霧龍 要瑪



[月亮和太陽(月と太陽)]

「どこへ向かうんですか?」
「西だ。」
いつも三蔵の答えはそれだった。確かに目的地は西に有る。だけど時には他の場所へ行こうとか思わないんだろうか。坊主のくせに博打や煙草、殺生までする。人の事はハリセンでばしばし叩きやがるし、短銃で撃ちやがったこともあったな。ぶすっとした顔してついて来ている俺達を邪魔者のような顔して見て・・・。あいつは何が楽しくて生きてるんだろ。あんなやつのどこに悟空は魅かれてくっついてるんだかって最初思ってたけど。どうやら最近は俺まであいつの魅力にはまっちまったらしい。まったく、人生ってのはこうだから面白いよな。

「・・・浄。・・・・悟浄。」
「へっ?なに?」
「何じゃないです。そんなところで突っ立ってたら邪魔でしょう。早く中に入って下さい。」
考え事に没頭し過ぎて周りの事が見えてなかったなんて。微笑んでるけど目が笑ってない八戒の言葉にやっと気付くなんてどうかしてる。俺は言われるままに中に入った。ここは・・・。そうか、宿に着いてたのか。それにしても残りの二人はどこへ行ったんだ?
「二人は買い物です。悟浄に言おうとしたら貴方はぼっとしてたようなのでやめました。」
二人で買い物。アイツラはいっつもつるんでるっていうか、悟空が一方的にくっついてるだけか。でも気兼ねしないと言うか楽なんだろうな。お父さんと子供って感じだしな、あの二人は。
「最近、変ですよ、悟浄。どうしたんですか?」
「どうしたって言われてもなぁ。」
「僕でよければ話しを聞きますが。」
話しって言われても。でも今の俺の頭の事をいちばん理解出来そうなのは八戒だけだろうし。話してみるか。
「どうぞ。」
「サンキュー。」
中央に置いてあるテーブルセットの椅子に腰かけて八戒は茶を入れて持ってきてくれた。俺の前に座るといつもの顔で俺の事を見ている。何から話せばいいのか・・・
「えっと・・・。」
「・・・。」
俺は茶に手を伸ばし一口飲んで喉の渇きを潤した。未だに八戒は俺の事を見て笑っている。
「俺、気になってるヤツがいるんだ。」
「それで?」
「そいつは全然優しくないんだけど、でも俺はそいつに魅かれてて。」
「・・・。」
「多分、好きなのかもしれない。こっちを向いて欲しいって思ってるのは確かだ。」
「その人は悟浄をまだ思っていないのですか?悟浄が落とせない女性が居るとは思いもよりませんでした。」
「・・・女じゃないんだ。」
俺は思わず小声で言ってしまった。確かに八戒が言うように俺は女性なら落とせると豪語できる。でもあいつは男でしかも一緒に旅してる。
「なんと、いいました?」
「だから・・・女じゃないんだ。」
八戒は目を丸くして俺を見た。聞こえた俺の言葉に驚いているのが解る。
「・・・お、オカマとかですか?」
「違う!男!!野郎ッ!!!」
「悟浄、何の冗談ですか?宗旨替え・・・ですか?」
「冗談なんかじゃねえよ。宗旨替えってお前な。」
「男の貴方が男性を好きに・・・。悟浄ってホモだったんですね。」
「だぁ〜。俺は基本的に女好きだ。あいつだけが特別だ。」
「そっ、そうですか。でっ、相手は誰ですか?」
今度は好奇心が詰まったような目で見やがって。誰がホモだ。何が宗旨替えだ。相談する相手、間違えたワケじゃねえよな。
「・・・鬼畜生臭坊主。」
「・・・。」
返す言葉もなくなったのか八戒は黙り込んで俺を見た。仕方ないじゃないか、気が付いたらあいつに目が奪われちまってるんだから。女と遊んでてもあいつを思い浮かべちまう。あいつだったらどんな声でどんな顔をするんだろうって。変態だって俺だって十分過ぎるほど解るけど。でもそんなこと想像しちまうんだ。
「八戒?」
「やめた方がいいんじゃないですか?殺されますよ。」
「・・・だろうな。」
判ってるけど。あいつにアレだけ懐けるのは悟空だけだって判ってる。俺だって殺されるのは勘弁して欲しい。まぁ、幸せの絶頂ならそう思うかもしれないケドな。あぁ、でも殺された後の事を考えるとやっぱ死にたくないか。
「殺される覚悟で告白するしかないでしょうね。」
「やっぱそれが前提なのかよ。」
「当り前じゃないですか。あの三蔵ですよ。」
「俺がどうしたって?」
「ただいま。」
後ろから不意に聞こえた声で俺は心臓が止まるかと思った。もう買い物から帰って来たのかよ。流石、お父さんと子供だけ有るな。
「お帰りなさい、三蔵、悟空。」
「でっ、俺がどうしたんだ。八戒、悟浄。」
返答次第ではコロスと言わんばかりに三蔵は懐に手をつっ込んでいた。短銃、出す気だな、ありゃ。
「何でもありませんよ。それよりちゃんと買い物してきてくれましたか?」
「当り前だ。悟空。」
「はい、八戒。」
「悟空に余計なもの買い与えてないですよね?」
「三蔵ったらケチなんだよ、買って欲しい肉マンが有ったのに・・・。」
流石は八戒。三蔵を丸め込んだよ。相変わらずぶすっとした顔で煙草吸ってるし。アレって無駄づかいって言わないのか?でもあいつの三仏神の金だしなぁ、あれ。三仏神って金持ちなのか・・・って、んなわけないか。
「あっ、俺の分の煙草は?」
八戒が目の前で買い物のリストを見ながら、揃っているかどうかを確かめているのをみていたら俺のモノがなかった。
「んなの自分で買って来い。」
「あぁ〜ん、三蔵サマのケチィ〜。」
「死ねっ。」
今度は遠慮なく銃でぶっぱなしてくれた。俺は当たるすれすれの所で避けて部屋の外へ向かった。
「買い物、行って来るわ。」
三蔵の前から逃げる事成功。あのまま一緒にいたらまた見ているだろうな、あいつの事。ちょうどいい口実だった。普段は三蔵のカードで支払ってるから一応は持ち金はあるけど、あんまないんだよな。夜は居酒屋にでも久しぶりに行って博打でもして来るか。博打してる間ならあいつのこと考えなくて済むからな。
俺が買い物から戻って来たら宿の下の食堂でヤツらは飯を食っていた。
「遅いですよ、悟浄。」
「ちっ、全部喰えるチャンスだったのに。」
「てめぇ、チビザル。喰意地はってんじゃねえよ。」
「まぁまぁ、悟浄の分、追加してあげますから。いいですよね、三蔵。」
「勝手にしろ。」
「三蔵の許可も降りた事ですし。悟浄、座って下さい。」
三蔵は坊主のくせにビール飲みながら目の前の料理をつまんでいた。八戒は俺の分のビールと料理を追加していた。テーブルの上には乗り切らないほど皿が置いてあると言うのに、これ以上追加するのかとゲンナリ顔のウエイターが八戒を見ていた。逆に言えばまだコレでも足りなのかもしれない。何せチビのくせにサルは大食らいだから。あんだけ喰ってるくせにどうして成長しないのか疑問だケドな。まぁ、燃費が悪いんだろうけど。すぐに腹減ったとかほざくしよ。
チビザルに全部喰われる前に、すぐに来たビールを煽りながら料理に手を出した。料理強奪戦に負けると食いっぱぐれるからな。喰意地のはったチビザルが全部喰っちまう。
追加料理もすぐに来て俺は悟空に取られないようにとそそくさと喰い始めた。
食事が済んでそれぞれの部屋に戻っていった。俺は部屋には戻らずそのまま軽く酒を飲んでから街に出た。街は寝るにはまだ早いと言わんばかりに電気がついていて模擬店も出していた。俺は昼間の間に見付けておいた酒場へと向かった。
久々に他のやつとやった博打は大もうけだった。最近は悟空以外の連中にボロ負けになる時が有るから、弱くなったのかとヒヤヒヤしたぜ。俺の腕もまだまだ衰えていないな。これでまたしばらく女と遊んでも大丈夫そうだ。しばらくあいつの事を考えなくて済む。・・・多分。
「強いなぁ、あんた。」
「あったり前よ。次は?」
「今日はもう勘弁して下さいよ。明日からおっかさんに怒られちまう。」
「じゃぁ、俺は帰るな。また遊ぼうぜ。」
席を立ち俺は宿へと向かった。
ん?この気配は。・・・殺気?でも妖怪ではなさそうだ。
「おうおう、兄ちゃん。さっきは儲かったようだな。俺達にも分けてくれない?」
あぁ、なんだ。ちんぴらか。俺に喧嘩ふっかけるなんてバカなヤツらだ。
「誰がお前らにやるかよ。」
襲いかかって来たやつらを俺は殺さない程度に殴り飛ばした。悟空と違って手加減はある程度しとかないとな。こいつらはニンゲンで俺は妖怪とニンゲンの・・・。力が全然違い過ぎる俺とじゃ喧嘩にもなりゃしない。全部、伸し終わった後に俺は一通りやつらの顔を見た。こいつらは。・・・さっき、俺に負けた連中じゃないか。博打に負けたからって喧嘩で勝てると思ってたのか。喧嘩ふっかけるなら相手を選んだ方がいいぞ。
「じゃぁな、お前ら。」
聞こえてないだろう連中に俺はひとこと言ってその場を去った。ったく、悟空じゃないんだからな、俺は。あんま争いごとに巻き込むなっての。女がかかったものなら幾らでもやってやるけど。
「悟浄、戻ったんですか?」
「八戒。・・・どうしたんだよ。俺の部屋の前で・・・。」
「昼間の話しの続きを。」
「あぁ。・・・あれか。そのためにわざわざここにいたのかよ。何時間、俺を待ってたんだよ。」
「そうですねぇ・・・。彼此三時間ぐらいは待ちましたか。」
三時間って飯喰った後からずっといたってことじゃないか。俺の話しを聞くためにわざわざ・・・。
「入れよ。」
「有り難う御座います。」
俺と八戒は部屋に入った。俺は今日の戦利品の酒をテーブルの上に置いた。コップを持って来て二人で飲み始めた。
「今日は博打ですか?」
「あぁ。」
「どうでしたって聞くまでもないですね。」
「この通り、勝って来た。ついでに喧嘩もな。」
「喧嘩もって。・・・手加減は来て来ましたか?」
「当り前だ。悟空じゃあるまいし。」
「そうですね。」
一息おいてから八戒は俺の目を見ながら話し始めた。俺も持っていたコップを置いて八戒をみた。
「で、昼間の続きなんですが・・・。」
「殺されるって話しか?」
「えぇ。一つだけ聞いてもイイですか?」
「なんだよ。」
「いつから三蔵を思い始めたんですか?」
「いつ頃だろう。気が付いたらあいつを目で追ってた。」
いつ頃からあいつを目で追い始めたのか。最初はただの生臭坊主としか思ってなかった。短気だしすぐに銃はぶっ放すは、ハリセンは飛んで来るは。妖怪と戦って例えピンチになっても助けてはくれない。坊主のくせに殺生はするは、博打はするは、煙草はするは・・・唯一してないといえば、女遊びぐらいじゃねえか?ただの腐れ坊主としか思ってなかったはずなのに。
「最初は何とも思っていなかったんですよね。僕が見ていてもそうは感じませんでしたから。それにしても三蔵とは・・・。悟浄、実はマゾだったんですか?」
「あのなぁ・・・。宗旨替えもしてない。ホモでもない。マゾでもない。俺は普通の・・・。」
そういえば、普通って何だろ。普通の・・・。俺はなんて言おうとしたんだ。”普通の人間”。禁忌の子が普通って言えるんだろうか。
「悟浄?」
「何でもない。だから昼間も言ったけど俺は・・・」
「判ってますよ。ただ聞いただけですって。貴方がホモでもマゾでもないのは判ってますから。三蔵ってば男にモテモテですね。悟空といい、カミサマといい。・・・貴方といい。」
「あいつにははた迷惑だろうな。」
「さぁ、僕には経験がない事ですから判りませんけど。」
判りたくもないとさも言いたげだ。俺だってそんな経験はないから判らない。女にはモテたいが男にモテたって気持ち悪いだけ、だし。
「それで殺される覚悟は出来たんですか?」
急に真顔になって八戒が話し始めた。殺される覚悟。確かにそれがなければあいつに告白することは出来ないだろう。だけど殺されるのはやっぱり勘弁して欲しい。あいつのことは気になる。でも死にたくない。この葛藤がどのくらい続いていただろう。あいつを目で追い始めたころから。
「もうしばらくは考えた方がよさそうですね、悟浄。」
「あぁ。・・・そうだな。もうしばらくこの気持ちを胸にしまっておくよ。」
「それが一番かもしれないですけどね。」
男に告白して両思いになれる確率は低いだろう。特にこの思いは破滅を意味する。三蔵を思い始めてから最初っから判っていた事だけど。八戒の口から聞くとやっぱガックリ来る。なんで三蔵なんかに心が動かされるんだ。この俺が・・・。
「告白を決心したら一言教えて下さいね。じゃぁ、お休みなさい。」
八戒はそういうと席を立って自分の部屋に戻った。俺はしばらくこの想いをどうするべきか考えながら買って来た酒を飲んだ。今日の酒はなんだか苦い味が俺の中を支配していった。

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