守られてばかりのままではいけないと城司は自分自身を強くするためにいろいろと考えるようになった。精神を鍛えるために座禅を組んでみたり、肉体を鍛えるためにジムに通ってみたり、浜辺を走ってみたり、いろいろと自分を鍛える事を試していた。少しずつ自分に自信を持つことは出来る様になった。言い返せるぐらいの精神を持てる様になった。あとはこの鍛えた自分で他の人を守る事ができるようになること。守られてばかりの自分から抜け出しても自分を取り巻く友人、知人、大切な人を守り抜くための技術を持つこと。それができれば完璧だと城司は思った。

「なぁ、お城?」
「ん?何、ちーさん。」
「お前さ、強くなったよな。」
「そうかな、そうでもないよ。未だに夜は夢にうなされる事もある。」
「それでも強くなってる。」

食事終了後、台所に二人並んで皿を洗っていた。城司は強いと千明に言われても、自分のしていることが強くなる方法になっているのか、考えることもあった。精神を強く持て、肉体を強く出来るように。

「弱いよ、俺はまだ。だから・・・。」
「だから俺達がお前の傍にいて見守るから。なんかあったらちゃんと相談しろよ。」
「判ってるよっ、ちーさん。」

城司はこの春で三年生になる。今年から就職活動に取り組もうとする学生は多くいた。その中で城司はのらりくらりと灰色の世界には入らなかった。城司の頭の中にはすでに店を継ぐと言う決意が決まっていたからだ。洸一や和貴、雅広もあまり就職活動には興味を示さなかった。彼らも自分の親に自分の未来を決められていたが、それは足かけにしかならず、次へのステップを目指すために社会勉強として親の力を借りて就職する事になっていた。

「城司、お前さ、就職活動はするんだろ?」
「ん?ううん、しないよ。俺は親の店が有る。それが駄目だっていうなら何か俺で出来る事を考える。」
「お前らしいな。頑張れよ、城司。」

和貴はほんの少しの間に培われた城司像が、きちんとした姿で出来ていた。城司が最近、経済についての勉強を始めているのは知っていた。

「どうせ在宅ワークしそうだけどな。お城にならそれぐらいできるからな。PCも色々とって何やらやらかしてるらしいじゃん?」
「やらかすって・・・特に何かをしてる訳じゃ。システムを作ったり、ゲーム作ったり時間はかかるけど遊んでるだけで・・・。」
「その割にはいろいろと収入が有るそうじゃないか。まったく、とんだ神童だよ。」

ほんの数回垣間見せた”神童”と呼ばれる所以のことがあった。それを洸一が口にすると城司は、ものすごくイヤな顔をした。

「ちげえよ、そんなんじゃない。覚えれば誰にだって出来るもんだから。」
「どうせ城司のことだから名前は出してないんだろう?」
「ん・・・まぁ。」

テーブルの上においてあった城司の携帯が震え、四人とも自分の携帯を見た。城司の携帯が振るえてるのを見と様子を見ていた。城司は携帯をとって見るとメールが届いていた。読むとすぐに閉じてテーブルに置く。

「どうしたんだ、お城。」
「また作ってくれってさ。契約だよ、契約。会社に行かないとな。スーツ着てあの店を出るのが大変なんだよね。」
「菰田さんか?」
「いや周りがさ。お見合いするわけじゃないのに。」
「見合い??」

洸一が机を叩いて立ち上がった。

「しないってば。よく近所のおばさんが持って来るけど、俺まだ大学三年だよ?するわけないじゃない。」

大学のゼミ室で馬鹿話に花を咲かせていると廊下側から城司を呼ぶ男子がいた。城司たちはドアの方を見た。

「菰田、お前に面会。」
「俺?誰。」
「一宮だって言ってるけど?」
「一宮?」

城司が疑問系で相手に尋ねるとドアの方から名前を呼ばれた相手が出てきた。案内した友人はそのまま部屋に入ってきた。桐吾は教室の前で立ち止まったままだった。

「こんにちは。お店に行ったら学校に居ると聞いて。おや、またお逢いしましたね、和貴くんに洸一くんに雅広くん。」
「お前もしつこいな。」

和貴がイヤな顔をして桐吾の方を見た。

「城司くんに話しをちゃんとしないとすっきりしないんですよ。時間、いいでしょうか、城司くん。」
「ごめんなさい、今はちょっと。これから先生来ますし、授業も始まります。それに今日は放課後は急用が出来てしまって。今日は時間を取れそうに無いんですよ。」
「そう、残念だね。」
「無駄足にしてしまって申し訳ないです。」

城司は立ち上がってゆっくりと頭を下げると、謝罪を口にした。

「そうですか。いつなら時間が取れますか?」
「ちょっと判りかねるんです。レポもやらなければいけないですし、試験の勉強もしなければいけないので。」
「お城・・・。」

心配そうに三人の顔が向かれた。雅弘だけが城司の服の裾を引っ張った。小声で呼んでいたつもりでいたが、桐吾の耳には入っていた。

「君もお城と呼ばれているんですね。」
「そうですね。本当は厭なんですけど、言っても駄目な連中だからほっといてるんですけどね。」
「そういえばあなたのお父様もお城と呼んでますが。」
「あぁ・・・あの人は小さな頃から呼びやすいからとそう呼んでるんです。まったく哀しいモノですね、女みたいだからやめろと大きくなってからは口を酸っぱく言ってるんですけど。」

前扉が開いて男性が一人、手をあげ楽しげな笑顔を浮かべて入ってきた。全員の視線は男性のほうへと向いた。

「ハロー、エブリワン。」
「なんて見事な日本語英語。」

桐吾は目を丸くして入ってきた男性を見ていた。

「いつものことですよ、あの人は。今日は英語みたいですけど。」
「あら、知らない顔がいるみたいだけど、誰かしら?」
「・・・でた、おかまことば。」
「俺達の知り合いです。」
「そうなの?悪いけどこれから授業が始まるからあなたも自分の教室へお行きなさい。」

日本語英語にも驚いていたが、おかまことばに更に唖然としていたが、城司が勉強していることがなんなのか気になった。素朴な疑問を桐吾は口にした。

「僕はここの学生ではないので。あの、失礼ですが何を教えてらっしゃるんですか?」
「おかま語。」
「こてこて日本語英語とか中国語とかいろいろ?」

教師が答える前に生徒が次々と声を上げると笑い声が教室に響いた。城司たちも其れを訂正しないでやり取りを見ていた。桜井茂は他国語を綺麗に日本語で話したりおかまことばを話したりして場の雰囲気をなごませていた。

「さて始めたいのだけれど、いいかしら?」
「Yes、Sir。」
「それで、其処の坊やは授業を受けるのかしら?受けないのかしら?」
「いえ、失礼しました。城司くん、またお会いしましょう。」

後ろの扉を開けて桐吾が出て行った。始めるわよとひとこというと桜井は授業を始めた。城司たちはノートだけを取り出し桜井の話を聞きながら必要な所をメモを取り始めた。授業の時は桜井はおかまことばではなくまともなことばで生徒達に教えて行く。

「あら、チャイムが鳴ったわ。今日は此れでお終いにしましょう。グッバーイ、エブリワン。」
「Thank you、Mr.桜井。」
「バイバ〜イ。また来週逢いましょうね。」

桜井は入って来た時と同様に手をあげて前扉から出て行った。城司たちは荷物を片付けて次の行動について話し合っていた。今日の授業を終わらせた城司はこれから家へ帰ってスーツに着替えてから会社訪問をしないといけないとぐちりっていた。洸一たちはそのまま渋谷に出る事にした。学校の最寄り駅から城司と洸一たちは別れた。乗る電車が違うためだ。
契約をとって城司は家に戻ってきた。店には桐吾が城司の帰りを待っていた。

「お帰りなさい、城司くん。」
「いらっしゃいませ、一宮さん。」

目の前にいた桐吾に一瞬驚くが、それを顔に出さないようににこりと笑いかけた。

「今からならいいかな、時間。」
「そんなに俺と話してどうするんですか?」
「君はきっと俺の弟だと思うから。」
「似てるから似すぎてるからそう思ってるだけじゃないですか?」
「一度でいいから話す時間をくれないかな?」

ため息をつきたいのを我慢して、二人っきりになることを望んでいなかった城司は、視線が一度千明を見ていた。

「ここでいいなら。俺、仕事ありますし。」
「スーツ姿ですね、今日は就職活動を?」
「まぁ、そんなところです。着替えてきますので奥のテーブルで待っててもらえますか?」
「えぇ、いいですよ。」

城司は二階に上がってスーツから普段着に着替えると下りてきてお茶を用意してもらってテーブルについた。桐吾を前にして城司は常に自分を押さえる事を重視した。自分の正体が桐吾にバレて連れ帰られ、再び男たちや一宮親子に自分の身体をいじくり廻されないようにしたかった。必死に自分のことばを慎重に選び、本当の心を隠して城司は桐吾と一時間以上話していた。しばらくして桐吾は諦めたような顔をして椅子から立ち上がった。

「そろそろ俺は失礼しますね。」
「えぇ。」
「話せてよかった。でも諦めないから、城司くん。君の正体を暴いてみせる。」
「はぁ・・・そりゃ、頑張って下さい。」

諦めていないときっぱり言われると城司は呆れて物もいえなかった。桐吾はそのまま店を立ち去った。城司はカップを持ってカウンタに持って行くと話していた内容を告げて更に諦めていない事も告げると、千明たちは呆れて目を丸くしていた。

「しつこい奴だな・・・。」

まったくだよなぁ、と周りに残っていた千明の友人達が口々に言っていた。

「気長にやっていくよ。俺はここから動かないって決めたし。」
「動かないってお前、就職は?」
「してるじゃん、”蜃気楼茶社”にさ。」
「城司、スーツ着てたのは何故?」

就職していると口にしているわりに、スーツを着ている矛盾点をしている城司を栗栖は首を傾げた。

「あぁ、契約をしに行ってただけ。」
「契約?」
「在宅ワークって奴。小遣い稼ぎにしかならないから、今はそれでやってるだけだよ。」
「お城、何者?」

千明の息子になったとはいえ、正体をも知らない男を見ているような目で城司を見た。

「菰田城司。それ以下でも以上でもない。普通の男だよ。」
「普通にみえないよ、城司。」

両手を上げて栗栖は首を振った。城司はこちらでものらりくらりと話しをかわしていた。店の中は笑いで溢れた。千明は城司の頭を撫でると城司は苦笑いを浮かべながら千明の腕を必死に掴んでどかそうとしていた。成人を越えても千明にとっては城司は拾った時のままの子供でしかなかった。

「まったく、成人してもこれかよ。」
「いいだろ、お前は俺の子供なんやからさ。お前がここを継ぐいうなら俺は違う趣味を見つけ出すかな。」
「いいじゃん、ここに老マスターってことで。」
「ったく、生言ってんじゃないで、城司。」

ヘッドロックをかけて生意気なことを言う城司に、千明はぐりぐりと頭をなで回した。それを見ていた栗栖は、ヘルプを出している城司のために千明に声をかけた。

「ちーちゃん、俺にコーヒーくれよ。」
「おう。」

城司はトレイをカウンタに置いてスツールに座り千明のコーヒーを入れる手さばきを見ていた。その横で栗栖は店においてある漫画雑誌を読みながらそれでもテレビを付けてほしいと城司に告げると、手元に有ったリモコンを使ってモニター電源を付けて番号を適当に廻した。今の時期はスポーツ番組が多く廻す番組は殆どニュースでスポーツの結果を流していた。城司は新聞を見ながらスポーツ番組と照らし合わせながら見た。

「お城、暇ならミックの散歩。」
「はーい、了解です。」

城司は新聞をラックの中に入れると二階に上がり、ミックを連れて外に出かけて行った。浜辺ではサーフィンやボート、釣りを楽しむ人達がいた。ミックの手綱を離して浜辺を走らせておいて自分は砂の上で座り込んだ。時折、サーフィンをしている若者が城司に話しかけては海へ戻っていくの繰り返しをしていた。

「あれ、お城。なにしてんの?サボり?」
「砂原さん。違うよ、ミックの散歩。俺は休憩中。」
「エプロン姿でここにいるからサボってるのかと思ったよ。」
「忘れてた・・・。」
「んで、店は?」

髪の毛を掻き上げながら、エプロン姿のままで居ることを恥ずかしく思いながら、指を店の方に向けた。

「まだやってるよ、今はちーさんが美味しいコーヒー煎れてくれるよ。」
「そっか、ちーちゃんの。んじゃ、一杯もらいに行って来るかな。それよりいいの?ミック随分と遠くまで行ってるみたいだけど?」
「えっ?まじ?ったく・・・連れて来るかな。」
「またな。」
「はい。」

砂原は喫茶店の方へ城司はミックを迎えに砂浜を足音を追って歩き出した。ミックを掴まえるのに時間をかけてしまい、店に戻るとすでに砂原は帰っていた。城司はミックを二階に戻すと店の手伝いの続きを始めた。閉店まじかもあって客も少なくすることはまたなくなっていた。

「今日は人が少ないから閉店すっかな。」
「俺らがいるってのにその発言はいかがなモノかと思うよ、ちーちゃん。」
「お前らは半分、客やあらへんやろうが。それに閉店までいてそのあとどうせ遊びに行くんやろ?」
「もちろん、当り前じゃん。俺らは城司くんを連れて街に出たい訳よ。」
「なんで?」

千明は普段一緒にいるところを見ていたが、何をしているのかまでは把握していなかった。

「ナンパしやすいから。」
「確かにお城はええ顔しとるからな。女は掴み放題やろ?」
「全部、持って行かれるけどね。」
「だから俺は行かないって。自分達で掴まえなよ、楽してないでさ。」

栗栖の肩を叩いて城司は拒否のことばを口にした。

「ちーちゃんは遊び人だったのに、城ちゃんは遊び人にならないのね。」
「いいんじゃない、そのほうがさ。孕まして家に帰り辛くなるの、厭だし。」
「流石はちーちゃんの息子。性格正反対に育つもんだね。」
「ええ加減にせえよ、ったく。ほら、お城。ボード、出してこい。こいつらで最後だ。」
「オーケー。」

ドアを開けてオープンからクローズにしてドアをしめた。城司は人のいないテーブルを布巾で拭いて綺麗にしてから椅子を上げていった。スツールにいる栗栖は片づけをしている城司の様子を見ながらコーヒーを飲んだ。

「城ちゃんに振られたから俺らは行くかね。」
「あぁ。また遊ぼうな、お城。」
「あぁ、またな。」

栗栖たちは店を出て行った。城司は店の中を掃除するとスツールに座った。千明が一杯のコーヒーを前に出した。

「今日の夕飯は何がええ?」
「夕飯か・・・。何がいいかな。結構思いつかないんだけど。」
「お前、勉強は?」
「大丈夫、学校で宿題はやってきたし。」

課題以外はいいのかとは口には出さないで、千明は城司の様子を見ていた。

「そっか。ならええんや。」
「ちょっと寝る・・・。疲れた。」
「上で寝ろよ。ミックに抱きついてさ。」
「うん・・・。」

城司はコーヒーを飲み干してからエプロンを外して二階に上がり、自室に入る前にミックを連れて行った。ベッドの上にミックを抱きしめながら横になって目を閉じると、すぐに睡魔がやってきて夢のなかへ誘われた。
城司の鼻に美味しい匂いがくすぐった。千明がドアをノックすると城司が目を擦りながらドアを開けた。

「おそようさん、お城。飯、できたから食おうや。」
「うん。」
「顔、洗ってきいや。涎、たれとるで。ミック行くで。」

城司は口元を擦って嘘だと判るとすでに去って行った千明を追いかけてリビングまで歩いて行った。すでにテーブルについていた千明に座るように促され、足元にはミックが座って待っていた。

「ほれ、食いや。」
「うん。いただきます。」

手を合わせてから端を掴んで食事を始めた。食べる様子を見てから千明も食事を摂り始めた。

「そういえば、夕寝は起きへんで寝てたな。やっぱ疲れてたせいなんか?」
「たぶんね。あっ、そうだ。今日から夜食お願いしてもいい?」
「ええよ、いつまで?」
「ん〜・・・判らない。とりあえず、出来上がる迄かな。」

授業がないときならば、睡眠を削ってでも出来るからと契約をしてくるのだが、今回は休みが週末しかない状態だった。

「難しいん、今回のは。」
「ちょっとね・・・だから少し時間がかかる。それに授業も出ないといけないから多少はね。」
「手間掛るんならちゃんと考えて契約しいや。」
「判ってるって。」

ご馳走様と城司は食べる前のとき同様に手を合わせていうと、食器をキッチンに置いて自分の部屋に戻った。早速PCを立ち上げるとメールのチェックから始めてキーボードとマウスを巧みに使っていく。
夜食を作って城司の部屋に訪ねた千明も心配するほど、城司は契約の通りに動くプログラム作りに熱心になっていた。千明は夜食を置いて部屋から出て来ると時間を気にしながらリビングで出て来るのを待っていた。
食器を持って城司が部屋を出てきたのは朝方だった。これから学校の準備が有るために一度睡眠を取ろうとリビングへ持って来たのだ。リビングではテーブルに身体を預けて寝ている千明がいた。城司は自分の来ていたカーディガンを千明の肩にかけるとキッチンで軽く食事が出来る様なものを作って冷蔵庫の中にしまうと自分は水を飲んで部屋に戻った。携帯で時間を見て目覚ましをセットすると目を閉じて睡魔が夢へと誘うのを待った。
目を覚ました千明はテーブルで寝ていたのに気がついた。肩から何かが落ちて行く城司のために買ったカーディガンを拾うと周囲を見渡した。テーブルの上に一枚の紙が置いてあり読んでからキッチンへ向かった。冷蔵庫からサンドイッチを取り出すとお茶と一緒に食べた。

「何時までやつはやってたんだか。ったく、いくら仕事だからって身体を壊したらどうするんだよ。」

千明は冷蔵庫に再度、新しいサンドイッチを作っていれると城司の部屋に向かった。鍵の掛っている部屋に軽くノックをしたが出ては来なかった。千明は部屋のドアに置き手紙をすると着替えて店の準備に下りて行った。

『おそようさん。サンドイッチありがとさん。お礼に作っといたから学校行く前に食いや。千明』






城司の卒論はひっそりとしたもので、それでも無事に卒業をする事ができた。洸一たちは卒業すると自分達の親の会社にそれぞれ入社した。城司は未だに一宮が尋ねてきては話をして精神的苦痛を感じてはいたが、喫茶店で働きながらライフワークにPC関連の仕事をしていた。

『よお、城司。元気にしてる?』
「洸一、何やってんの?仕事帰り?」
『ったくハードでやんなるよ。しばらくお前とも会ってないし、美味いコーヒーと紅茶が飲みたいよ。』

洸一の冗談のような本音に城司は笑いながら聞いていた。

「いつでもおいでよ。年中無休だし、いまんとこは。それにちーさんも楽しみにしてるからさ。」
『おう。じゃぁ、また会いに行くよ。』
「あぁ、またな。」

城司は電話をしながらPCの仕事をしていた。ここ最近では会計処理も千明に任されていて管理をしている。千明は城司に店を明け渡し自分の趣味をつけるための時間を取るつもりでいた。本来、身体を動かすのが好きな千明は、英や栗栖たちに誘われては、海に行きサーフボードや野球をして楽しんでいた。城司の学費を作るために根を詰めて仕事をしていたのだ。千明もそろそろ自分の楽しみを更に増やしたいと思っていたのだ。

「じゃぁ、行って来るさかい。」
「行ってらっしゃい。留守番は任せておいて、頑張って勝ってきてね。」
「もちろん、任しときや!」

昼になると千明は城司を置いて英と一緒に車に乗り草野球をしに向かった。城司は店番をしながら一日優雅に過ごしていた。

「やぁ、城司。」
「洸一、和貴、雅広。元気?残念ながらちーさんは今、野球に出て行ったからコーヒーは美味しくないかもよ。」
「紅茶は美味いだろ?」
「任しといて。」

当然という顔で三人の顔を見ていた。自信が溢れている城司に和貴は笑いながら、メニューを指さした。

「んじゃ、お薦め紅茶三つね。」
「適当に座って下さいね。」

城司は水とおしぼりを持って三人の座った席に行く。其れらを置いてカウンタに戻って紅茶の準備をしだした。

「最近どうよ、洸一、和貴、雅広。」
「どうよって言われてもなぁ。」
「商社マンは疲れるだけだぞ。」
「まったくだよ。下っ端だから走り廻されて茶煎れて、コピーやって。」

三者三様な答えでも言っている大まかな意味は、同じようなことだった。

「茶煎れ、巧く入れる方法を教えてくれよ、城司。」
「コツねぇ・・・。温度とか蒸らす時間じゃないかな?」

用意をすませるとカップとポットをトレイに乗せて席に向かう。四人がけのところに城司が座れるぐらいの場所を作りそこへ座らせてもらった。

「いい?お茶はね、それぞれ温度が違うんだ。蒸らす時間は大体三分から五分の間。」

砂時計が落ちて行くのを三人に見せながら城司は紅茶の説明を始めた。砂が落ちきってから茶葉を煎れないように茶こしを使いながらポットの中についでいき、そのあとからカップへと注いで行く。

「こういう感じで出来上がり。」
「ポイントだけを押さえればいいわけか。」
「そういうこと。これだけできれば美味しい紅茶の出来上がり。あとはその人の好みによって変わってくるけどね。」
「なるほど。今度こそ、あいつにぎゃふんと言わせてやる。」
「ガンバレ、雅広。」

城司たちが楽しく談話をしているとドアを開ける音がした。城司はドアを見ないで立ち上がってカウンタの方へ向かった。

「いらっしゃいませ、席はお好きな所へ。」

ドアを開けた相手は店の中に入り、カウンタの方へまっすぐやってきた。和貴たちは入って来た人物を見てことばを失った。城司も三人の様子を横目で見ながらカウンタ前に立ち止まった人物に見入った。

「久しいな、城司。」
「えっと・・・どちらさまで。」

うすうすと城司は相手が朔弥だということは判っていた。双子の力というべき遺伝子が、近寄ってきた朔弥を感じさせていた。城司は繋がれたDNAから逃れようと必死に自分とは違う人格を作り出していた。

「判り切っている事をいうな。俺と同じDNAでこちらが感じているモノを、お前が感じていないはずがないだろう。」
「なんの事でしょうか。俺にはさっぱり判らないです。」
「シラを切るつもりか?まぁ、いい。お前がその気ならそれでも。ひとこと告げに来ただけだからな。お父様からの伝言だ。お前は金児家で生まれ育ちながらも私の命から逃げ、他人の家に行き続けるクズだ。二度と金児家に足を踏み入れることは許さない。何処へなりともいけ。それから一宮家から縁を切り、お前をここの籍に正式に入れた。」
「・・・。」
「じゃぁな、城司。」

朔弥は自分のいいたい事を告げると向きを変え、ドアから出て行くと車に乗り込み去って行った。告げられた城司はただ呆然とするだけだった。しかしそのことばは胸に響いていた。自分の自由を手に入れる事ができたからだ。一度金児の籍から外され一宮家に入れられた城司は金児家の援助を貰えるとは思っても見なかった。

「相変わらず、綺麗だったなぁ・・・朔弥さま。」
「ホント、変わらずと言うよりは一段と綺麗になったよ。」
「有無を言わさず、いいたいことを言って立ち去るか。流石は金児財閥を背負う人材だな。」
「でも良かったな、城司。これで一宮のほうを考えなくて済むな。」

朔弥の姿を見てことばも出なかった三人は、立ち去った後に余韻に浸りながらも感想を述べた。洸一は城司を見ながら解決した問題を素直に喜んだ。

「ん〜・・・それはどうなんだろう。微妙なところだけどね。まぁ、ひとつ問題は解決したってことは判ったかな。」
「一宮が来るって事か。」
「今のところは俺と話して帰るって繰り返してるよ。今は夢を見ないほど忙しいからいいけどさ。」
「お前さ、コン詰めてやんなよ、そのうちぶっ倒れるぞ。」
「大丈夫、大丈夫。どのくらいで倒れるかは経験済。その前にやめるから。」

大きなため息を三人がした。和貴は近くにいて倒れていたことを知っていたのか、呆れた顔をしていた。

「・・・全然、大丈夫じゃないじゃんか。」
「何か手伝える事が有ったら言ってくれよ?」
「ありがとう。でもなぁ、仕事抱えてる身のお前らに増やす事はできないからさ。気持ちだけ受け取っておくよ。」
「無茶だけはするなよ。」
「あぁ、判ってるよ。」

城司は洗い物を済ましおしぼりを専用の洗濯機に投げ込んだ。時間になると客があとからあとから入ってきて忙しくなり、城司はテーブルとカウンタを行ったり来した。その間、洸一たちは話しをしながら城司の働きぶりを見ていた。

「ありがとうございました。」

最後の客を店から出すと、城司は時間を見て外のボードをクローズに変えて戻ってきた。店の中には洸一たちと城司の四人が残っていた。城司は洸一たちの席に行き座った。

「お疲れ。」
「おっつー。」
「ホント、大丈夫なのかよってぐらい働いてるな。」
「大丈夫。」

大丈夫といわれても先ほどの話で、倒れたことがあると聞いた洸一としては、自分の身体を大事にしてほしいと願っていた。

「まぁ、ガンバレ、青少年。」
「お前らこそ仕事頑張れよ、商社マンども。」
「判ってるって。あとは嫁か。」
「嫁ねぇ・・・見合いかなぁ、俺はきっと。」

自分の家のことを考えながら、和貴は結婚のことを快く考えていなかった。

「決まってるんだ、和貴。」
「あぁ、良縁ってやつでね。俺ら子供に権利はない。」
「大変だな、和貴。洸一と雅広は?」
「本当は恋愛がいいけど、和貴と一緒で見合いだろうな。」
「俺もそうだろうな、きっと。できたらしちゃうけどね、恋愛。」

大きな家は大変なんだよと言わんばかりに、洸一と雅弘は見合いを口にした。

「もちよ。それないとつまんないじゃん?」
「城司は?」
「俺?俺はどうだろう。するかもしれないし、しないかもしれない。ちーさんみたいに養子を取るって手もあるしね。運命に任せる。」

紅茶を飲みながら自分達の未来の話しを始めた。話しの最中に千明は店に帰ってきた。店で話している四人に挨拶をして着替えてから店に戻ってきた。夕飯の準備をしながら四人の様子を見ていた。

「千明さん、今日の結果は?」
「勝ったよ、もち。」
「やったじゃないですか。」

ハイタッチを千明と雅弘が交わした。

「たまたまだよ。」
「つって、前回だって前々回だって勝って帰ってきてるじゃないですか。」
「はははっ。」

照れ隠しの代わりに千明は笑ってごまかしながら夕飯を作って行った。洸一たちと一緒に五人で食事をしてから解散した。城司と千明は食器を片付けてから二階へ上がった。自分の仕事にもどるために城司は部屋に戻って行った。千明は城司の為に夜食を作って待っていた。
それから数年間、城司は二足の草鞋で生活をしていた。千明は喫茶店の方を手伝う形に変えて野球やウィンドサーフィンなどの趣味に時間を使った。二人の生活が逆転していきながらそれでも今まで通り仲良く過ごしていた。時折来る洸一たちと一緒に遊んだりして城司も行き抜きをしていた。三人は予想通りに見合いをして結婚をした。城司はいまだ独り身で過ごしていた。それでも幸せに毎日を過ごし、過去の事を過去として受け止めて城司は前を見て先へ歩き出していた。城司は自分の幸せを掴みとり輝く未来を見つめるために初めの一歩を踏み出した。





「終」







後書き:やっぱり、会話文だらけに・・・(ーー;)終わった・・・きつかった。<+言い訳と後書き


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