一匹の黒猫を拾った。雨の中段ボールの中で鳴いていた。俺は段ボールごと抱えて家に戻ってきた。タオルで濡れた身体を拭いて部屋を温めて冷蔵庫に入っていた牛乳を少し温めて出きるかぎり手を尽くした。その甲斐もあって黒猫は元気で俺の足元でごろごろといい鳴きながら懐いている。黒猫は懐きにくいっていうけどこいつは違う。淋しい時にはちゃんと俺についてくれる。まるで判ってるかの様に。
「ただいま、クロネ。」
玄関を明けると右は黒に近い翠、左は黒に近い蒼の目が迎えてくれるはずなのに今日に限って迎えてくれなかった。俺はいつもいる所を探したが、見つからなかった。二階からもの音がして俺は電気を付けて二階に上がった。
「クロネ?クロネ?」
再度、もの音がした部屋のドアを開けて電気を付けた。
「くろ・・・だっ・・・誰だっ。」
「こんばんわ、まさゆき。」
「どうして俺の名前を・・・って、お前は何処から入ってきたんだ。」
「どこってサイショからいたよ、まさゆき。おれだよ、おれ。クロネ。」
「クロネ?何処をどう見たらクロネなんて・・・。」
俺は言われてやっと目の前にいた男の二つの光に気がついた。クロネと一緒の瞳。オッドアイ。左右の違う輝き。
「ホントにクロネ?でもどうして・・・。」
「ネコマタにあいにいってたのんだんだ。」
「猫叉って・・・あの化け物の一種って言われるアレ?」
こつこつとクロネは話し始めた。クロネが逢った猫叉は本人の願いが叶ったら何かを代償にすることらしいが、その代償がなんなのか教えてはくれなかった。クロネの願い事もなんなのか判らない。俺はクローゼットからクリーニングから戻ってきた服をクロネに着せた。
「大きさは・・・俺より小さいな、クロネ。しかたない、休日に服を買いに行くからな。」
袖を少し折って手が出るようにし、足も裾を折って足が出るようにする。普通にご飯を食べるというから、俺は久々に誰かに食べさせる料理を作った。自分で食べる分にはよく作ってたけどさ。
「でっ、自信はないんだけど、味はどう?」
「おいしいよ、まさゆき。」
「そう、良かった。」
クロネは本当に美味しそうに俺の料理を食べてくれている。俺もようやく自分の料理に手をつけた。

クロネが人間になってから数日が立っていた。鳴き声から”お帰りなさい”、”いってらっしゃい”に変わったあの日。毎日テレビを見てクロネは漢字も言える言葉の数も増えてきている。芸能ニュースを見ているせいで変な事も憶え、俺にそれを聞いて来るのは止めてほしいかなと思う。だって不倫だ、出来ちゃった結婚とか、いろいろとドラマで見たことも俺に聞くからすっごく恥ずかしかった。
「ねぇ、ねぇ、柾幸。」
「ん?今日は何を聞きたいんだ?」
「ずっと俺、言わなきゃって思ってた。」
「クロネがいいたいこと?」
「そう。胸に秘めてたもの。だから俺、テレビ見て勉強してた。俺の中にあるモノを伝えるために。」
「うん。そうか。」
「俺、拾ってもらえたことすごく嬉しかった。こんな目のせいで嫌われてた。黒いし、余計に。」
「俺は好きだよ、その違う瞳。黒い毛並みも好きだ。」
俺はクロネに近づいて抱きしめて頭を撫でてやる。クロネも抱きしめ返してきて顔を胸にすり寄せてくる。猫の姿の時も抱きしめると感じるクロネが持つ暖かみ。
「ありがとう、柾幸。そういってくれたのは柾幸だけ。俺が人間になっていいたかったこと、それはね。」
「それは?」
「感謝の気持ち。ありがとうって気持ち。伝えたかった。やっと言えた、俺の気持ち。」
「もしかしてそれがクロネの願い事?そしたら代償が・・・。」
「うん、持って行かれちゃう。判ってる。でも少し、違うんだ。もう一つ、柾幸に伝えたい事があるんだ。」
「もうひとつ?」
「そうもう一つ。これで俺の願いが叶う・・・。」
クロネの腕が背中を廻って俺の頭についた。何だろうって思った時にはクロネの唇が俺の唇に重ねられていた。チープな口付けだったけどすごく気持ちが伝わって来ると言うか、クロネの暖かい体温が伝わって来る。
「くっ・・・クロネっ。」
「これが俺のもう一つの願い。したいんだ、一度でもいいから。」
クロネの舌が唇から顎へズレて来る。人の舌とは少し違うざらざらとした感触。首から下へと下りて。
「ちょっ・・・待って、クロネ。」
「イヤ?・・・柾幸がイヤならやめる。ごめん・・・。」
クロネは俺から離れていく。気持ちも身体も・・・。俺は抱きしめた。強く、思いをこめて。
「まっ・・・柾幸?」
強く抱きしめた腕の中でいるクロネが驚いてるのは判る。それでも俺はクロネの事を最初に見た時から見とれてた。クロネの両目、毛並み、ネコの時の動きとかすべて気にっていた。誰にも取られたくない、去られたくないって思うほど。
「イヤじゃないよ、驚いたんだ。いきなりだったから。」
「そっか・・・良かった。好き、柾幸。」
「俺も好きだよ、クロネ。」

俺達はベッドに移ってから抱き合った。クロネの舌の動きに翻弄されていた。ちらりとこちらを見る違う瞳が気になって、でも見つめられると動けなくなって。クロネが本当の願いを叶えたことになる。期限までに・・・。クロネと猫叉と交わした契約がなんなのか気になる。代償は一体、なんなのか・・・。俺の横で寝ているクロネを見ていると何が代償なのか全く判らない。本当になにと交換しようとしていたのか・・・。
「・・・ふにゅ・・・柾幸?おはよう。」
「おはよう、クロネ。もう少し寝ててもいいよ?」
「うん・・・柾幸・・・。」
クロネの寝ぼけ眼。目を擦りながら俺に近づいて来る顔。俺とクロネの唇が重なり合ってまたクロネが睡魔に誘われるように寝息を立てる。もともと猫だし寝る事が趣味みたいなもんだもんな。たくさん寝かせてやろうって思う。今は気持ちが通じ合ってるから。
「おやすみ、クロネ。」
俺は時計をみて起きないといけない時間だった。目覚ましが鳴らないようにオフにしてからベッドから起き上がった。
着替えてからベッドに戻って来るとまだクロネは眠っていた。俺は眠っているクロネの頬に口づけしてから家を出て行った。

いつも通りに授業を受けて帰って来るとクロネが玄関先で待っててくれた。でもいつもと違う。俺の方を見ているけど、片方に光が見えない。どうして・・・
「お帰り、柾幸。」
「ただいま・・・クロネ。」
「ねぇ、柾幸。俺ね、ずっとこの姿でいる事、できるって猫叉が言ってくれたんだ。」
「良かったね。猫の姿も愛しかったけど、今は人間の姿のクロネもとても愛しいって思っていたんだ。」
「そう、嬉しい。柾幸がそう思ってくれて。」
「ねぇ、クロネ、聞きたい事があるの。」
中に入ってキッチンから飲み物を持って来てソファーに二人で掛けながら俺は切り出した。とても気になるクロネの瞳の光。
「なぁ、俺に隠してることないか?」
「何もないよ、柾幸。」
「あるだろうがっ!」
俺はクロネの顎を掴んで自分の方を向けた。今朝までは気がつかなかったけど、今は髪の毛で巧みに隠しているそこ。俺は髪の毛を掻き上げてクロネの瞳をのぞき込んだ。
「・・・。」
「こっち、瞳がない・・・のか?」
「・・・。」
「クロネ、ちゃんと答えて。俺を両目で見てっ!」
「・・・もう・・・見れない。両目では・・・もうっ・・・。」
俺は初めて見た。クロネが涙を流して泣く所を。いつも笑顔を絶やさずにいてくれたのに。今は俺が流してるんだって思うとなんだか胸が締めつけられる。クロネの涙をとめたくて、猫の様に俺はクロネの流れる涙を舐め取った。
「・・・柾幸?」
「ごめん、わがまま言った。もうお前の深い蒼の瞳では見られないのかと思うと哀しくなったんだ。どうしてそれを言わなかったのかも・・・。」
「柾幸・・・。柾幸が泣くと思って言えなかったんだ。俺の両目を気にっていた柾幸に。」
「俺のため?すべて俺のためなんだな、クロネ。片目でも俺はクロネの事、好きだよ。その深い翠の瞳で俺を見て。」
「うん、もちろん。残った目でいくらでも見るよ。」
「クロネ・・・。」
「柾幸・・・。」
俺達は見つめ合ったまま口付けた。深い翠の瞳は俺のことを映し出していた。蒼のときも翠のときも同じように俺を移し出すけど、少し違っている。でも翠の瞳で俺を覗き込んでいるクロネの姿も俺は好きなんだ。
「クロネ。好きだよ。」
「俺も愛してる、柾幸。」


「終」

後書き:・・・何じゃこりゃっ!短いってもんじゃねえし、話しの内容無いじゃないかって・・・。なんとなく書きたかった事なんだけど、一人称にするとこんなに難しいモノなんだなぁって思ってしまった。判っていてもこのまま上げてしまう私って・・・(笑)最近、三人称で書いてるのでそっちが簡単になっているのかもしれません。やっぱ、エッチとかそういうのを含めると三人称のほうが楽なんでしょうね。あっ、柾幸の名字、出してなかった。いつか出すかも。ちなみにクロネは黒い猫で、クロネと名づけてしまうのでした。この二人を含めた話しを違う所で書くかもしれません。その時は、「あぁ、こいつたちいたなぁ」と思い出してやってください。
追加:画像で見づらいかもってこともあるかと思います。そして今回は色で悩みました。蒼にするべきか、翠にするべきか・・・。見えていないほうの色をとり、蒼にしてみました。


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