暫くして腹の催促で目が覚めた。俺はタオルを外してベッドから出てキッチンに歩いた。少し寝たおかげで多少は気分も良くなっていた。
「蘇芳、起きたのか?今、お粥作ってるからもう少し待ってろよ。」
「・・・細小路・・・まだいたんだ・・・もう帰ってると思った。」
「何言ってんだよ。汗だくになったお前を着替えさせたり、起きた頃に腹でも減ってるだろうと思って飯まで作ってんのに。どうだ、多少は良くなったか?」
そう言えばいつの間にやらパジャマになってる。俺は身体を見られた事に驚きを隠せなかった。でも細小路は気にもしないで飯を作ってる。俺が援助交際もどきなのをしてるって言った時も何にもなかったようにしてたし・・・。
「どうした?まだ気分悪いのか?」
「いや、もう大分楽になったよ。細小路のおかげかな。」
「気にすんなよ。」
そう言うとお粥作りに精を出していた。俺はキッチンの所に置いてある椅子に座って細小路が飯を作ってる姿を見ている事にした。自分以外がキッチンに立って俺のために飯を作ってくれるのを見るのは久しぶりだった。いったい何年ぶりだろう。飯を作ってもらえたのは。
「おい、蘇芳。見てんなよ、恥ずかしいだろ。」
細小路が俺の視線に気が付いたようだ。俺の視線なんかよりマネージャーの視線に気がついてやればいいのに。それでも俺はただ見てるだけだった。細小路はそれ以上、何も言わず俺の視線を無視して料理をし始めた。ついでのように細小路は自分の飯も作ってるようだった。そりゃ、一人で食べるよりはいいんだけどさ・・・。食費代、払わせるぞ・・・。
「できたっと。」
細小路はお粥をお椀に盛り、ミネラルウォーターをコップに入れて一緒に俺の前に出した。
「どうぞ。熱いから気をつけろよ。」
「サンキュー。いただきます。」
俺は合掌して目の前にあるお粥を食べ始めた。細小路は飯を喰ってる俺に安心をしたのか自分の分もお椀に盛り、キッチンから出てきた。
「それ喰ったら、クスリ飲めよ。しばらくは寝てた方がいい。」
手際の良い細小路を見てどうしてモテるのか判った気がした。
俺は腹を満たしてクスリを飲んだ。細小路は洗い物をキッチンに運んだ。俺はキッチンに居座ってやろうとしたが、細小路に睨まれて断念してベッドに戻った。
すると洗い物を済ませた細小路がお盆を持ってきた。そこには器用に切ったウサギのような形をしたリンゴが皿に盛りつけてあった。
俺は上体を起こし、ベッドヘッドに背を預けた。細小路はベッドの横に机の椅子を持ってきて座った。
「リンゴ、切ってきたぞ。」
「有難う。」
細小路は楊枝をリンゴに刺し、俺の口の前に出した。
「はい、アーン。」
まるでアツアツカップル(死語?)か、アツアツ新婚夫婦(もしかしてコレも死語?)のようなことをしだした。俺はそこまでされたくなくて。
「いいよ、自分で喰う。」
「いいじゃん。新婚さんのようでさ。」
同じ事を考えていたようだ。まさかそれに俺まで巻き込む気か?楊枝は手放してないし。仕方ない。看病して貰ってる身だし。乗ってやるか・・・。
「はい、はい・・・。」
「はい、アーン。」
やり直しと言わんばかりにリンゴを俺の口の前に出した。俺は一口でリンゴを口の中に入れた。一口サイズに切ってあったから食べ易かった。しかも蜜があって甘かったし。
もぐもぐとしていたら細小路は満足そうにしていた。でも楊枝を手放さなかった。まだ新婚さんごっこに付き合わせる気だろう。皿も持ったままだし・・・。
俺はこの何だかおっぱずかしい行為を終わらせるためにさっさと口の中のリンゴをなくし、次のリンゴを口に入れる。それを繰り返し、皿の上からリンゴがなくなるまで続けた。俺がリンゴを平らげたのが良かったのか、ごっこが楽しかったのか、機嫌よく皿を持てキッチンに戻った。俺はまたベッドに横になった。
次に目が覚めた時は、もう朝で時計の針はすでに9時を指していた。ベッドの横に備えつけてある机の上にはラップのかけてあるご飯と紙が置いてあった。そこには細小路からだった。

『おはよう。
今日、一日休みだと先生に言っておくから。
飯喰ってクスリ飲んで寝てろよ。
学校帰りに寄るから。
細小路』

俺はもう平気な感じもしたが、親友の好意を素直に受ける事にした。少し遅い朝食を摂りクスリを飲んで大人しくもう一度寝る事にした。

「蘇芳、おはよう。ってもう夜だけどな。もう大分良くなったんじゃないか?」
細小路に声をかけられ目が覚めた。学校が終わる時間まで寝てたのか。クスリの効果大だな。
「じゃぁ、こんばんわか?もう大丈夫だ。色々、サンキューな。」
「どういたしまして。でもあんま無理すんなよ。肝が冷える。」
「気をつけるよ。」
「飯、作っといたから喰っとけよ。明日は学校、これるんだろ?」
「あぁ。これなら学校に行ける。」
「そっか。じゃぁ、俺は帰るな。」
細小路は下に置いてあった鞄を持ち”じゃぁな”と言って帰って行った。俺はベッドから出て、まず細小路が作ってくれた夕飯を食べ、一応クスリも飲んだ。そのあと、軽くシャワーを浴び、再びベッドに戻った。
次の日も俺たちは一緒に学校に行くことになった。俺はあまり乗り気じゃなかったが、出席日数に限りがあるのを思い出した。
それからは遅刻しても多少は行くようにした。遅刻の理由は細小路が考えていてくれることにただ乗ってるだけだった。

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