| 蒼い空 霧龍 要瑪 朝日が俺の顔を照らし目が覚めた。上体を起こし部屋の中を見渡した。 見覚えのない部屋に俺は、一人でキングサイズのベッドで寝ていた。 部屋にはいかにも高級そうな装飾が施されていた。ベッドの正面にあるドアが開いた。スーツを着て、手には食事の乗ったお盆を持った青年が立っていた。 「目が覚めたかい?私はもう着替えさせてもらったよ。これから仕事があるのでね。君もシャワーを使うといい。朝食とお金はベッドの脇においておくから。それから部屋は私持ちだから少しゆっくりして行くといい。ホテル代は先に払ってあるからカードキーだけロビーに出しといてくれね。」 俺に返事をさせない勢いで話し、お盆をベッドの脇に置いて部屋を出ていった。俺はただ呆然としていた。少しぼーっとしてからシーツを腰に巻き付けてバスルールに向かった。寝ぼけた頭に水をかけた。一気に眠気を飛ばし、今度はお湯で身体を洗った。内股を伝って下に男の白液が流れて行った。俺はいつものように内側に残ってるモノをすべて洗い流した。 バスローブを羽織ってバスルームから出た。髪をバスタオルで拭きながらベッドルームに戻ってきた。 ベッドに腰かけてお盆に乗せられた朝食を口に運びながら、俺は白い封筒に手を伸ばし開けた。そこには青年が言っていたようにお金が入っていた。ざっと10枚あるそれを封筒しまって食事を続けた。 朝食を済まし、服を着てカードキーを持って部屋を出た。高級ホテルの部屋のようだったけれど、あまり覚えていない。きっと連れ込まれてすぐにやって寝てしまったのかもしれない。俺はロビーにカードキーを出してポケットにしまった封筒を持って銀行へ向かった。 お金を預けると一度家に戻り制服に着替え、空っぽのかばんを持って学校へ行った。 学校についたのは4時限目の始まる前だった。俺の席は日の当たる窓側の一番後ろで、昼寝をするのに適している。特に今日みたいに疲れた時には一番いい場所だ。 席に座ると同時ぐらいにチャイムが鳴り、先生が入ってきた。出席簿を見て教室の人数を数える。一人多い事に気が付くと出席を取り始める。 「荒木、小川・・・・・佐野、志村。」 呼ばれた生徒が手だけ上げるなり、返事をするなりした。俺の前の名前で止まり、先生は×の並んだ俺の場所を見て、顔を上げ俺を見た。 「蘇芳。お前、何時に来たんだ?」 「ついさっき。医者に行って身体の調子が良くなくてから来ました。」 「そういうことはをクラスのヤツとか学校に連絡しとけ。いきなりいたら驚くだろう。」 「すみません。次からはそうします。」 先生は俺が増えた生徒だと確認すると教科書を出して授業を始める。俺は窓から空を見上げ少し怠い身体を机に倒した。先生の講義をする声は子守り歌だった。 「・・・う・・・・す・・・う・・・・・・蘇芳!!」 意識の遠くで名前を呼ばれたと思った瞬間、目の覚めるような痛みが頭を襲った。俺は頭を手で押さえながら目を開け上体を起こした。そこには教科書を丸めていかにも叩きましたというカッコで親友が立っていた。いつの間にか授業は終わり、周りでは昼食を摂り始めていた。 「・・・細小路・・・今、俺の頭、殴ったろ。それで・・・いってーだろが・・・。」 「う・る・さ・い。何度呼んでも起きないお前が悪い。昼食、食いっぱぐれたらどうするんだよ。」 「俺、腹減ってないし。喰いに行けば良かったのに・・・。」 「一人で喰ったって味気ないだろ?それに何してたのか気になるしな。」 「気にならなくていい。いつもの事だろ。飯、喰いに行くんだろ?なくなっちまうぞ。」 俺は立ち上がり細小路を連れて食堂へ歩いた。食堂へ行く間にも細小路は何度も同じ質問を繰り返した。答えるのも面倒だった俺は無言でいた。 食堂はすでにヒトでいっぱいだった。俺達は残ってる調理パンとおにぎりをいくつか買って外で食べる事にした。外は陽当たり良好だったが、食堂にヒトが居るせいか、ヒトもまばらだった。おかげで木陰のベンチを取る事が出来た。俺達は座ると早速、昼食を食べ始めた。 俺はさっきまで寝ていたし、来る前に食べたせいで食が進まなかった。細小路は次から次へと口の中へ入れていく。それを見るだけで結構、胸やけがする。でも細小路は足りなかったのか、俺の持っていたビニール袋を見ている。俺は袋を渡した。 「・・・何も言ってないのに・・・。」 「・・・目で訴えときながら何を言ってんだよ。やるよ、どうせ俺はもう喰えないし。」 「サンキュー!」 細小路は俺の心が変わらないうちにと言わんばかりに袋の中に手を入れた。そんな行動に俺は苦笑いをした。細小路はまた次から次へと食べていた。 すっかり食べ終わり腹を満腹にした細小路は紅茶を飲みながら俺を見た。 「なぁ、本当に4時限目まで何してたんだよ。」 「病院だよ、ビョーイン。」 「嘘こけ。ナニかしてたんだろう?親友の俺には本当の事言えよ。次の言い訳、考えておいてやるからさ。」 「・・・・・・ナニしてたんだよ。今更、珍しくないだろ?」 そう言い切った俺を細小路は凝視した。”今更、珍しくない”。それは女子高生ならそうかもしれない。でも男を買ってどうなんだろうと思ったのかもしれない。コレで親友もいなくなるのかと俺は思った。そもそも俺は高校を卒業出来ればいい。友達はいてもいなくてもいいと思っていた。だから、細小路が去ったとしても俺は気にしない。 「・・・蘇芳、お前・・・」 俺を”親友”と言う枠から抜くなら、早く切って欲しい。未練も何もなしに失くしたい。細小路の次の言葉を待った。 「大変なんだな。俺に何か出来る事があったら言えよ。」 俺は細小路の言葉に拍子抜けした。罵られるはずの俺に助けの手まで差し伸べるとも言ってくれた。俺は心から、親友である細小路に感謝した。俺はコイツを生涯、親友でいてくれたらイイな、と願った。 「・・・ありがとう。」 ちょうどいいタイミングで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。俺達はビニール袋をゴミ箱に捨て教室に戻った。 教室に戻ると俺達は、それぞれの席に座った。俺は窓の外を見た。晴れ渡っている空は蒼く白い雲がはえていた。俺は風に流れていく、雲の行方を見ていた。 いつの間にか、チャイムが鳴って先生が来ていた。俺は先生の声を聞きながら、空をまだ眺めていた。何度か指されたが、簡単な問題だったこともあり、全部答えては、また空に浮かぶ雲を眺めていた。 そうしている間に授業は終わっていた。朝から引き摺っていた怠さは、放課後になっても続いていた。俺は怠い身体を引きずるように鞄を持って教室から出た。 廊下を歩いてると校庭で部活をしている細小路が目に入った。楽しそうに走り回っているアイツの姿を窓に寄りかかるようにして見た。細小路は俺に気が付いたのかどうか判らないが、手なんか振っていたけど、でも校庭にはファン達がたくさんいるしサービスで振ってたのかもしれない。俺は窓から離れ、校門に向かった。 校門に行くまでに何度も立ち止まった。 やっぱり怠い・・・。 後ろから走ってきたヤツが俺の肩を叩き、俺は振り返った。 「蘇芳、どうしたんだ?大丈夫か??」 「細小路・・・お前、部活は?」 「休憩。ちょっと待ってろよ。家まで送る。」 「大丈夫だよ、一人で帰れる。睨んでるぞ、サッカー部員どもが。」 「ほっとけ。だから待ってろ。ほっとけないからな、今のお前は。」 「・・・判ったよ。ここで待ってる。」 俺は細小路の訳の判らない押しに負けた。細小路が着替えて戻って来るのを近くの木に寄りかかって待つ事にした。その間、サッカー部のマネージャーが俺の事を睨んでいた。練習時間まで取るなと言う事なんだろうか。でも俺のせいでアイツが帰るって言ったワケじゃないだろうに・・・。でも睨まれてるだけだとむかつくから睨み返してやった。するとそっぽを向いて他の連中の練習を見ていた。暫く、そんな事をしていると、細小路が鞄と上着を持って走ってきた。 「わりい、わりい。監督に捕まっちゃってさ。」 「だからいいって言ったのにさ。サッカー部のエースのくせに・・・。」 「さっきも言ったろ。お前がほっとけないって。」 ”行くぞ”と俺の肩を押した。俺は背後から視線を感じた。ちらっと後ろを見ると、やっぱりマネージャーが俺を睨んでいた。俺のせいでもないのにどうして恨まれんだろうなぁ。ちょっとは感じてやればいいのに、細小路は気にもしないで俺の家のある方へ歩いている。俺も視線を無視して歩きだした。 俺の家は学校から3駅離れていた。でもそれは実家ではなく、俺が借りたアパートだ。それを知ってか、知らずか、細小路は駅の方に歩いていた。 駅について俺は細小路と別れようとした。 「蘇芳の家があるのってどこだっけ?」 と聞いてきた。家まで来るとは思わなかったから、俺は驚いた。どう言っても無理そうだと思った俺は駅名を告げると、細小路は待っててと俺に上着と鞄を持たせ切符を買いに行った。 時間が時間だけにあまり待たずに戻ってきた。俺から上着と鞄を受け取ると呆然としている俺を押して改札を通った。ホームにはすでに電車が来ていて俺達は走って行って乗った。 「蘇芳、走っちゃったけど大丈夫か?」 「・・・多少ね・・・でもちょっと辛いかな・・・。」 苦笑いを浮かべ、自分が降りる駅まで開かないドアに寄りかかった。ホントは足にきてたけど、3駅だし、大丈夫だろうと思っていた。でも目の前がゆらついていた。 俺達の降りる駅になり、細小路が俺を支えながら降りた。 駅からは近い俺の家まで、細小路はゆっくりと歩いてくれた。 家に着くと俺はポケットから鍵を出し開けた。家の中まで俺を連れて来てくれて、寝室のベッドに座らせてくれた。 「蘇芳。お前さ、熱あるだろ?」 「へっ??」 「支えてたらさ、熱かったし。早めに寝た方がいい。」 身体が怠かったのも、目の前がゆらついたのも、熱のせいだと俺はやっと判った。俺は取り合えず、上着だけ脱いでベッドに横になった。ホントは着替えてからだと思うけど、今の身体を他のやつらに見せなくなかった。たとえ親友の細小路だとしても・・・。 「そういえば家のヒトは?出掛けてるなら来るまで側にいようか?」 「・・・今更、聞くなよ。俺は一人暮らしで、ここに帰って来るのはいないよ。」 「そっか・・・じゃぁ、俺がいてやるよ。」 「えっ?いいよ。部活まで休ませて看病までさせられないよ。」 「いいんだよ。俺がほっとけないだけなんだ。好意を受けろよ、素直に。」 「・・・判った。」 俺はまた強引な押しに負けていた。弱みを知られてるからなのか、何故なのか判らないけど細小路には勝てないと俺は思った。細小路はキッチンに行き、冷蔵庫を勝手に開け色々と物色しているようだった。冷蔵庫には俺が買っていろいろ入れてあった。 細小路はタオルに水を付け、桶に水を張り氷を入れて戻ってきた。 タオルを絞って俺のおでこに乗せた。ひんやりとしたタオルが気持ち良かった。俺はその気持ち良さに、眠りについていた。 |