霧龍 要瑪



[月亮和太陽(月と太陽)続]

あれからしばらく俺達は普通に旅をしていた。ずっと変わる事もなく。俺の気持ちも、多分三蔵の気持ちも。
いつも通り西に向かっていると、妖怪軍団さんがやってきた。相も変わらず暇そうに・・・いや、紅孩児に言われて来たんだろうけど、どうでもいいけど、その呼び方はやめろって言うフレーズ付きで。
「三蔵一行だな。お前らが持っている経文を渡せ。」
旅行会社のバスとかに張ってある紙じゃないんだから”一行”はやめろよ。って思ったってしょうがないんだろうけど。やつらは一回一回違うんだし。
ざっと見た所、五百ぐらい?ってことは、一人頭、125ってところか。まぁ、簡単だろ。それぐらい。
「ふざけるな、欲しいならとって見ろ。」
俺達は次々と襲って来る妖怪を伸して行く。簡単、簡単。こんな手下ばっか送って来るなんて数で勝てるとでも思ってるのかねぇ、紅孩児たちは。
「終わりっと。」
俺はノルマの妖怪を倒してから周囲を見渡した。あらら、珍しく三蔵さんったらてこずってるじゃないの。
「三蔵、手伝ってやろうか?」
「いらない。」
おや、素直じゃないんだからって、それは何時もの事か。他は・・・だいたい終わってるみたいだな。
「三蔵っ!」
三蔵の後ろに妖怪が立っていた。俺は思わず走って三蔵の後ろで錫杖を構えた。
「ったく、のろのろしてんなよ。三蔵。」
「余計なお世話だ。」
「さっさと自分のノルマ終わらせろよ。あっちで悟空がへばってんぞ。」
「うるさいっ。」
俺は少し残った妖怪をぶちのめした。三蔵も何時もより派手に短銃をぶっ放していた。それって、俺に対する嫌がらせ?って感じ。だって、下手すると俺まで短銃の餌食だっての判っててやってそうだよなぁ・・・三蔵の事だから。
「終了ッと。」
俺は錫杖を抱えたまま手を払った。それから三蔵を見た。なんか不機嫌そうって、それも何時もの事か。まぁ、俺が手を出したから余計に不機嫌そうだけど。
「さぁ、向かいましょう、三蔵。」
そんな雰囲気をにっこり笑って済ませちまう八戒って、もしかして最強?最凶かもしれないけど・・・。
ジープに乗って俺達は西に向かい始めた。目の前に次の街が見えて来た。今日は野宿しなくてすみそうだ。久しぶりにベッドで寝れる。日も落ちて来たし、月が見えて来そうだ。
今日も三蔵と悟空に買い物を任せ俺と八戒は宿で一休みをしていた。つうか、八戒に呼び止められたんだけど。俺達の関係について聞きたいんだろう、多分。報告は結局しなかったしな。だって、あれをどう説明しろってんだ。告白したけど、その答えはアレだった。アレは、一体如何取ればいいんだ。お互いを想ってるのか、それとも・・・。アレから三蔵は何の反応もして来ない。好きだとも嫌いだとも。それだけじゃなく、あれ以降、いつもと同じ顔で同じ反応で俺を見ている。他のヤツらと同じように俺に接して来る。俺の告白はなんの意味も無かったのか?
「それで八戒。俺に何か用?」
「えぇ、もちろんですよ。」
いつもの円満の笑顔だけど目が笑ってないぞ。これは報告していなかった俺の方が分が悪いけど。でもどうやって言えばいいんだ、アレの事を。
「さぁ、どうぞ。毒なんて入ってませんから安心して下さいね。」
誰もそんなコト思ってないって。でも今の八戒ならやりかねないか。俺は椅子に座って出されたお茶に手を伸ばし一口飲んだ。お茶が喉を潤していく。喉が渇いていたんだ。今更気が付いた。
「聞かせて下さい、あなたたちの事。どうだったんですか?」
「どうって言われてもなぁ・・・。」
どう説明すればいい、この中ぶらりんの状態を。
「告白は出来たんですか?」
「あぁ、それは出来た。けど・・・。」
その先がどうしても話しづらい。俺がされた方だってのは置いとくとしても、三蔵からは何も聞いてないんだから。
「けど?でも生きてるってことは成功したんですか?告白は。」
「多分・・・な。俺にも判らない。」
「判らないって・・・一体、どうして?」
「告白はしたけど、あいつからの反応はなかったんだ。」
あっ、あるか。俺を抱いた事。でもそれってどういう意味なんだろうか。
「生きてるんだから、三蔵も悟浄の事を思ってるってことなんじゃないですか?」
「判らない。」
「ちゃんと三蔵には聞いたんですか?」
「聞いてない。」
「莫迦ですね、貴方は。」
「・・・。」
「三蔵の気持ちを聞きましたか?貴方の一方的な気持ちだけを伝えただけではダメなんですよ?」
どきっとした。確かに俺はヤツの気持ちを聞こうとはしなかった。俺だけの気持ちを多分、押し付けてしまったかもしれない。八戒の言ってることは当たっている。莫迦だな、俺は。本当に・・・。
「もう一度、ちゃんと告白してきて下さいね。今度は三蔵の気持ちも聞いて来るんですよ。」
もう一度。そう今度は俺だけの気持ちじゃなくてあいつの気持ちも聞かないと。この想いはずっと終わらない。いや、続かない。思い切れない。

俺はその夜、再度、決意して三蔵の部屋で待ち伏せる事にした。今度こそ失敗しない。俺の思い、三蔵の思い。
「三蔵、話が有るんだけど・・・。」
「なんだ、手短に話せ。」
「ここじゃ、ちょっと中でいいだろ?」
「あぁ。」
三蔵はすんなりと中にいれてくれた。第一関門はとりあえず、成功。次は三蔵の気持ちを聞きだすんだ。俺達のこれからを作るために。
「突っ立ってないで、座れ。」
三蔵の部屋はいつも吸っているマルボロの匂いがする。この匂いも嫌いじゃない。三蔵からはお香と煙草の匂いがする。普通の坊さんからだったらお香だけで辛気くさい。でもこのお香と煙草の混ざったような匂いは、三蔵の匂いで嫌いになれない。辛気くさいとも感じない。他のヤツだったらきっとそれでも辛気くさいとか感じるのかもしれないけど。
俺達は椅子に座り、ヤツは自分の煙草を出して吸い出した。俺も自分の煙草を出して吸った。落ち着く・・・って、落ち着いたらまずいんだよ、俺。コイツに話があってここまで来たんだから。
「なぁ、三蔵。」
「なんだ・・・。」
ぶすっとした顔でこっちにも向かずに煙草を吸ってる、三蔵。そんな姿も見慣れてるはずなのに、ちょっと違う気がするのはどうしてなんだろうか。でも俺が話しかけてるんだからこっち向いてくれたってイイだろうに。よく人の話を聞く時は目を見てって言われなかったか。まぁ、それがコイツなんだからしかたないって割り切るしかないのか。
「えっと・・・。」
「さっさと言え。お前の無駄話に付き合ってやるほど暇じゃない。」
無駄話って酷いな、いまから俺の・・・俺が再度告白しようとしてるってのに。コイツにとって無駄話になるんだろうか。そう思うと、胸が痛む。俺にとってコイツは必要なのに、コイツにとって俺は必要じゃないんだって思ってしまうから。
「俺は・・・お前の事・・・好きなんだ。」
「だから?何?」
「・・・三蔵は俺の事・・・どう思ってるのかって・・・。」
「嫌いだ。」
そんなきっぱり言わなくても。俺の心はいま、思いっきり傷ついたぞ。三蔵のヤツ、そっぽ向いたままで言わなくたっていいだろうに。そうか、俺の事嫌いだったのか。そっか・・・。
「ごめんな、好きになっちまって。もう言わねえよ。でも一緒に旅をするぐらいはいいだろ?それ以上の事は望まないから。」 ゴメンな、俺はもう一度そういうと煙草を灰皿に押し付けて立ち上がった。そのまま立ち去ろうとした腕を掴まれた。
「なっ、なんだよ。」
「だから、お前は嫌いなんだ。」
俺は振り返って三蔵をちゃんと見た。相変わらずそっぽを向いてるけど何かを言いかけてるのは判る。
「えっ?」
「人の話をちゃんと聞かない。聞こうともしない。俺がどんな気持ちであの時ああしたのかさえ。そのあとも何も言わなかった。」
だってそれはお前が忘れたような顔をしてたから。聞かれたくないのかって思った。だから聞かなかったしそれ以上の詮索もしなかったのに。
「お前は忘れた顔をしていた。あの時。」
「そりゃ、お前だって・・・。」
聞かないで欲しそうな顔してたくせに。
「三蔵、俺の事・・・。」
「思ってないわけないだろう。じゃなきゃ・・・。」
「そっかぁ・・・そっか。よかった。」
よかった。本当に。”好き”って言われたワケじゃないけど、思われたんだ。激、嬉しいかも。俺は思わず笑っていた。ぶすっとした顔で三蔵が睨んで来た。そうだよな、いきなり笑ったら失礼か。でも笑いが止まらない。嬉しいから。
「ごめん、三蔵。嬉しくて、嬉し過ぎて笑いが止まらねえ。」
「死んだら止まるぞ。」
「そっ・・・それだけは、カンベンっ。」
「なら、笑い止め。」
未だに懐に手突っ込んだまま言わないで欲しい。本当に死にそう。俺は一生懸命に笑うのを止める。本当に殺されかねないし。マジだもんな、コイツって。有言実行に近いし。でも本当に嬉しい。
「三蔵、好きだよ。ずっとずっと一緒にいような。」
俺は三蔵に近付いて頬にキスをした。これ以上望んだら夢のように消えてしまいそうだから。この儚く脆い夢のような時間を消したくない。だから俺はここで止めないと。きっと消えてからではいろいろと後悔をし続けてしまうから。だからこれ以上は望んではいけない。
「当り前だ。」
そう答えた三蔵の顔は見なくても判る。きっとぶすっとした顔に少し顔を赤らめているんだろう。だって、コイツはとってもプライドが高いヤツなんだから。好かった、俺の心も前に見た三日月のように消える事はない。太陽のように残っている。人の心は移ろい易いって言うけど、俺の心は絶対に移り変わらない。一生、コイツと共にいる事を願う。前はあんなにこの旅を終わらせて帰りたいって思ったケド、今はそうは思わない。コイツがいるから。コイツが傍にいるから。俺はもう迷わない。


月と太陽・・・対照的な二つ。月は夜に太陽は朝に。月は満ちて欠けていく。太陽は満ちているが欠けはしない。月は・・・太陽は・・・。平等に晄を与えてくれるが、暖かい日差しをくれるのは太陽。この太陽の晄を俺は絶対に失くさない。そしてこの晄をずっと与えてくれるコイツも・・・。

[結束]


さらに付け足してみました。こんなんで如何でしょう?一応、告白成功という事で。やり逃げでもやられ損でもございません。月亮(悟浄)和太陽(三蔵)でした。多分。この二人がこうでいいのかな?

後退



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