第10話:ひどいはなし

 

「ねえねえ、浩之ちゃん、知ってる? 志保がCMデビューするんだって!」

あかりが息を弾ませてやってきた。

「何だって!?」

当然の事ながら、俺はびっくりした。 あの志保が・・・・ 夢みたいな事をなんだかんだ言ってとうとうやっちまったか。

「でも何でアイツ、俺達に話したがらなかったんだ? アイツのこったから、大いばりで自慢するもんだとばかり思ってたぜ」

「そう言えば・・・・そうだね・・・・」

あかりも腑に落ちない表情だ。 まぁ、何はともあれ、マブダチのCMデビューだ。 じっくり見てやろう。

その晩、俺はあかりと雅志とを家に呼んでいつやるとも分からないCMを期待しつつチャンネルを取っ替え引っ替え

していた。 志保のヤツも呼んだのだが、おばあさんの法事だとかで来られないそうだ。

「あっ! 浩之ちゃん、あれ、志保じゃない!?」

「なにぃっ!」

食い入るように画面に集中するおれたち3人。 そこには、確かに志保が映っていた。

『歯垢も歯石も歯周病菌も、ぜーんぶやっつけちゃうんだからぁ☆』

 

・・・・・・・・・・・・・・限りなく変なカッコで・・・・・・・・・・・・・・

 

画面上の志保はどう見てもアメーバのような衣装を着て、今にも糸を引きそうなステッキを振り回して笑顔だった。

『酵素の時代はもう古い!! これからはバクテリアでお口をFreshUp!!』

変なナレーションまで流れてくる。

「ひ・・・・浩之・・・これって・・・・」

雅志はすでに言葉になってなかった。

「あぁ・・・おそらく、新しい歯磨き粉のCMだろうな・・・・」

俺だって、あまりにも想像と違ってたから、コメントのしようがない。

『お口の中で活性化したバクテリアが歯垢を分解! しちゃうわけ! そのままバクテリアは3日間くらい居続けるから、

とーっても衛生的じゃない!?』

ピョコピョコ志保がステップを踏みながらねばねばステッキで天気予報のごとく解説を始める・・・。 良くありがちな

有効成分の模式図がCGアニメで流れるが、可愛い子鬼みたいな歯垢や歯周病菌を巨●兵みたいなバクテリアが

握りつぶしたり食べたりしているのは見られたもんじゃない。 あ、隣であかりがはきそうな面してやがる。 お世辞にも

衛生的とは言えそうにないシロモノだ。

最後に志保がソレを歯ブラシにつけて、磨いている映像が映る。 さっきまでの変な衣装とは違い、パジャマ姿だ。

演出として、朝の歯磨きタイムってトコだろう。 まぁ、この手の業界じゃあ、起き抜けにパジャマで歯ブラシ、なんて

のは基本だからな。

ただ一つ、基本から大きく外れている物があった。

その歯磨き粉の色は、腐ったような深みどりだったのだ。 さすがにおれも吐き気がしてきた。 あかりと雅志は

息も絶え絶えで見ている。 また変なナレーションが入る。

『さあ、アナタも今日からバクテリンで口内環境、ととのえませんか?』

また、志保アメーバが出てきた。

『薬用バクテリン、みんなで使ってね☆』

・・・・・そしてCMは終わった。 30秒の中に俺達は一体いくつの醜い物を見てきたのだろう・・・。 いや、もう、

あえて語るまい。

その日からあのCMについてはもはやだれも語ることはなかった。 風の噂だが、なんでも、あのCMはPTAや

公●広告機構からクレームが付きまくって、一週間で放送禁止になったそうだ・・・・。 そりゃそーだ。

そーいや、たまにスーパーで『バクテリン3本で百円』セール、なんてのもやっていたような気がする。 最近では

もう見ないが。 そして俺は・・・ 多分生まれて初めて志保にもう少し優しくしてやろうと思った・・・・。 

めでたくなしめでたくなし。

                                                        〜完〜

 

――戻りますぅ――