空想旅行/番外編【聖守護竜の娘】−1−
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★大鴉さん★
それは記憶にあった。少年の果てしない記憶の中に。
何時までも消えない記憶の一つとして。
暗闇。若干の街灯と、鈍く光るアスファルト
激しい息づかいと、無我夢中で進める足。通り過ぎていく町並みと、人々の怪訝な表情。(僕じゃない・・・・僕じゃないんだ・・・)
その少年は、肩にかかりそうな紅い髪を振り乱し、顔を汗でぬらしながら走っている。その表情は動揺する精神を表すかのように引きつり、鳶色の目は定まらずにキョロキョロと動いていた。
(モーガンの祝福を!・・・くそ!それが何だってんだ!くそ!)
激しく上下する少年の胸、そして躍動する安物のジーンズに覆われた足。茶色によごれたスポーツシューズが田舎の土ぼこりを蹴り上げて進む。少年は激情に任せて、その足を動かし続ける・・・彼の背後の夜の闇を、紅く染め上げているものから逃れるために。
「大変だ!サンダーズ・ホテルが火事だぞ!!」
少年とは逆に、多くの人々が叫びながら夜の闇を照らす紅い光の方へ進む。少年は口から激しく息を吐きながら、夜の闇の中へ走り消えていく・・・・。
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それから幾日経ったのだろう。
どこをどう歩いたのか・・・とにかく少年は「あの町」から遠ざかり、そのままひたすらあらちこちらをさすらった。
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それは記憶にないものだった。少年の記憶の中に。
だが、やがて記憶として残る・・・・少年の果てしない記憶の中に。
しかしその前に、奇跡があった。
「なんだ・・・・あれは」
田舎道を歩き続ける少年の目に・・・奇怪な一行が目に入ったのは、道に迷って森を歩き続けた日。馬にのっている男、小さな少年・・・・だが、何より驚いたのは・・・・
「こいつら・・・化け物ばかりか?・・・」
猫・・・・おそらく普通の人間が見たら普通に「見える」ねこ。
少女・・・に「見える」少女。
女性・・・に「見える」女性。
いや・・・・あるいは全員が何者かの化身か・・・と見えるような不思議な一行。
耳をすますと「アリスが・・・」とか「スティーブン」とか「喰いたい」という言葉が
盛んに聞こえる。
いや、そればかりか彼らの回りで盛んに聞こえる不思議な気配の音。たわんだ空間のきしみ。
「面白そうだな・・・」
少年はニヤリと笑みを浮かべる・・・青いジーンズと茶色のレザー地のジャンパー、少し汚れたスポーツシューズをはいた少年は、一行に近づいていった。
★青猫さん★
ぱたぱたぱた…結構疲れる。肉体的にではなく、根気が…つまり、面倒臭い。
その時、猫のヒゲが動いた。
森の中から、新しい波動…亜空間経由で、ヒゲでつんつん。
『なんだぁ、また〈つーりすと〉かぁ…』
喰えん。〈つーりすと〉を喰ったら、母ちゃんに封じこめの罰を受けてしまう。
つまんないの、なんだか美味しそうな匂いが立ち篭め出しているのに…と、猫はしっぽを波打たせた。
(猫がしっぽを波打たせたら、不満の証拠)