[ in the MOON. ]和泉千紘
今日の夜の空色は、雲ひとつ無くどこまでも蒼い。その中に在る月はほぼ真円を描いていて、地に乾いた光と、そこに在るものの影を映り込ませる。
この夜には、水無月の鬱陶しさが欠片もない。―――くだらない事件に巻き込まれたこの旅の終りには相応しい、静かで、いい月だ。
見上げた月にそう想い、足を止める。
極自然に目を細まり、眼鏡を外して、視線を背後へと移した。月が、眩しかった訳ではない。
今、通り過ぎてきた道から、少女の重さを湛えた足音が近づいてきたからだ。
その足音の根源に心当たりがあったからこそ、私は振りかえった。
振りかえると、私達は申し合せたかのようにぴったりと目が合った。
その目を見て、私は、嫌悪の情を覚えた。
「―――鮮花か。なんだ、人の後をつけてくるなど趣味が悪い」
「……宿泊先を勝手に出ていく橙子さんも、決して趣味が良いとは思えません」
「それは私の勝手だ。なんにせよ、私はもうここを出ていく。既に予定外の時間をここで過ごしてしまっているからな。世話になった。
それで、お前の用件はなんだ?早く言え、私も余り暇な訳ではない」急かしては見たが、尋ねるまでもない。
この類の目をした者が魔術師(わたしたち)に言う言葉はひとつだ。その言葉は愚か過ぎていて鮮花の口からは、聞きたくもない。
「橙子さん。私を、貴方の弟子にしてください」
ああ。よくいる。
こういう愚か者は。『魔術師はなんでも出来る』、そう勘違いしている愚か者達は。
……ただ、鮮花がそんな者達の一人だったというのは、私の見込み違いながら少し残念に思った。
私はこの賢しい少女を気に入っていたというのに。確かに、鮮花には魔術(こちら)の方面でひとつ面白い才能があるようだ。
その才能の使用法ぐらいは、教えておいた方がいいかもは知れない。
でも、それと魔術師になるという事とは全くを持って別の話だ。「鮮花。魔術は万能ではないという事は既に話したな。これは一切の偽りはなく真実だ。
故に、幾らお前が実の兄との禁忌を望むとはいえども、それに魔術が介入する事は―――」
「いえ、それは余り関係ありません」ほう、と思わず声を漏らした。
想定外のきっぱりとした否定に対して興味本位で言葉を接いだ。
「ならば、何故お前は魔術師になりたい」「私、あなたのことが好きみたいです」
―――それは、イレギュラーな衝撃だった。
「……それは、どういう意味だ。お前が愛してるのは兄ではなかったか?」
「はい、私は兄さんを愛してます。誰よりも、なによりも。
けれど、なんというか―――恋、とでも言うべきでしょうか、そういったような感情で、今、私が貴方に惹かれているというのも事実です。しかし、私は貴方というものがよくわからない。
それはまだ私が貴方に出会ったばかりだから、という事では無い事はなんとなく分かっていた。でも、それが何故なのかは全くわからなかった。
―――そんな人に出会ったのは初めてでした。
ああ、だから貴方に惹かれているのかもしれませんね。だけど、分かってしまえばその答えは至って単純。
貴方は、魔術師だった。私とは立っている位置からして、全く違う存在だった。
それでは分からなくても当然です。見えている世界が違うんですから。
それに、兄さんを獲る方法のひとつとしても、魔術が無効ではないとは言い切れないと思います。要はその使いようではないでしょうか?
私にとっては、魔術も普通の学校で学ぶ事も、そういう意味では等価値です。
ただ、そこに貴方を識る方法としての可能性が有るか無いかの違いです。そういった理由で、私は兄さんを獲る為にも貴方を識る為にも魔術師になりたいんです。
橙子さん、私を貴方の弟子にしてください。
貴方が見ている世界を、私も見てみたいんです」
おねがいします、といつもと変わらぬ抑揚に強い意思を込めて、頭を下げた。
―――――おもしろい。
気付くと。
自分でも知らず、口の端を歪めて笑っていた。「何をほざく、小娘が」
そう呟きながら、胸ポケットの箱から煙草を1本引き抜いて火をつけた。
それを、大きく吸って吐き出してから、「魔術師になりたい」という少女に、先達として問うた。「鮮花、お前は魔術に何を望む」
紫煙が蒼い空に消えていく。
「……貴方という存在を、一欠片でも識ることを。そして、兄さんを獲る為の方法のひとつとして」
それでも、鮮花の意思の強い語調は変わらなかった。
どうやら、先程こいつを見込み違いだと思った事、それ自体が間違いだったようだ。
私としたことが。くだらない。だが、それを受けて、いっそう魔術師としての笑みは深まる。
「は、おもしろい。これまで私の所に弟子になりたいと言ってくるのは、口を開けば真理の探求だの根源がどうのとかの大層なつまらん望みや、魔術というものへの過大な妄想と希望を持った、くだらん輩だけだった。
だが、お前のその理由はひどく個人的で俗的で、とてつもなく愚かなものだ。
―――気に入った。
いいだろう、鮮花。お前を私の弟子にしてやろう」そう、言ってやった。
「……ほんとう、ですか?」
「何を呆けた顔をしている。ああ、あたりまえだ、魔術師は魔術師に対して嘘はつかん、言葉というものはすべからくして呪いだからな、そして数多ある呪いの中でも言葉は強力だ。故に魔術師は己の発した言葉を守り、それに縛られねばならない。そして魔術師が己を縛り上げるのは言葉だけではない。
それでも成りたいか?私と同じモノに」「はい。もちろんです。その証拠に、私は先程から貴方にはひとつも嘘は言ってません」
魔術師として、と、したり顔の笑みで私の弟子は、そう付け加えた。不意を打たれた言葉の残滓を受けて、私は小さく笑い出していた。
―――それは、もう、魔術師のものでは無く。こいつは、ほんとうにおもしろい。
「うん。お前は魔術師に向いているな」
そうひとりごちながら、それがとても可笑しくて、私は笑った。
end.
はしがき。
ええとええと、なんというか
………アプが遅くてすいません
鮮花×橙子萌えーという珍奇なSSですいませんタイトルの意味は、舞台状況そのまま英語ってのもあるんですが、
むしろほぼ造語で「架空的」という意味なので、
(Maninthemoonが架空的人物という意味なのでそこから捏造)
そんなわけでこのSSはかなり架空的なので許してください。個人的に、らっきょでの一番萌えるカプは鮮花×橙子(精神的に)なんです。素で
禁忌大好きな鮮花は、百合でもどんどんゴーしちゃうと思うのですがどうか?
橙子さんは橙子さんで、ああいう人なのでそういう路線も無くは無くだと思うのですがどうか?
ああ、殺伐とした師弟愛萌え。…っていうか他もらっきょは、織式とか織×幹也とか、そういう人としてダメっぽいのばかり萌えるんです、ごめんなさい。
あ、でも普通に式×幹也とかも萌え
百合からヤオイからノーマルまで、なんでも出来るらっきょはいいですね。ラブ
いや、もちろん普通に小説としてもラブです、ごめんなさい、きのこさん。でもこれからも書きつづけます、鮮花橙子とかのダメなカプを。
マジでごめんなさい。…でも、正直、機会とネタがあれば原作風味のああいうSSとかも書きたいんですけどねー(=ネタが無い)
SSTop