葉桜

 

 

「・・・・・って訳でして・・・・・」

「・・・・・はい・・・・・」

 ここは平和の戻った京。

 龍神の神子である元宮あかねは、共に戦った八葉の一人である藤原鷹通の願いで、元の世界には帰らず、この世界に残る事になった。

 まぁ、それはそれでめでたしめでたし・・・・・なのだが、そう上手くいかないのが現実だった。

 京に来た当初は怨霊退治や鬼達の事で手一杯である事や、別の世界の人間なのだからという事で、ある程度の事は許されていたのだが・・・・・・。

 本格的にこの時代の・・・・しかも、藤原家に嫁ぐ身分ともなれば話しは別だった。

 現在引き続きお世話になっている藤姫の家にしても、鷹通の藤原家にしても、かなりの身分の・・・・この時代風にいうなれば「やんごとなき」家柄なのである。

 そうなれば、当然の事だが「身分・教養」なるものは不可欠になる。

 身分はまぁ「龍神の神子」もしくは「藤姫の云々」で誤魔化せるにしても、教養は学ばなければならないし、別の世界で暮らしてきたあかねには、それ以前にこの世界の基本的な知識も必要になる。

 故に、ここの所はずっとお勉強づくめだったのである。

 礼儀作法に正しい挨拶に食事のマナー・・・・・・

 藤姫が上手く手配して教師役は鷹通である事が多いのだが、やっぱりお勉強ずくめというのは・・・・・・

 しかも、ずっと正座で見慣れない文字の羅列とにらめっこというのも疲れるものである。

 しかし、それでもあかねはこの世界に残った事を後悔はしていなかった。

 こうして鷹通といられるだけで・・・・静かにこうして過ごせるだけで幸せだったのだから・・・・・。

「・・・・・神子殿?」

「あっ・・・・ちょっと足が痺れちゃいまして・・・・・・・」

 家庭でも通学の車内にしろ、学校でも座っているのが普通だったあかねにとって、ここ数ヶ月でずいぶん慣れたとはいえ正座はかなり疲れる・・・・・いや、足が痺れて非常に辛い。

「・・・・そうですか・・・・では、少し休憩しましょうか・・・・・」

「そうですね・・・・・」

 ちょっとの気まずさと、足のしびれに苦笑いしながらあかねは鷹通のその言葉に答えた。

 

 

 それから、足の痺れの取れたあかねは、久しぶりに鷹通と共に庭を歩いていた。

「いい天気ですね」

「ええ、本当に・・・・・」

 真っ白な雲がのんびりと浮かんでいる空を見上げ、思わずあかねは呟いた。

「こういう日って、ピクニックって行きたくなりますよね」

「ぴくにっく?」

「ああっ・・・・外でのんびりと過ごす事ですよ。お弁当を持って・・・・・」

 思わず出てしまった言葉にあっとなるあかね。

 まぁ、鷹通が「ピクニック」という単語を知らないのは当然として、知っているあかねにしても、具体的に説明しろと言われれば困るものがある。

 ましてやここは車の騒音や人や物でごみごみとした都会でもなく、「環境問題」などと叫ばれているあかねの時代とは大きく違うのだ。「自然の空気を満喫する」などといっても、どういう事なのか理解できないと考える方が自然だろう。

「なるほど・・・・確かに、こういう日ならばそれも良いかもしれませんね」

 あかねの隣をのんびりと歩きながら鷹通は笑った。

「神子殿の世界では、そういう習慣もあるのですね」

「ええ・・・・習慣って程じゃないけれど・・・・・あと、お花見とか・・・・・」

 まぁ、学校から遠足で山に登ったとかいう事も、あかねの楽しい思いでだったりするのだが、理解してもらえるように話すには、まず「学校」から説明しなくてはいけない。それから「遠足」で「山登り」

 ただでさえ面倒だというのに、知的好奇心の旺盛な鷹通にかかれば、その概念から説明を求めてくる。それからあれこれあれこれ・・・・・次から次へと質問をしてくるのだ。

 鷹通が納得するまで説明していたら日が暮れてしまう・・・・・・。

 それをここ数日間で、あかねはイヤという程に感じた事だった。

「お花見?」

「桜をみんなで眺めてどんじゃん騒ぎするってだけなんですけれどね・・・・・」

 なんとなくやばげな空気だった。

 「花見論争」に発展しそうな空気・・・・・・。

「なるほど・・・・・そういえば、神子殿・・・・・」

 なんとか別の話題にあかねが持っていこうとした矢先、鷹通は何か見つけたらしく、少し先を歩いていたあかねを呼び寄せた。

「はい?」

「あれをご覧なさい・・・・・」

 鷹通の指さす先、日の光りが眩しくて、少し目を細めて見上げたら・・・・・

「・・・・・桜ですか?」

「ええ、花はもう散ってしまいましたが、綺麗でしょ?」

 鮮やかな若々しい緑色。

 ほんの少し前・・・・・

 怨霊と戦っていた頃は、咲くか咲かないかぐらいだったのが、いつの間にか満開になって、そして緑色の葉を付けていた。

「・・・・・本当、綺麗です」

 あかねは小さい頃はよく木登りをしていた。

 特にこの季節、暑さしのぎに木に登って休む事もあった。

 あの時と同じ緑色が、今はとても懐かしかった。

「神子殿が来た時は、まだまだでしたのに、もう葉桜ですよ」

「ええ・・・・・あの時は、みんな精一杯で気が付かなかった・・・・・・」

「神子殿・・・・それは私も一緒ですよ。ほんの数ヶ月だというのに・・・・・・」

「春から夏へ過ぎていくんですね・・・・・」

「ええ・・・・・そして、来年になれば、また桜は咲きます」

「・・・・・そっ・・・・そうですね・・・・・」

「神子殿・・・・・来年の桜も共に見ましょう・・・・・」

「ええ・・・・鷹通さん」

 初夏の射すような日差しに、少し冷たい風。

 夏はもうすぐそこだった。

 

 

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後悔後悔後悔

キリ番をふんでくださった桐生さんに捧げます。

鷹通と神子の創作なのですが・・・・・

はい、皆様、声をそろえてどうぞっ!!

鷹通にせものーーーー!!!

ついでに、甘くもなんともありませんね〜・・・・・

鷹通さんって、けっこう好きなんですがね・・・・・やっぱり私が書くと見事に偽物です。

桐生さん・・・・こんなのでよければ、もうお好きになさってくださいませ・・・・!

ちなみに、今くらいの季節、とっても心地が良いので私も好きなのです!

 

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