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そして俺が転校することに決まった。俺は本当は転校するつもりはなかったのだけれど、ちょっとしたトラブルが見付かり・・・。つまり、保健室に居る先生、直江晴美さんとのことが学校側にバレてしまった。その責任として直江先生は退職、俺も停学処分を食らっていたのだが、俺自身で転校することを決意した。細小路とも逢えなくなるのは淋しいけれど、自分のためでもあるから仕方ないって割り切ってる。告白さえ俺はしてないけれど、ずっと細小路を思っていようと思ってる。あいつに好きな子、恋人が出来たりしても結婚したとしても祝福してやろうって、親友として。 次に行く学校は全寮制の男子校だ。今居る部屋は十夜に任せて俺は寮に入ることにした。部屋代は俺が払って行くつもりだ。卒業後ちゃんと戻って来るつもりだし。俺は最後になる教室に向かった。 教室に入るとすでに俺が転校することを知ってるらしくみんなが俺のほうを向いた。俺はとりあえず挨拶して自分の席に着いた。 「蘇芳、お前・・・。」 何の相談もなしにって細小路が続けようとしてたかもしれない。でも先生が来ていたので細小路は前を向いた。俺は一日授業を聞きながら空を見ていた。今日がここから見る最後の蒼い空だった。 授業が終わり放課後になると先生が俺を呼んだ。俺は前に行き先生の横に立つ。 「今日で蘇芳は転校することになった。蘇芳、ひとこと言ってけ。」 「えっと・・・長い間、お世話になりました。とても楽しい生活が出来たと思っています。本当にありがとう。」 俺は一礼すると自分の席に戻った。それから先生は少し話しをしてからHRが終わった。俺は鞄を持って立ち上がり別れを惜しむように学校の中を歩いた。やっぱり最後に来たのはお気に入りになってる昼食を食べる場所、木の下で座った。すると部活に行ったはずの細小路がやってきた。俺は一瞬驚いた。まさか、来るとは思わなかったし。何せ、放課後は細小路の大好きな部活の時間だったし。 「・・・蘇芳・・・お前・・・なんで、俺に相談もなしにっ。」 「相談してもお前、きっとここにいろって言うだろうなって思ってさ。それに俺の決意が鈍るから。」 「それにしたって、ひとこと、相談してくれたっていいじゃねえかよ。」 「同じことだよ。俺の決心が鈍るから言わなかった。それだけだ。」 「一人で決めて・・・俺はどうすればいいんだよ。俺はお前の親友だろっ!」 そう、親友だからこそ言えないことがる。細小路には悪いけど俺は親友の細小路にだけは伝えられなかった。転校することをいえば、本当に俺の決意は鈍ってやめようとか思ってしまうに違いなかった。俺が俺らしくここを去るにはそういう方法しか残ってなかったのだ。きっと細小路には判らないだろうけどな、俺の思いは。 「悪いな。親友ごっこも終わりだよ。俺のことなんか忘れて残りの学校生活、楽しんでくれよ。」 俺は細小路が部活に行くようにと手を振った。けれど、細小路はその場から動こうとしなかった。 「・・・なんだよっ、それ・・・。お前、俺のことなんとも思ってなかったてのか?」 「あぁ、思ってない。クラスメートの一人って感じかな。俺はそもそもダチも親友もいらなかったし。」 「蘇芳・・・。」 細小路が下を向いてしまったので、俺は何も言えなかった。俺は立ち上がって細小路の肩を叩いた。 「まぁ、サッカー頑張れよ。じゃぁな。」 そういって俺はその場から離れた。少しだけ親友っぽいこと言って、本当は追いかけて欲しいって思ってるくせに俺はその場からただ逃げたかっただけなのかもしれない。俺は走って校門まで行くとあとはゆっくりと歩きだした。 後ろから走ってくる足音を聞いた気がしたけど、部活をやってるやつもいたので、気にしなかった。俺は校門を出ると後ろを振り返って学校をひと目見ておこうと思ったら、走ってきていたのは細小路だった。俺は思わず走って学校のほうへ逃げこんでいた。 長い間、学び舎として居た場所は自分の逃げ場所を作ってはくれなかった。俺は何故か上を目指して走っていた。追い詰められるって判っていながら・・・。 とうとう俺は屋上でとまることになった。後ろからは細小路が追いかけていたから戻ることもできなかった。俺は屋上に出てドアを閉めて身体で押さえていた。 細小路が登り切って俺が押さえていたドアをがちゃがちゃと鳴らしながら開けようと必死だった。俺も開けられないように必死で押さえていた。恐怖心が俺を襲った。まるで昔強姦された時のように俺は恐がっていた。何がどう恐いのか俺にも理解できないけれど、本能がそう伝えてる。恐いって・・・。 「剣、開けろよ。俺はお前とただ、話しをしたいだけなんだ。」 ”ツルギ”って・・・今、呼んだ。細小路が初めて俺のことそう呼んでる。今まで俺のこと名字で呼んでたのに。俺は細小路のコトバを聞いてもドアを必死で押さえてるしかなかった。細小路が諦めるのを待つしかなかった。 「開けろって、剣っ!お前、一方的過ぎるぞっ!!」 判ってる、一方的だったのは。でもそれでもさっきので俺の言いたいことは言ったんだからこれ以上言うことなんてなかった。もし言ったら・・・。きっと違うことを言ってるかもしれない。細小路に対して俺が抱いてる思いを・・・。だからもうこれ以上俺を追い詰めないで欲しかった。これ以上、言わないで欲しかった。 「俺はお前のこと、ずっと親友だって思ってた。今までもそしてこれからも!なのにお前が転校するって聞いて今まで抑えていた俺の心が爆発していた。親友なんて生っちょろいこと考えてる場合じゃないって。」 えっ・・・。それってどういうこと?まさか・・・。そんなことない。俺の聞き間違えだ。 俺が一瞬怯んだのを細小路は見逃さなかった。一気にドアを開けた。俺はドアから離れてフェンスのほうへ走っていった。流石というべきなのか、細小路は飛び出した瞬間俺に向かって走ってきて俺を捕まえた。俺は判らない恐怖心にかられ、細小路の両腕から逃げようと必死になって暴れた。そんな俺を細小路はいとも簡単に押さえていた。喧嘩慣れしてる俺でもやっぱり何もしてないそこらのやつらと変わらないらしい。 「剣、俺の話を聞けって。」 「聞かないっ・・・。離せよっ、腕っ・・・。」 そんな俺の言動を細小路は聞き流して俺の耳で囁き始めた。 「剣。お前はさっき親友でも友達でもないって言ったよな。俺は親友だってずっと思ってた。でもお前が熱でうなされてた時、俺は抱いてる感情が親友じゃないって判った。俺はお前のこと。」 「それ以上言うな・・・。俺は聞きたくないっ。」 俺は耳を塞ぎたかったが細小路の腕がそうさせてくれなかった。俺は自分の声で何とかしようとしていた。これ以上聞いたら俺が見ようとしなかった心まで引きずり出されそうで恐かった。さっきまで感じていた恐怖心はこれだったのだろうか。 「止めない。俺はお前のこと好きだ。心か好きだって思ってる。他のやつらにナニをされてるって聞いた時は胸が痛かった。止めたいけど親友という枠からは口出しすることすら出来なかった。」 聞きたくないのに強引に聞かされる。細小路のコトバは俺の心に思いっきり入り込んでくる。細小路の思いが伝わってくる。必死な思い・・・。俺はどうすればいいんだろう。どうすれば・・・。 「卒業するまで一緒にいられたらいいって今まで自分に言い聞かせてた。なのに、お前が転校するなんてこと言い出すから・・・。抑えられなくなった。俺は剣のことを愛してる。」 俺は細小路の必死な思いに戸惑っていた。俺も細小路が好きだって自覚してた。あの、倒れた日から俺はずっと考えないようにしてきた。転校してからもきっとそうしたと思う。なのに最後の最後で細小路からの告白・・・。俺はこの思いに答えていいのだろうか。俺は真性のホモかもしれない。でも細小路は違う。女の子にモテて中学のころは付き合ってたって言ってた。なのに俺のせいで人生を変えることは出来ない。俺への感情は捨てて欲しかった。いつかくる将来のために。 「駄目だよ、細小路。お前はそんなこと口にしちゃいけない。俺にじゃなくて将来のお嫁さんになるやつに言うべきだ。」 俺は今だに自分の心に嘘をつかせた。細小路の将来のために。 細小路が俺のコトバに一瞬気がゆるんだのか俺はその隙を見て力を振り絞って細小路の腕から抜け出した。そして少し距離を置いて俺は次のコトバを絞りだした。 「その感情は嘘だから、忘れろ。いつかはお前は普通に結婚して子供を作って過ごすのが本当の姿だ。だから忘れるんだ、俺への感情は。」 「嘘じゃない。これから先も変わることなんてない。俺は剣を愛して行く。一生、お前が俺のことを忘れたとしても。」 「・・・細小路・・・。」 どんなコトバを紡いでも細小路の心は変わらなさそうだった。俺はそれ以上に何も言えなくて黙ってしまった。細小路と見つめ合うこと数秒、細小路が俺に近付いてきた。俺は近付くたびに後ろに下がったが、その先はもうフェンスで後ろへと行くことは出来なかった。細小路は俺をフェンスに追い詰めて俺の両側に手を置いた。俺はもう一歩も動くことができなかった。ヘビに睨まれたカエルってこんな感じなのだろうか。 「剣、お前の心をちゃんと聞きたい。俺のことなんとも思ってないのか?」 思ってないといえばいいのだろうか。俺は俺の心に一生嘘をついて他の連中に愛のコトバを紡いでそれで細小路を重ねて生きて行くつもりなのか。一生一人のヒトを愛さずに生きて行くつもりなんだろうか。判らない・・・俺にはどうすればいいのか、判らなくなってきた。 「俺の本心は・・・。俺の本心に偽りはない。お前のことなんとも思ってないし、今までだってそうだったしこれからもそうだ。」 俺は細小路の目をちゃんと見れなくて明後日の方を向いた。本心からそう言いたい訳じゃないって言ってるようなものだって判っててもそうすることしか出来なかった。そうすることで細小路が諦めてくれるんじゃないかって他力本願だった。言い出したらきっと俺の心は止めどもなく進んでしまう。俺が思ってることすべて言わせそうで俺は恐かった。俺と同じ人生にしたくない。同性愛を良く思ってない今の世の中で細小路を引きずり込みたくない。辛い思いをさせたくない。 「俺の目を見ていえよ、剣。その言葉、俺の目を見てもう一度言ってみろよ。」 急に細小路のコトバが重く感じた。無理矢理俺の顎を持ち上げ俺の目を見ろって細小路が自分の目線に入るようにした。俺は細小路の目を見ながらさっきのことを言えるんだろうか。いや・・・きっと言えない。これ以上は騙しきれないのか・・・。自分にも細小路にも・・・。 俺は口を開いたがコトバを紡ごうにも紡げなかった。言いたいコトバが言えない。言いたくない。これ以上俺のコトバで細小路を傷つけたくなかった。 細小路にじっと見つめられ俺は観念して自分の心と向き合い、細小路に本当の俺の心を言うことにした。 「・・・俺は・・・細小路が思ってるほどいいやつじゃない。綺麗でもないしな。お前を俺が居るところに引きずり込んだら周りから白い目で見られることになる。だから俺はお前を・・・お前を思わないことにした。普通に生活できるぐらいまで時間はかかったけど、そうすることが一番だって思った。今までもこれからもそう思う。だから俺は俺の心を隠し続けた。細小路から・・・自分から。」 「俺は周りが何と言おうと構わない。むしろ剣といられれば幸せだ。」 「細小路・・・。」 「だから俺の思い、受け取ってくれよ。そしてお前の心、俺にくれ。」 細小路の思いに俺は答えていいのかと思っていた。後悔しないんだろうか、俺も細小路も。ずっと俺は隠し続けて細小路以外の俺と同じ世界に居る連中と愛を紡いで生きて行くつもりだったのに。細小路は俺が居るところに来るって言ってくれた。恐れないで俺と一緒にいてくれるって・・・。俺は細小路のこの真剣な思いに応えていいのだろうか。でも応えないと一生後悔することに気がする。 「俺のこと・・・ずっと思ってくれるか?俺のこと捨てないでくれるか?」 俺の思い。”蘇芳”さんから捨てられた俺。蘇芳さんにかわるヒトを探し続けていたのかもしれない。俺を支えてくれる誰かをずっと求めていたのかもしれない。細小路は俺を抱きしめて耳元で囁いた。 「ずっとずっと愛を剣に贈るよ。誓うよ、この蒼い空に。剣は?」 「俺も細小路に・・・。」 細小路は違うだろうって言って自分の名前を呼ぶように言った。俺は首を縦に振ってもう一度言い直した。 「俺も智幸にずっとずっと愛を贈るよ。この蒼い空に誓って。」 俺たちは蒼い空に誓い合った。俺を包み込むように抱きしめた智幸の背中に自分の腕を廻しお互いの唇に触れ合う。軽いふわっとした今までした誰よりも気持ちよくて俺は本当に天にも昇るような気持ちになれた。これからずっとずっと俺は智幸を、智幸は俺を愛し続ける。俺たちは変わらない。この蒼い空のように・・・。 あれから俺たちの関係は変わってない。蒼い空が変わることがないように。逢える時間は前より減ったけど、時間より内容が濃い一日を過ごすことにしている。俺たちは幸せな時を一緒に刻んでいる。今もこれからも・・・。 蒼い空は俺にとって運命だったのかもしれない。 人生の始まり、俺が新しく人生を踏み出す時に見える蒼い空。 シスターに拾われたあの日。 そして智幸から愛を受け取り、智幸に愛を渡した日。 蒼い空、俺を見つめる母親のように・・・。 蒼い空、包み込むような暖かい日差しで。 蒼い空、見守っている。 ずっと・・・ずっと・・・変わらないままで・・・。 [End] |