞ」

悪態をついていても、心臓は早く脈打ち、うるんだ瞳で相手を見ている。自覚はなくとも誘う声色には、変化していた。

「拒否権はお前にある。抵抗しないなら・・・」

相手のベルト、ボタン、ジッパーと手をかけ外す。下着の中に手をいれて、直接触れると、首に回されていた手が抵抗のためなのか外れて中にある手を追う。
抵抗というには、弱々しい力に笑い。相手の手を掴んで、相手自身を触れさせた。

「サイテ〜だ、あんた」
「でも嫌いになれない」

先走る白濁の液体を指に絡ませて、うしろに導く。

「どこまで、本気でやるつもりだよ。ズボンが・・・」

ただでさえ、大雨が降っていた時に裾に跳ねて汚れている。譬、地面がコンクリートで、雨がやんだ今であろうとも、裏路地は未だ雨のあとを残している。
晴れ始めた街には、建物の中に隠れていた人影が、ちらほらと現れ始めていた。普段覗きこもうとはしない裏路地も、何か動けば気になるだろう。
大体中間で、さらに奥に身体を隠している二人を注意深く見たところで、気が付く人間はいない。本番を譬始めたところで、問題はなかった。なんだかんだ言っていても、もう身体の熱はナニかをしない限りは冷めそうになかった。
それは解りきったこと。それでも、抵抗せずにはいられなかった。

「私のせいにしてもいい。今は、身体を預けろ」
「くそったれ・・・」

悪態をついても、自分の意志ではもうどうにもならないところまで来ていた。止まるところを知らない感情をどうにかしたくて、相手の首に手を回して身体を預けた。
密着してきた身体の腰へと手を回し、更に隙間がなくなるくらい抱き寄せる。片手を腰から動かし、脱がし掛けていたズボンと下着を一緒に降ろした。片足にズボンを引っかけるようにして、その足を腰のあたりまで持ち上げた。

立っている分、ゆっくりと押し進めるつもりでも、急速に奥へと突き進んでいった。その速度に耐えられなかったのか、肩口に顔を埋め声を押し殺した。掴んでいた両肘に手が食い込むほど、力を込めたまま。

「もう少し、息を抜け」
「・・・うっさいっ!」

自分のことで手一杯の二人は、相手を気遣うほどの気持ちの余裕がなかった。すべてを収めてしまってから、一息と言わんばかりに動きを止めた。

「まだ・・・動く・・・なよ・・・つれー・・・のは・・・お前・・・だけ・・・じゃぇ・・・んだから・・・な・・・」

息も絶え絶えな相手に、ディーブなキスをした。鼻で息することもままならないと、片足と相手に支えられてるだけのバランスの悪い状態でなければ、抵抗や悪態もついていただろう。鼻から抜ける声は、苦しいと訴えているのに、いっこうに相手はキスをやめようとしなかった。いっそう深くなるキスに、力が抜ける。
崩れ落ちそうな身体を支えて、更に動き出す。激しい動きについて行けなくなって、身体をゆだねて支える片足ががくがくと震えだした。

「ちゃんと立って・・・」

身体と壁に挟まれた状態になっても、微妙な体勢に必死に捕まって踏ん張っていた。ズボンのポケットに手を入れて、二つの小さなものを取り出した。二つとも開けると、一つは相手のもう一つは・・・

「なんで・・・二つも・・・持って・・・」
「細かいことは気にするな。持ってることは男の嗜みなんだろ?」

にやりと笑うと、相手の言葉に顔を真っ赤に染める。以前、相手に向かって言った言葉を返されているんだと、最中でなければ殴りたいと心から思っていた。
限界に近づいてきて、どちらからともなく口づけを交わした。深く吸い声を出させないように、歓喜の声すら相手の口の中に吸い込まれていった。





情事が済むと、服を整え白濁の入ったそれを近くにあったポリバケツの中へと、何事もなかったように捨てた。

「・・・さいてぇ・・・」

先ほどの情事の倦怠感はぬぐえず、壁によりかかっていた。壁と壁のあいだの小さな空は、先ほどまで降っていた雨などを感じさせないほど、青く白い雲が時折流れていた。

「さて、行くか」

何事もなかったかのように、手を掴んで路地を出ようとしている相手を睨み付けた。少し目が赤くなっていて、それすら愛おしいと目の端に口づけした。

「てっ・・・てめぇ・・・」
「路地を出るぞ。まだ足りないようなら、家に帰ってから。今日は、妹御もご両親も遅くなるそうだぞ。食事は自分たちで何とかしろと、言われた」

留守を預かっている間に申しつけられた伝言を相手に告げると、更に怒りを露わにした。握り拳を作って相手に向かって放り投げても、簡単に受け止めてそのまま路地から大道路へと連れ出されてしまった。暗かった場所から明るい場所へと、連れ出されて目の前を腕で光を遮った。

「金輪際、雨が降っても頼まねえよ・・・」
「外に出ないから、雨はいいとか、以前は言っていたのになぁ」
「・・・・・・くそエロ親父っ!」

照れ隠しのように吐き捨てる相手の言葉に笑いながら、残り数メートルもない家路についた。その間、握られた手は一度も離れることはなかった。





[終]

後書き:なんて短さでしょう。っていうか、むしろ「や・お・い」です。やまはない、おちはない、いみはない・・・。ただ書きたかったんですよ、この二人が。っていうか、なんとなくこの二人になっただけなんだけど。
さて、この二人はいったい誰でしょう。(私は知っています。当たり前か)名前を出さずに書き上げるのは、自分ではこれが限度ってことで。
偽りの戸籍・・・あるだけ、本当にましですよね。ここのところ取り上げられている戸籍のない子供たちのこともあって、なんとなく社会的なことも取り上げてみる・・・。なんとなくそう思っただけ、なんですが・・・だめですね。
この二人のCPは、それぞれに想像してもらうことにしましょう。


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