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爆睡をしていた俺の鼻に美味しそうな紅茶が香ってきた。俺は重い瞼を開け、上体を起こすと、人影があった。起きた気配を感じてか、カーテンに近づき開けられて、そこに立っていたのは保健医だった。 「おや、蘇芳くん。目が覚めましたか?それなら私とお茶をしませんか?」 どうやら仮病だって事がバレバレのようだ。俺は心地好いベッドから出て椅子に座ると、目の前にお茶とクッキーが置かれた。 「相変わらず、身体を大事にしないですね、キミは。」 「えぇ、俺にはこれしかないですからね。知ってるでしょ、晴美さん。」 「仕方ないから、もうしばらく休んで行きなさい。どうせ、授業なんて聞く気もないのでしょう?」 「聞くだけ無駄ですよ。」 俺はお茶が冷めないうちに飲みながら、クッキーを食べる。でもこのクッキー、手作りっぽいんだけど・・・晴美さんが作ったのか? 「晴美さん。」 「おっと、学校では苗字でと言ったはずですよ、ツルギ。」 にっこりと笑ってるわりには目がマジだ。怖い先生だよ、まったく。 「直江先生。このクッキーって先生のお手製?」 「そうです、といいたい所ですけど、これは生徒からのプレゼントですよ。健全ですよね、うちの生徒たちは。」 生徒からって、この学校男子校じゃん。って、先生には関係ないか。俺とも寝てるし。そっか、直江先生ってモテるんだ。 「プレゼント貰ってる生徒、食べたらダメですよ。」 「それは嫉妬かい?まぁ、生徒に手を出したら犯罪ですしね。それにここの給料もいいので、へまなどしません。蘇芳くんは別ですけどね。」 「別ねえ、たいして変わんないと思うけど・・・。」 「キミがプレゼントですか?そういえば、次はどうしましょう。そろそろテストが始まりますよね。今週の土曜日を私のために空けといて下さいね。」 「今週の土曜ですね。判りました、空けときますよ。」 「さぁ、お茶会も終わりです。ベッドでお休みなさい。私は仕事に戻りますから。」 手で追いやられ、俺は再びベッドに戻った。直江先生は書類を色々と取り出し、仕事を始めた。暫くその様子を見ていると、直江先生はこっちを向き、手でカーテンを閉めろとジェスチャーをすると、また仕事に戻った。俺は仕方なくカーテンを閉め、ベッドに潜り込んで目を閉じた。 次に目が覚めた頃にはすでに授業は全て終わり、放課後になっていた。直江先生はまた何処かへ行ってしまったようだ。俺はベッドから降りて上着を着てカーテンを開けた。 「あれ?細小路??」 直江先生の代わりに椅子に座っていたのは落ち込んでいる細小路だった。放課後で大好きな部活の時間が始まってると言うのに、制服のまま下向きだった。俺は細小路に近付くと、それに気がつき顔を上げ俺を見た。 「どうしたんだ?部活は?」 「蘇芳〜〜。お前、具合悪いなら悪いって朝言えよ。俺、悪い事したみたいじゃないか。」 「ほら、お前と約束してたし。ただ怠かっただけなんだって。だから、部活行って来いよ。俺も帰るからさ。」 俺は細小路の肩を叩き、動くように促した。細小路はふらふらと立ち上がって、俺に鞄を渡した。どうやら、俺の鞄も持って来てくれたらしい。俺は鞄を受け取り、保健室のドアを開けた。 「ほら行くよ、細小路。」 まだふらふらしている細小路を連れ、保健室を出た。細小路を部活へ送ると俺は家路についた。 家に着くとまず、カレンダーに印を付けた。晴美さんとの約束の日。時間とかは、ポケベルに入れて来るだろうし。土曜日、楽しみだなぁ。 「ふらふらしてたけど、細小路大丈夫かなぁー。後で電話しとくか。」 俺は私服に着替え、冷蔵庫を開け夕飯の準備を始める。簡単な料理でお腹を満たし、銀行に生活費を落としに行き家に帰った。 目が覚めたのは日暮れ頃だった。半日以上、意識を飛ばしてたコトになる。 「また学校、いけなかったなぁ。いっそ、自主退学するかなぁ・・・。」 俺はそんなことを考えながら壁を伝ってバスルームに向かった。 シャワーを軽く浴びて、汗を流した。濡れたままバスローブを着てキッチンに行く。 冷蔵庫から水を出しコップに注ぎ椅子に座った。テレビをつけチャンネルを回しても回してもドコゾの野球監督の妻が脱税をしただの、なんだので、芸能ニュースを賑わせていた。そんなこと俺には関係ない。しかたなく、テレビを消し水を飲み干して、テーブルにコップを置いた。椅子から立ち上がり、ステレオの電源を入れ、CDをかけた。耳触りの良い、ゆったりとした曲がかかりだした。俺はコップを持ってキッチンに行った。 寝ていたおかげなのか、あまり食欲はなかったが、軽くでも食べようと、冷蔵庫を開けた。材料を出して作り出した。 出来上がりと同時ぐらいにチャイムが鳴った。俺は皿に盛った料理をテーブルに置いてから出ると、細小路が立っていた。 「蘇芳、大丈夫か?朝来たら出ないから、寝込むほど調子が悪いのかと思って、部活抜け出してきちゃったよ。」 「大丈夫。半日寝てたらすっきりしたよ。今から飯・・・って、お前も喰う?」 「サンキュー。でも心配で見にきただけだし。そこまで図々しくできないよ。明日の朝、又迎えに来るからさ。起きて学校、行こうぜ。」 「あぁ、サンキューな。」 「じゃぁ、またな。」 細小路はそのまま帰って行った。俺はドアを閉め、ダイニングルームに戻って飯を喰った。俺は洗い物をして、洗濯もしてから、服に着替えた。ただなんとなく外に出てふらふらと街の中を歩いた。 「あれ?蘇芳くん。」 後ろから聞き覚えのある声がした。俺は振り返った。 「直江先生。こんばんわ。」 「こんばんわ。今日は立つんですか?」 「違いますよ。街を歩いていただけです。」 「なら、この後はフリーだったら、私と一緒に過ごしませんか?」 「いいですよ。じゃぁ、どうします?」 「お茶でも飲みに行きましょう。」 晴美さんは俺の手を引っ張り、喫茶店に入った。ちょっと落ち着いた店でクラシック音楽がかかっていた。晴美さんは窓側の席に座った。俺も続いて座ると、ウエイターが水とおしぼり、メニューを持って来た。 「何か食べるかい?」 「いえ、家で食べて来たので。」 「そう。」 晴美さんは呼び鈴を鳴らした。 「珈琲、ホット。」 「えっと、ロイヤルミルクティー、ホットで。」 「珈琲のホットとロイヤルミルクティーのホットですね。かしこまりました。」 ウエイターは注文を繰り返し、去って行った。 「そういえば、晴美さんはなんであそこに居たんですか?買い?」 「ん〜・・・いつも買ってるわけじゃないよ。ここいら辺は私の家の近くなんだ。」 「そうだったんですか。憶えておかないと。」 「私に逢わないために?」 「逆ですよ。晴美さんに逢うためですよ。」 俺はにっこり笑うと晴美さんも笑い返してきた。区切りが良いところにウエイターが珈琲とロイヤルミルクティーを持ってきた。冷えた身に暖かいモノを飲み込むと身体全体が暖かくなった。 「飲み終わったら私の家に来るかい?」 「えっ、でも誰か居るんじゃないですか?」 「誰かって、誰?」 「奥さんとか、家族とか・・・」 「いないよ。私は独身だし、この年で一人暮らししてないはずないだろ?」 「お邪魔してもいいならしたいです。」 「誘ってるんだから邪魔していいんだよ。」 俺と晴美さんは飲み終えると伝票に手を伸ばした。手が触れ俺が手を引くと晴美さんが伝票を掴んだ。 「あっ。」 「ここは私が払うよ。誘ったのは私だしね。」 「すみません。ご馳走になります。」 晴美さんが支払ってる間、売り場においてある商品を見ていた。凝った作りのお菓子やお茶の葉、珈琲の豆も売っていた。晴美さんが支払いを済ませ、俺のほうへ来た。 「どうしたんだい、行くよ。」 晴美さんは俺の脇を通って出口に向かった。俺も後について出口に向かった。 出口に晴美さんは待っていて、俺が店をでると晴美さんの家に向かった。 晴美さんはセキュリティーのしっかりしているマンションに住んでいた。 「学校の先生って儲かるんですか?」 俺はマンションに入るなり、思わず聞いてしまっていた。よく学校の先生は安月給だと聞く。晴美さんは苦笑を浮かべ控え目な声でポツリと一言だけ言った。 「このマンション、私の父の所有物件なんだ。」 「なるほど。」 着いたよ、といわれ部屋に入った。 「どうぞ、何もないけど。」 「お邪魔します。」 俺は晴美さんの後をついて行く。 「へぇ・・・・。」 俺は部屋に一歩入るなり、感心した。何もないというわりには生活感のある部屋で、いろいろとものが置いてあったりするが、ちゃんと綺麗に片づけられていた。晴美さんはそんな俺を見て苦笑を浮かべつつキッチンのほうへ行った。 「お酒でも・・・いや、ツルギは未成年なんだよな。私服を来ている君は、とても大人っぽいから忘れそうだよ。」 晴美さんは冷蔵庫を開けて悩んだ揚げ句、ミネラルウォーターと自分の分のビールを出して閉めた。俺はダイニングルームのソファーにちょこんと座って晴美さんが来るのを待っていた。 晴美さんは俺の隣に座ってビールとミネラルウォーターをテーブルにおいて俺の髪の毛を撫でた。 「約束の日とは違うけど、泊まっていくかい?」 「今日はちょっと・・・明日は学校も行かないといけないし。」 「じゃぁ、送って行くからゆっくりしていきなさい。」 俺は晴美さんの言葉に甘えて部屋でゆっくりさせてもらうことにした。 時計をみてそろそろ帰ると晴美さんに言うと、じゃぁと言って立ち上がったが俺は遠慮した。 「晴美さん、お酒飲んでるでしょう?俺、歩いて帰れますから。じゃぁ、また約束の日に。」 俺は晴美さんのおでこに軽いキスをすると立ち上がって部屋をでた。 そのまま自分の家に帰った。 朝起きるとちょっと頭痛がした。多分風邪を引いたのかもしれない。でも今日は細小路が迎えにやってくる。俺はベッドから出て制服に着替えた。薬箱から風邪薬を持ってキッチンに向かった。軽い朝食でも食べて薬でも飲んどけば、直るかなぁ・・・。 朝食を作ってる最中にチャイムが鳴った。俺はガスコンロの火を止めて覗き穴から外を見た。そこには細小路が立っていた。俺は鍵を開けドアを開けた。 「おっ、今日はちゃんと起きてるんだな。飯は?」 「へっ・・・あぁ、まだ。これからだけど・・・細小路は食べてきたのか?」 「もちろん、食べてるよ。さっさと食えよ。学校間に合わなくなるからな。」 「あぁ、判った。中入って待っててよ。」 「そうさせてもうよ。」 俺はキッチンに入る。細小路はダイニングルームのほうへ行くと椅子に座った。俺はさっき作りかけていたものを作り始めた。 皿に盛ってキッチンから出てテーブルに一人前分だけ置く。 「じゃぁ、頂きます。」 俺は両手を合わせて合掌する。細小路の前でそそくさと朝食を食べ終わるとまた合掌して皿を持ってキッチンに戻る。冷蔵庫からミネラルウォーターを取りだし、コップに入れて風邪薬を書いてある倍、口に含みミネラルウォーターで流し込む。流しにある皿を洗って制服をきちんと着て出てくる。 「どうしたんだよ、細小路。学校に行くぞ。」 「あぁ。・・・なぁ、蘇芳。」 「なんだよ、時間ねえから歩きながらでもいいだろ?」 「お前さ、もしかして熱とかある?」 「何で??」 「顔色悪い。」 「そうか?でもまぁ、薬飲んでるし大丈夫だよ。」 「俺さ、この間無理させちまったじゃんか。だから無理に学校に連れて行くのもなんだなって思ってさ。今日一日ちゃんと、休んだほうがいいんじゃないか?最近、疲れてないか?この間も休んでたし・・・ちゃんと飯喰ったほうがいい。」 「何心配してんだよ。大丈夫だって。ちょっと最近は確かに疲れてたけど、心配ないから。」 「この間もそういってたよな。俺さ、そんなお前を見てんのつらいんだよ。すっげー、心配なんだ。」 「本当に大丈夫だから、学校行こうぜ?今日はちゃんと行く気になってんだからさ。ほら、立てよ。行くぞ、学校。」 「あぁ・・・。本当に辛かったら、言えよ?俺に遠慮なんかすんなよ。」 「判ったよ。」 細小路を促して家を出て学校に向かった。 |