terrystorch.gif (15653幽霊狩りの夜−終章

『Ghost Hunt Night Walk』

”SPECIAL”

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アリス@PACHIさん

シュルーズベリ城で「ゴーストハント・ナイトウォーク」のスペシャル・イベントが繰り広げられているそのさなか、セヴァーン河のほとり、イングリッシュ・ブリッジのたもとでは、河の精霊ギルに見守られて黒妖犬ショーンと地縛霊グラディスが意識を取り戻そうとしていた。

「うう……頭いてぇ……」

「大丈夫ですか? “闇の手綱”を切るのはあなたの力レベルでは限界ギリギリだったでしょう」

「へへ……ちっと張り切りすぎたかな……あれ? えーと、あんた確かセヴァーンの」

「地縛霊の監視者ギルです、シュルーズベリの守護精霊ショーン」

親しげに差し出された手を握ると、爽やかな水の精気が流れ込んできてショーンの疲れは癒えた。ショーンは恐縮した様子でギルに礼と詫びを言った。

「管轄領域無視だったな」

「いいえ、われらが母女王も感謝していますよ」

話し声に反応して、グラディスが目を覚ました。グラディスは夢を見るようなぼんやりした顔で、かぼそい声で傍らに控える精霊の名を呼んだ。

「……ショーン?」

「グラディス! 大丈夫か? ひでえ目にあったな」

「ショーン、あたし……あなたの夢を見てたわ。あたしが恐ろしい闇に捕まって乱暴な目にあわされてると、どこからかあなたが来て助けてくれたの……あれは夢じゃなかったの?」

「夢じゃねえよ」

「それでね……すごい風に巻き込まれて飛ばされてくんだけど、その間じゅうあなたがあたしを抱きしめて守っててくれるの……それも、夢じゃない?」

「う……ゆ、夢じゃねえよ」

「あたしね、すごくうれしかったの……」

ショーンはグラディスのうっとりした眼差しに照れて、困ったようにギルを見た。2人の様子をにこやかに眺めていたギルは、コホンと咳払いをしてグラディスに話しかけた。

「地縛霊グラディス、あなたは今夜、異世界の《力》を得る《契約》を結びましたね」

「けいやく? ……あたしは……今夜、『異空間ツアー』のガイドがお客のために異世界の通廊を開くって聞いたから、そのお客の1人の竜酸さんに、異世界の《力》のかけらが手に入ったら私にも分けて欲しいってお願いして、“約束”してもらっただけよ……?」

「迷える魂よ、はからずも今夜、その“約束”は《契約》になったのです。今夜は『異空間ツアー』が開催されるだけでなく、あらゆる異世界との通廊が最大に開きやすい『合』の日だったのです」

「まあ……知らなかったわ」

「間もなく本当の異世界の《力》は《契約者》竜酸さんに取り込まれ、あなたは願い通り《力》により昇天し、『魂の源』に還って再び新たな生命として転生することができるでしょう。

 ですが、その前にあなたの意思を確認しておかなければなりません。

 われらの戒めから解き放たれ、人の魂として昇天し転生したあなたは、もはや今までの『グラディス』ではありえません。前世の記憶はすべて抹消され、まっさらな新しい人格として生まれ変わることになるのです。それがあなたの望み……それでいいのですね?」

「え……それは……それは、違うわ」

グラディスはとまどった顔をして、ギルの言葉を否定した。

「あたしの望みは……この地の呪縛を離れて新しい人生を歩くことだけど、記憶を失ってしまうのは、いやだわ」

「迷える魂よ、人間は誰でも転生すれば前世のことは忘れるのが掟ですよ」

「だって……だって、あたし、ショーンのことを忘れちゃうのはいやだわ……。それならあたし、転生なんかしたくない」

グラディスはショーンの腕をぎゅっと握り締めた。ショーンは照れくさそうな顔をしながらも、その手をしっかりと握ってやった。

ギルは優しい笑顔を浮かべて言葉を続けた。

「人の子よ、1つ道があります。あなたは土地神セヴァーンの《力》に呪縛され、われらと同化したので、すでに半分はわれらと同じです。残りの半分、人間としての魂の部分をすべてわれらと同質のものに変化させ、完全にわれらと同化することを望むならば……記憶はそのままに、自由に動き回れる存在となれるのです」

「え……? あたし、『精霊』になれるの? あなたや、ショーンと同じに?」

「そのかわり、二度と人間や動物や…あらゆる生物としての『肉体』を持てる可能性は失いますよ。多くの霊的な存在が常に欲するものであり、生き物の“生きるもの”としての自分自身の存在の証し、『肉体』を持てるという特権を失うことが、《契約》の代価となるのです」

「そんなの、いらないわ! 自由に動き回れれば十分だわ。あたしは……あたしが好きなひとと、あたしを好いてくれるひとと一緒にいられるなら、それでいいの! あたし、精霊になりたい!」

グラディスが高らかにそう叫ぶと、その声に呼応するようにセヴァーン河の水面がぱあっと銀色の光を放ち、あたりに昼のような明るさが広がった。河から無数の水しぶきが上がる。それは上空でひとかたまりになると生き物のように身をくねらせてグラディスを取り巻き、その身をふわりと空中に浮かび上がらせた。

 

『――契約は成立した! 今宵よりそなたは「河の娘」となるがよい―――』

 

威厳ある声が川面に響き渡ると同時に、グラディスの体は青白い光に包まれてみずから輝きを放ち始めた。たくさんの、大小の水の精霊たちが新しいきょうだいの誕生を喜んで空中を歌いながら舞い踊る。ほとばしる水しぶきが、光のシャワーのように降り注ぐ。

光の狂乱の中、ギルが恭しいしぐさでグラディスの手を取り祝福を授けた。

「おめでとう、グラディス。セヴァーンの小さき妹よ」

ギルはもう一方の手で、傍らで口をぽかんと開けて突っ立っているショーンの手を取り、グラディスの手を優しくその手に重ねさせる。

橋のたもとで陰気にグチをこぼしていた幽霊は、ショーンが黒妖犬になって以来500年、一度も見たことのない幸せそうな笑顔を満面に浮かべて光り輝いていた。

美しい河の精霊は両腕を広げてシュルーズベリの若い守護精霊の胸に飛び込んだ。

「ああ、すてきよ、ショーン。とても体が軽いわ! あたし――精霊になったのね!」

竜酸さん

竜酸は上空よりショーンとグラディスの姿を捜し求めていた…

やがて、ショーンとグラディス…そして、ギルの姿を見つけた竜酸は急に滑空を始め、3人の側に着地をした。

(おお! 着地成功〜♪)

竜はそう思っているのか、あるいはショーンとグラディスとの再会に嬉しさを隠しきれないのか、

嬉しそうな顔でショーンとグラディスを見つめる…

その時であった…

竜の体が光に包まれ、『ボウンッ!』という小さい爆発のような音とともに、

竜酸は人間の姿に戻った。

「????」

竜酸は竜の姿のときの記憶が無いらしく、相変わらずのんびりとした口調で話し始めた…

「あれぇ〜 ここは何処なのでしょうかぁ〜? アースキンさんは!!??

 ん? あ〜 腕が元に戻ってる〜〜  もしかして、アレって夢だったのかなぁ〜〜」

竜酸はふと辺りをキョロキョロと見回した次に、ショーンとグラディスの姿に気づく…

「あぁ〜〜!!  ショーンさんにグラディスさん〜〜

 よかったぁ〜  あの台風みたいな強風に2人がいなくなり、心配しちゃいましたよ〜

 2人とも元気そうで本当によかった〜〜〜♪♪」

そして、アリスの存在にも気づいた竜酸はこれまでのいきさつを説明してもらおうと、アリスに話し掛ける…

「アリスさん〜 いったい、何があったのですかぁ〜?

 なんか、アースキンさんに腕を切り落とされたところまでは記憶に残っているんですけど、

 それから先がさっぱり…」


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