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「なぁ、おきいや。ボーズってば。」 城司の身体を一人の男性が揺さぶり、近くで大型犬が城司の顔を舐めた。城司は朝日の光と男性の声で目が覚めた。身体を伸ばして上半身を起こした。 「やっと起きたか。おそようさん。こんな所で一夜を明かしたんか?もうちょい歩けば俺の店やったのに。」 「おじ・・・さんの・・・?」 「あぁ、そうや。せやからおきいや。飯ぐらい作ってやるさかいに。だからきいや。」 男性は城司に手を差し伸べて立ち上がらせた。城司は立ち上がると砂を払い鞄を持って相手に連れられて歩いて行く。砂浜を歩き岸壁を跨いで道路をはさんだ海の向かい側にあるひとつの喫茶店に二人はドアを開けて中に入った。 「適当に座ってや。」 「うん・・・。」 男はカウンタ内に入り城司はカウンタ席のスツールに座った。男はモーニングメニューを作り城司の前に出した。 「コーヒーと紅茶とどっちがええ?」 「じゃぁ・・・紅茶で。」 「オーケー。あぁ、そういえば、どうしてボーズはあないなところで一夜を明かしたんや?」 「・・・。その坊主ってのやめてくれます?」 「そう言われてもなぁ・・・俺はボーズの名前を知らんから。」 「城司。」 「お城ちゃん?俺は千明っていうんや。よろしゅうな。こんな言葉づかいやから関西出身とよう間違われるんやけど、東京生まれの東京育ちのばりばり東京人や。」 「ここでも呼ばれるのか・・・それ。」 「なんや、お城ちゃんって呼ばれとったんか?でもこっちの方がええ。」 城司は厭そうなしかし少し懐かしそうに呼ばれたニックネームに少し胸を痛めた。千明は紅茶を城司に出して自分も朝食を摂り始めた。城司はモーニングプレートを見ると腹が昨夜からまともに食べてない事に気がつき食べた。 「そんなにがっつかんでも誰もとらへんって。ゆーっくり食べえや。」 城司は咳き込みながらも全部を食べ終わるとお茶を飲みながら一息ついた。目の前では千明が城司の食べっぷりに満足していた。城司は鞄から金を取り出してモーニング代をカウンタにおいた。 「ええよ、お城ちゃん。しまっとき。よう判らんけど、あんな所で寝てたということは家出系やろ?金、必要やんか。それとも家でバイトする?住み込みで。」 「・・・いいんですか?」 「ええから言っとるんやないか。」 「お願いします、千明さん。」 「さてとそろそろ店にやってくる連中がおるから開けるで。エプロンはこっちにあるさかい、荷物を上においてこいや。」 「はいっ。」 城司はカウンタ脇にある暖簾をくぐって階段を上り開いている和室の部屋に荷物を置くと急いで降りてきた。カウンタ内にはいると黒いエプロンをして店の外を掃除してオープンカードをかけると中に戻ってきた。朝からサーフボードをする若者が店にやってきた。 「いらっしゃいませっ。」 「あれ、ちーちゃん、新しいバイトの子?」 「もしかして隠し子?」 「えっ、わかります〜。俺、ちーさんの隠し子なんです。よろしくね。」 「きゃ〜!可愛いっ。」 城司は店に入ってきた若者と冗談にワルノリして可愛い子ぶって答えた。周りも冗談だと判っているらしく面白そうに千明を見ながら談笑していた。続々と店の常連が入ってきて朝だというのに繁盛していた。そのあいだ、城司は店員として店のあちらこちらと歩いて注文を受けたり品を渡したりと動き回っていた。 「お城、ちょっと買い出し行ってきてくれへんか。マルボロのなんやっけ?あぁ、あいつが持ってる奴や。」 「マルボロの緑だから・・・メンソール?判った、行って来る。」 少し人が減り千明は城司にたばこ屋へと買い物に走らせた。城司は小銭を持って近くの販売機に行き目的のモノを買うと走って店に戻った。 城司は店で一日中働いて少しの間、自分の身に起こった事を忘れる事ができた。バイト料、三食、昼寝付き、寝床を提供してくれた千明に感謝しながら城司は一生懸命やりとげた。 数日、数十日間、と日に日に城司は仕事を覚え、千明の代わりにコーヒーや紅茶をいれたり料理を作ったりとするようになった。 その間も城司の夢見はいつも最悪だった。自分が強姦されている間の事を毎日夢で繰り返し繰り返しみていた。時折、千明が城司の悲鳴に驚いて部屋にやってくる事もあった。それでも気丈に城司は大丈夫の一点張りで夢にまでみるほどの現実の話しをすることはなかった。千明は城司が自分の事を話するまで待つ事にしていた。 「お城、どうだ、仕事は慣れたか?」 「もち。はい、ミックスサンドにアメリカン、それからカフェラテお待ち。」 「あっ、それ俺ね。」 「どれよ・・・。なぁ〜んて、嘘、嘘。ミックスとアメリカンが英ちゃんで、カフェラテが昌さん。」 「よく覚えてるね。」 「一応、全部覚えるように努力してるから。」 カウンタに戻ってはトレイにコーヒーやケーキなどを乗っけては客に出していく。城司の記憶は使えば使うほどより多く覚えるようになっていた。 「お城、ミック散歩に連れて行ってくれへんか?」 「おう、いいよ。」 客が引けてきて千明は城司に犬の散歩に行く様にお願いすると、城司は快くエプロンをはずして外に出かけて行った。 城司は浜でミックと一緒に走り回った。海の中にミックが入って行こうとするのを手綱で引き戻したりしていつものコースを通って店に帰ってきた。 「ただいまっ、ちーさん。」 「お帰り、お城。お前に友達が来てたで。」 城司の顔が蒼白になった。足元でミックが心配して小さく鳴きながら、擦っていた。 「と・・・とも・・・だち・・・。」 「あぁ。散歩に行ったっていうたらまた来るいうてた。」 「名前・・・聞いた?」 「えっと・・・なんつった?」 千明は目の前に居た友人たちに聞いていた。 「なんだっけ、芸能人と同じような名前だなぁって思ったんだけど。」 「あっ、コウイチ。セキ コウイチって名乗ってったんだよ、ちーちゃん。」 「あんた物覚え悪いな、相変わらず。」 「・・・洸一。追いかけて来たのか。」 城司は千明と常連達が話している中、店にやってきた洸一の事を思い出して呟いた。洸一の家を出て以来、一度も連絡をしたことはなく、自力で城司の所在を見つけ出していた。城司は今は逢いたくないと思っていた。 未だに見る悪夢の中には洸一も出演していた。抑え込む男たちのなかから自分を救い出した瞬間、城司はいつも夢から醒める。その繰り返しの為に城司は洸一のことを自分に近づけたくないとも考えていた。時折、夢に出て来る洸一は城司の事を大切に抱きしめて傷つけるモノから身体全部で助けようとしていた。それが現実になるような気がして城司は洸一に別れも付けずに屋敷を出てきたのだ。 「俺・・・上がってもいいか?その友達が来たら帰って貰ってくれ。逢いたくないんだ、今は。」 「お城・・・。それでええのか?」 「あぁ・・・ごめん。ちーさん。わがままいって。」 城司はミックを連れて二階へ上がった。二階で城司は自分の部屋に鍵をかけて閉じこもった。 「今はまだ・・・逢えないよ、洸一。」 城司はベッドの上で足を抱えて座り込んだ。ミックが城司に近づいて身体を伸ばして頬を舐めた。城司はその感覚でさえいつもと違うように感じて、思わずミックを突き放した。ベッドの端でミックが哀しそうに鳴いたのに気がついて正気に戻った。 「ごっ、ごめん。ミック。ごめん。」 城司は手を伸ばしてミックの毛並みに触れた。ミックは突き飛ばされたと言うのに近づいてきて城司の身体に擦り寄った。ミックの腹のところに城司は頭を乗せた。ふわふわした毛並みは城司の冷え切った身体を温めた。 一階の店では洸一が再度訪ねていた。千明は城司のことばを伝えると洸一の目は曇った。 「そうですか・・・。城司に身体には気をつけてと・・・あと、帰って来る気があったら電話をするようにと。解決したからと伝えて下さい。コーヒー、ご馳走様でした。」 洸一は自分のうちの電話と携帯の番号を書いた紙とコーヒー代をカウンタのところに置くと立ち上がって店を出て行った。 店を閉めて千明が二階に上がってきた。城司の部屋をノックすると中でミックが鳴いた。城司の顔をミックが舐めて目を覚ました。起き上がってドアを開けるといつもの笑顔で千明が迎えてくれていた。足元をミックが通り千明の足元で懐いた。 「腹、減ったやろ?飯作るさかい、何がええ?」 「せやなぁ・・・ちーさん特性カレーがええ。」 「えせ関西弁になっとるよ、お城。」 「移ったんだよ。まったく。」 苦笑いを浮かべ、指折りをしながらここへ来てからの日々を数えた。 「まぁ、ええわ。カレーな、いまから作るさかいに少し遅くなるで。あぁ、それからお友達、帰ったで。」 「なんか言ってましたか?」 「えっと・・・身体に気をつけてと、帰る時は電話しろと、解決したって言ってたんやけど・・・。これ、預もんや。」 千明は番号が書いてあった紙を城司に渡した。城司は紙と伝言を受け取るとありがとうとひとこと告げた。千明はどういたしましてと流して階段を下りて行った。一階の店のところで調理して下で食べていた。 城司は受け取った紙を机の中にしまい込んだ。 洸一は店を離れて自宅に戻ってきた。連れて帰れなかった後悔はあっても無理につれて帰ろうとは思わなかった。千明の顔を見て話している分には城司が今は少しでも幸せでいる事が判ったからだ。学校にはしばらく出れないようだと仲間に告げると城司の居場所を自分の胸の奥にしまい込んだ。 「なぁ、洸一。」 「和貴・・・。」 「城司は元気か?」 「あぁ・・・。もうしばらくは学校には来れないけど。今はそういう意味で出れない訳じゃないから安心してくれ。」 「判ってるよ。お前だから信用してるんだ。裏切ったら一生陽の目の見られない身体にしてやる。」 一瞬、和貴は洸一を睨んだ。前回、助けられなかった分、今度何かあった場合は自分が助けようと心に誓っていた。城司を支えられるすべてのことを和貴もまたしてあげたいと願っていた。 「なぁ、雅広は?」 「あいつもいろいろと調べてる。あいつの父親は弁護士だからな。」 「そっか。」 「あいつもあいつなりに城司を助けたいと思ってるんだ。それにしてもいつになったら城司の顔を拝めるんだ。」 「気持ちの整理がつくまで、待ってやれよ。俺達は城司の友達なんだからさ。」 追い返されたこともあり洸一は、城司がいましたい事をさせてあげる事が一番なんだと理解できた。傍にいるだけが慰めるだけが友達で無い事も理解した。城司が気持ちを整理したら電話をしてもらえるはずだと洸一はそれだけを心の支えにした。いま城司のいる場所は城司の心を癒してくれるそんな場所だと訪れて判ったこと。 城司は店の電話を掴んで考えていた。洸一がやってきてからはや三ヶ月経っていた。高校は千明の場所にやってきてから通わないでいた。千明はきちんと学校を卒業するようにと言ってくれていたが、城司はかたくなに通う事を拒否していた。通信教育に変更しそれで卒業すると千明を説得させた。仕事の合間に城司は通信で勉強して少しずつ感覚を取り戻していた。 受話器を持ったまま立ち尽くしている城司の後ろに千明が立って後ろから覗き込んでいた。千明が城司の事を連れてきた頃は近づいて来る相手の体温に身体を震わせていた。今では千明には城司は心を許していた。時折やってくる見知らぬ客に対しては警戒心丸出しだった。 「どないしたんや、お城。電話するんや無かったのか?」 「うん・・・判ってるんだけど。」 「携帯にしたらええやん。家に直で電話するんが厭やったら。」 城司は深呼吸して洸一の携帯の番号を廻した。呼び出し音が鳴り数回鳴ると相手が出た。 『はい、関です。』 「・・・こーいち?」 城司は遠慮がちに、相手の様子を窺うように聞いた。 『城司っ!元気か?帰って来る気に・・・。』 「違うんだ。もうそっちにもどらない。戸籍に入れてもらったんだ。」 『蜃気楼茶社のマスターにか?』 「うん。それまで俺、名字、無かったから。入れてもらって学校も卒業するから。」 電話の向こうでは、少しざわめいていた。洸一は良かったなと一言付け加える事を忘れなかった。 『金児じゃなくなって今は?』 「菰田、菰田城司(こもだじょうじ)。」 電話をしている後ろで他の声が聞こえて来た。洸一の近くで話していた。 『洸、誰と話してるんだ?』 城司の聞き覚えのある声が聞こえて来て、懐かしさに手が震えていた。 「和貴・・・近くに居るんだ。」 『あぁ。代わろうか?』 「う・・・ううん、伝えといてよ。」 「城司、ちょっとええか。」 「ん?」 後ろで聞いていた千明が城司から受話器を譲り受けた。 「ごめんな、話し中。洸一くんやったな。また遊びにおいで。和貴?くんも連れて。城司はあぁ言ってるけど、ホンマは淋しがり屋さかいに。」 『是非に行きます。』 「ちょっと、ちーさんっ!余計な事を・・・。」 城司は受話器を奪い返して電話に出た。 「洸一、淋しがりじゃ無いからな、俺は。」 『判ってるよ。』 『洸っ!移動しないと間に合わねえぞっ!』 更にうしろで聞き覚えのある声が、怒鳴っていた。城司は涙が出そうなのを必死に堪えていた。 「雅広・・・。」 『移動しなきゃ。電話してもいいかな?』 深く呼吸をして涙声じゃない普段の声で、城司は相手には見えなくても笑顔で答えた。 「うん。いいよ。ちーさんじゃないけど、遊びにこいよ。今度はちゃんと逢うからさ。」 『あぁ。』 『洸っ!先に行くぞっ!』 「呼ばれてる。まったく雅広は相変わらずうるさいね。またな。」 『あぁ、また。今度、遊びに行くからちゃんといろよっ!』 受話器を置いて城司は息を吐くとその場に座り込んだ。千明は座り込んで城司の頭を軽く撫でた。城司は睨みつけたが千明は笑ってぎゅっと抱きしめた。 「頑張ったな、次は逢うだけや。お前にはきちんと支えてくれる友人がおるんやな。大事にしいや。一生の友やっていうさかいにな。」 「うん、ありがとう、ちーさん。」 「こいうときぐらい、父さんって呼んでくれへんかな?またはお兄ちゃんでもええで。」 にやりと笑って千明は、城司の髪の毛をがしがしと撫でた。城司は笑いながら抵抗はせずにいた。 「厭や。ちーさんはちーさんやもん。変えられへん。」 「まったく・・・またえせ関西人になりおって。」 「自分やってそうやん。さてと店、開けへんと外でみんなが待っとるで。」 「あぁ、そうやな。」 城司はエプロンを着けて店の中の椅子を下ろしたり掃除をしたりしてから、ドアにオープンのカードを付けて身体を伸ばした。待ってましたと言わんばかりに海岸の方からサーフボードを持って若者たちがやってきた。 「朝からやってたんですか?」 「うん。いい波が来てたからね。熱いコーヒーって頼んどいて。ボードとか置いて来るからさ。」 「判りました。」 城司は中に入って人数分のコーヒーを用意するように千明に頼んだ。千明は早速いろいろと準備をしていた。昼休みが終わってからお客用の昼の用意をしたりと城司も手伝った。閉店まで店は海岸を含めて多くの客が遊びに来ていた。城司は閉店のボードを出すとエプロンを外してミックの夕方の散歩に出かけた。 浜の方で城司はミックの手綱を離して遊ばせながら海を見ていた。海では船に電気を付けて魚釣りをしていて、キャンプをしている若者たちがいた。城司は足を抱えて砂浜に倒れ込んだ。昼に日差しをたくさん浴びて砂が暖まって夜の涼し過ぎさをなくしていく。ミックが走り回って疲れたのか、城司の方へと走って横について城司に肌を温めた。城司はミックに手を伸ばして抱きしめた。 「お城っ!お城〜。」 「・・・。」 城司はミックに抱きついたまま顔を上げた。遠くの方で千明が城司の事を呼んでいた。城司はそれが判っても砂の柔らかい感触に浸りながら目を閉じた。 「おい、お城。おきいや。夕飯の時間やで?」 「・・・あとちょっと・・・気持ちいいんだ、ここ。」 「お城・・・。お前を拾った時も浜やったな。そないに気持ちええんか?」 「あぁ。風が涼しくって砂は陽の匂いと暖かさをくれる。」 「それでもけーるぞ、飯を食わんとあかんやろ。ほーら、起きれ。」 千明は城司の手を掴んで起こした。怠そうにしている城司を背負いながら砂浜を踏みしめながら歩いた。そのあとをミックがついて来ていた。 店につくと夕飯を食べて城司を連れて千明は浜辺にまたおりた。そこでは店に来ていた常連客がキャンプファイアをしていた。城司はファイアに近づいていろいろな話しをしているのを静かに聞いてた。その後、数時間その場所でみんなと話をしていた。千明はしばらくその様子を見ていた。 数日後、洸一が和貴と雅広を連れて店にやってきた。城司は久しぶりに逢えた友人に笑っていたが、時折苦しそうな顔で仲間を見ていた。それに千明だけが気がついていた。未だに城司は自分自身の事を千明には告げていなかったが、どことなく大人の勘で何かがあった事だけは気がついていた。 「なぁ、お城。本当に帰ってこないのか?」 「あぁ・・・。ごめん、雅広。」 「でもお前が元気でよかったよ。」 「和貴・・・。」 「洸にお前が関の家に居ないって聞いた時は、殺すって思ったんだよね。連れて行かれたのかって思ったんだぞ。」 和貴は口は笑っていても目は笑っていなかった。殺意も若干、洸一には感じられていた。 「ありがとう、和貴。って、そういえばいつの間にお前ら、洸一の事”洸”って呼ぶようになったんだ?」 「あの日から。」 それ以上、四人は口を開かなくなった。千明はその様子を見てからコーヒーを届けた。すると城司は千明を引きとめた。 「和貴、雅広、それから洸一は二度あって話してるだろうけど、この人が俺の親、菰田千明さん。右から槙原和貴、石原雅広、関洸一だよ。」 「初めましてよろしくな、和貴くんに、雅広くん。改めて、よろしく、洸一くん。」 「菰田さん、城司を明るくしてくれてありがとうございます。」 「これからもよろしくお願いします。」 三人は立ち上がって千明に軽く挨拶をした。千明は微笑みながら座ってとジェスチャーをしていた。 「こちらこそ、暇があったら遊びにおいでよ。」 「珍しくえせ関西弁が出てこない。」 「じゃ〜かしい、お城。ええやん、俺はホンマは東京人なんやから。」 きょとんとしていた和貴と雅広と対称的に洸一は笑っていた。城司が声をあげて笑っているのを久しぶりに見て和貴と雅広、洸一は嬉しく思った。 「今日はありがとうな、みんな。」 「いいんだよ、お前に逢えたのは嬉しい。元気にしてるの、判ったからさ。洸の電話だけでなく俺の電話にもしてくれよ。番号は変わって・・・あっ、そうか。」 閉店まじかになって和貴と雅広は自分の携帯の番号を書いて城司に渡した。城司はそれを受け取ると抱きしめるように大切に持った。 「じゃぁ、今日はこれで帰るけど。」 「また来るからさ。」 「うん、待ってるよ。」 手を振って三人は店をあとにした。城司は片付けを楽しそうにしているのを千明は見ながら少しほっとしていた。 夜になって城司はベッドの中に入りすぐに悲鳴を上げて目を覚ました。その声を聞いて千明は城司の部屋のドアを叩いた。 『城司、城司っ!』 「・・・千明・・・さん・・・大丈夫、だから・・・。」 『なぁ、城。俺に話さないか、お前の過去に起きた事を。俺はお前の味方だ。そしてこの店に来る連中もお前の話を聞かなくても味方だ。』 「千明さん・・・。でも聞いたらきっと俺の事、軽蔑する。」 『しねえよ、俺がそんな奴にみえるのかよ。』 いつものえせの関西弁を喋る千明とは違うのに戸惑いながらも、城司はベッドから立ち上がって部屋の鍵を開けてドアを開けた。千明は中に入らないで城司の腕を掴み自分の方へと引き寄せた。城司は腕を突っぱねて離れようとした。 「城司、何もしねえからじっとしてろ。このまま聞けよ。俺はお前の過去を聞いたからと言って態度を変える事はねえ。お前がもし人殺しだったとしても驚かねえから、心につまった膿を吐き出しちまいなよ。」 「・・・千明さん・・・。判ったよ、だから離れてもらってもいい?」 「あっ、あぁ。」 少し城司は息を乱していた。千明は離れて城司をベッドに座らせると自分は椅子をベッドに近づけてそこに座った。城司は重い口を開いて自分の過去を喋り出した。家から売られたこと、男たちにレイプをされたこと、友達から逃げ出してきたこと。千明はすべて無言で聞いていた。城司の口からすべてを聞き終わると千明は手を伸ばし頭を撫でた。 「つらかったんだな。誰にも助けてもらえず、心に厭な事をため込んで吐き出せずにいままですごして・・・。」 「・・・助けてはもらえたんだ。あいつら・・・三人には俺が連れて行かれた後に・・・。」 「そっか。膿はちゃんと出さないと腐るぞ。俺はお前のつらさを共感することはできない。でも聞く事はできる。何かあったらちゃんと俺に言うんだぞ。」 「うん、ありがとう、千明さん。」 「さてと、気分転換に外でも行くか。」 城司の腕をとって千明は外に出た。店のドアを閉めてから浜におりて砂浜の少しの温度に触れながら暗闇の空に浮かぶ月を見上げていた。城司は身体を砂に小さくなって目を閉じた。千明は城司の頭に手を伸ばして撫でながら、寝息を立て始める城司に苦笑いを浮かべた。少しでも安らかに眠れるように千明は祈りながら近くで城司の事を見ていた。 |
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中書き:やっぱり、電話とかそういう時にはどうしたらいいのか、考えてしまいます。会話文だらけにならないように少し付け加えましたが・・・(ーー;) |