シュルーズベリ・24

『Picnic at Acton Scott-8.5』

アリス@PACHIさん

だれかが“落ちてくる”のに気づいたのは何人いたんだろう?

ピクニックの一行は前方に倒れ伏している人物の周りに集まっていったが、その人物が“落ちている”ことを正確に言い表したのは、なぜか4歳のジョアンだった。

突如開いた異世界の扉から落ちてきたその人物は――しかし、どうやら「ここ」と同系列の場所と時代の……現代人であるらしい。

アリスは俄然興味シンシンで、くるりと宙返りして人型に変身すると、みんなに混じって側に近付いていってみた。(スティーブンに目撃されたかもだが、まあ子供だし見られてもいいや、とか思っている)

琥珀の髪、琥珀の瞳――今はキャメロンの誘惑を楽しみにしつつも、やっぱりちょっとは警戒しなくちゃなのでナイスバデーギャルになるのはやめ、若干幼めの少女(12歳くらい)に変身してみる。

その姿でとことこと近付いていき、しゃがみこんで行き倒れの人物の顔を覗き込む。

ふいに青猫がひょいと膝の上に乗ってきた。

猫ののどをなでながら、なおも観察を続けていると―――ようやく目を覚ましたその人物と目が合った。

青猫さん

彼女は、声をかけられると目を開け、意外としっかりした足取りで立ち上がります。

「あ、気がついたみたいですね。 よかったよかった。 私は竜酸です。 そんでもって、この馬は『りうさん』。 ツアーのお客さんですか? よろしくおねがいしますぅ〜」

竜酸はいつもの調子で彼女へご挨拶をすると、水辺へ手を洗いに行った。

 

…まるでアライグマのごとく、水面に手を浸してごちょごちょと手を洗い、

『りうさん』の所に戻っては、鞄の中からハンカチと小さなタオルを取り出した。

「たぶん、手綱もベトベトしている頃だから、拭いておこ〜っと♪」

そう言って、タオルを湿らせ、手綱を拭き、きつく絞ってまた鞄の中に入れた。

ハンカチで手を拭いたら再出発した。

【キャメロン】

「ほれ、お客だ。グリーシュ、お前の荷物にするからな」

空気が揺らいで、誰かがあらわれる……キャメロンは、一旦鞍から降りると、新しい添え鞍を出して、グリーシュに掛け直した。

あらわれた「お客」にSKYFISHが話し掛けている。が、「お客」が返答するより早く、キャメロンが応えをかっさらった。

「SKYFISH。そのお客さんは、グリーシュに一緒に乗ってもらえば良い。今、添え鞍をかけたからな」

そう言って、『闖入者』を迎えに行く。

「こんにちは、お嬢さん。わしはキャメロン・オブ・ロシェル(Cameron of Lochiel)だよ。キャメロンと呼んでおくれ。こいつはグリーシュ、きれいな娘が好きだが、わしの目の届くところじゃ、悪さはさせんから安心してお乗り」

再び馬上の人となった一団が、桟橋につく。皆には桟橋を渡るように言って、キャメロンはグリーシュを水中に進ませた。

SKYFISHの心配声に返事を返して、尚も水中へすすむ。少しばかり行くと、グリーシュが水に浮かんだのがわかった。元々アハ=イシカ(水棲馬)なのだから、なんの心配もいらないことはSKYFISHだって知っているだろうに……。キャメロンは笑いを含んだ声で、添え鞍のラエリナに声をかける。

「…そう思わんかね、『緑の騎士』に出会った娘よ?…あの坊やは、ひとでなしの癖に心配しすぎる」

【SKYFISHさん】

突然の闖入者は、どうやら、キャメロン(だか、彼の眷属だか)が呼び込んだらしい。

(でも、どう見たって人間だけど…?青猫さんもそう言ってたし)

ともかく、全員をもう一度騎乗させる。ま、ひとりふたり増えたところで、旅程に変わりはないし…。

「…SKYFISH」

不安そうなスティーブンの声に、ちょっとどきりとしてSKYFISHは振り返った。

「どうしたの、スティーブン?」

「あの子……さっき……」

言いにくそうにしているのは、『大地の娘』、飲み助精霊のアリスのことだ。いつの間にか、えらくかわいらしい姿に変身して、青猫を抱いている。

(あ〜見られたかな?)

「彼女がどうかした?」

「あのね…さっきね…コマドリが……」

(えぇい、仕方がない)

「彼女はアリスだよ。アリス、この子はスティーブン…」

青猫付きアリスを強引に引っ張ってくると、スティーブンに紹介する。

「スティーブンの馬に、一緒に乗せてもらってね〜〜(^_^#)。(小声で)…見られたからには責任とってもらうぞ、アリス。スティーブン担当だからねっ」

有無を言わさず、スティーブンの鞍にアリスを押し上げる。青猫も一緒だ。

「さっ、出発〜。ジョアン、良い子だったね。湖へ行くから、この後も良い子でいてね〜」

「SKYFISH、あのひと、みどり」

「?…あのひとって?」

「はっぱのいろね、たくさんあってわかんなかった。それでみつけたの」

「???」

(わからん…f(^_^;)けど、何を見たんだろう…?)

湖の桟橋を、ひずめの音を響かせながら渡りはじめる。

ジョアンがあっちこっち触りたがるので、危なっかしいことこの上ない。

「ジョ〜ア〜〜ン。じっとしてなさぁあいっ」

キャメロンはアハ=イシカに騎乗しているのを良いことに、さっさと水上運行している。風に乗って、彼の言葉が届き、またぞろSKYFISHは嫌ぁな顔になる。

「……なんだとぉう…女ったらしのくそじじぃの癖にっ…」

「おんなったらしのくそじじいね」

あぁっ、マズいっ(^_^;;)。どうして子供はこーゆー言葉をすらすら覚えるんだ?

「ジョアン、真似っこ禁止〜。サムに殺されちゃうよ」

青猫さん

大切な大切なお菓子と引き離され、食いたいのに食えない精霊の娘と一緒に、またしても子供の馬に押し付けられた猫は、いささか御機嫌ななめだった。

『俺の菓子…』

さっきからちょこちょこと〈お弁当〉を亜空間から引っぱり出して食べているので、さほど空腹ではなかったものの、やはりお菓子は愛しい。

これというのも、この精霊の娘が大ドジを踏んだからで…。

猫は、アリスにだけ聞こえる声で、

「馬鹿じゃねぇの」

と言った。

アリス@PACHIさん

異空間から落ちてきた旅人――ラエリナは一行に同行することになったようだ。

青猫を腕に抱いたまま、アリスがぼーっと様子を見ていると、SKYFISHがやってきて、スティーブンとかいう子供の馬に無理矢理アリスと青猫を乗っけてしまった。

もう目的地の島はすぐそこだし、湖の桟橋を渡るんだから歩いてついていってもいいし、まだたくさん歩くならコマドリに戻ってもいいのに、とか思っていたのに、へんなことになってしまった。

子供はちょっとおっかなびっくりアリスを見ている。やっぱり、コマドリから少女に変身するところを見ていたらしい。

子供のくせに、精霊が化けるのを見て驚くなんて世も末ね――。アリスはため息をついた。(普通驚くもんだが)

しかも青猫はお菓子と引き離されて不機嫌に「馬鹿じゃねえの」とか言ってるし。

アリスは青猫のひげを引っ張って(少女に化けたせいか性格も少々子供化したようだ)にっこり笑って言った。

「ああら、いいのよ、青猫ちゃん。そんなにジョアンのそばに戻りたいんだったら戻っても」

それから不思議な顔をして見ているスティーブンにもいたずらっぽい笑顔を向けてあっけらかんと言った。

「よろしく、スティーブン。精霊を見るのははじめて? わたしは人間を取って食ったりするような妖怪とは違うから、心配しなくても平気よ」

青猫さん

>「ああら、いいのよ、青猫ちゃん。そんなにジョアンのそばに戻りたいんだったら戻っても」

………( ̄ω ̄;)フ

これは効いた。悪魔付きお菓子と、悪魔無し菓子無し、究極の選択だ。

「…ちぇ〜………おまえ、意地悪だな。…食うぞ」

口先ばかりで反撃しつつ、アリスの頭によじ登り(肩の上に乗り、首の後ろから頭にしがみついてちょっと爪を立てている状態…痛いかもしれない)、前を見る。

アリスは、大きい子供にあっさりと正体をばらしてしまっている。

『俺も、しゃべってもいいのかなぁ?』

だけれど、コマドリが変身した〈人間〉が口をきくのと、〈猫〉が口をきくのでは、やはり驚きの質が違うだろう。

とりあえず、〈まだ〉黙っていることにした。

【SKYFISHさん】

>「よろしく、スティーブン。精霊を見るのははじめて?…」

アリスがあっさりと正体を暴露してしまった。不機嫌な青猫が反撃するのも、時間の問題だろう。

「…あぁあ〜もう〜っ」

SKYFISHはうめき声とも悲鳴ともとれる叫びを上げると、馬の横腹を蹴って早足になる。スティーブンの馬に並ぶと、ちょっとばかり乱暴に手綱を奪った。驚くスティーブンをすばやく抱き寄せ、瞳と瞳を向き合わせると、彼に歌うような言葉を発した。

「スティーブン。ここはね、不思議の領域なんだ。……《見えるものは真実でなく、見えないものこそ本当だ。風と大地、炎と水月に誓え、嘘と真に目を瞑るよう》」

アリスと青猫(と、もちろんキャメロン)は、SKYFISHが呪言を使ったのに気付いたろう。スティーブンは、一瞬きつく目を閉じ、それから、ゆっくりと開いた。

「…よしっ、おっけー。青猫さん、しゃべっても良いよ。アリス、後はよろしくねっっ」

スティーブンは、ここで起きたことを、後には夢だと思うだろう。『本当のこと』を知らせない方が、良い時もある。

「…昨日の今日で良かったな〜。《力》の大盤振る舞いしちゃったぜ」

そう言いながら、自分の馬を最後尾に戻す。もっとも、内心はびくびくものだった。

今日のように不安定な『領域』で《力》を使うなんて、自殺行為に等しい。案の定、キャメロンの声が水上から響いて来た。

「…感心せんな、坊や。中洲の竜が目覚めても知らんぞ」

言われるまでもなく、森と湖が動揺しているのに、SKYFISHも気がついた。そこここから、青猫の食指をそそる蠢くものの気配が滲みだす。

「…っるさいな、キャメロン。それより手前でクラーケンに喰われちまえ」

「やれやれ、口の減らん坊やだ。まあ、使ってしまったものは戻せんからなあ…」

キャメロンは、ラエリナが凝視していたグリーシュの鬣から、水草を摘み上げ、ひょいと湖に投げ入れる。

「ラエリナ。騒ぎが起きたらな…まあ、起きると思うが…『彼』をお呼び」

グリーシュの足が、湖底に届く。桟橋を渡るSKYFISHらよりもずっと早く、キャメロンとラエリナを乗せた水棲馬は『中洲の島』に着きそうだ。

ラエリナ@真鳥Xさん

ツアーに拾われた時の記憶は、少々曖昧だ。まだ悪夢の余韻を引きずっていた所為だろう。ただ、一行が彼の言っていたツアーの人たちだと、妙に確信を持っていた。

とりあえず挨拶を済ませ、歩を進める。程なくして森を抜け、湖に出た。

「湖(Llyn)・・・」

思わず洩らした一言に、キャメロンさんが笑みを浮かべる。私の拙いウェールズ語が可笑しかったのだろう。

馬はそのまま長い桟橋を渡って行く。欄干など無いからうっかりすると・・・えっ?

・・・大概の動物は人間よりはるかに泳ぎが上手い。馬が泳いだからと言って驚くほどのことは無いのかも知れない。冷静に考えれば。

この時の私は、冷静ではなかった。キャメロンさんの指示と言うよりは恐怖心の要求するままに膝を引き付け、鞍にしがみつく。

グリーシュが無事泳いでいることを確認し、やや落ち着きを取り戻してみると、今度は恥ずかしさが込み上げてきた。乗馬に関しては自慢できる腕前ではないが、まったく心得が無いわけでは無い。それが子どものように手足を丸めて脅えていたのだ。

キャメロンさんはしばらく私に声を掛けてくれていたが、どうもそれどころではないと察してくれたらしく、島までは沈黙が続いた。

この時会話が成立していれば、私のこのツアーに対する理解は大いに進展したはずである。

しかし、実際には。私はグリーシュの鬣に絡み付いた水草を発見し、訝るにとどまるのである・・・

アリス@PACHIさん

アリスがせっかくスティーブンに“礼儀正しく”挨拶したのに、SKYFISHは気に入らなかったらしい。

わざわざ馬を寄せてやってきて、スティーブンに「夢のまじない」をかけてしまった。

記憶を操作された可哀想なスティーブンは、これからどんな楽しい冒険を目にしても、すべて夢だと思い込むことだろう。

「見せたくないなら連れてくるなっつーのよ」

スティーブンとジョアンが押し付けられたお客であることも忘れてアリスはブーたれた。

どうせ子供なんて大人になれば、無情にも精霊のことなんか忘れてしまうのだ。大人になっても「夢」を忘れずにいる人間たちこそ、自分の客たる《冒険者》になる者であるはずなのに、自分から将来の見込み客を減らすとは!

アリスも酒の精霊とはいえ、「子供の友だち」のはしくれだ。

それでなくても精霊や幽霊を感じることのできない鈍い子供が増えている嘆かわしいこの時代なのに、ますます生息地域を狭められるような行為をされるのは不愉快だった。

しかし、そんなことよりもっと重大な問題が起こりつつある。

青猫が「猫帽子」状態になって頭に張り付いている。落ちないように立てている爪は、アリスの疑似肉体にはなんの痛みも感じさせないが、気分的にうっとうしい。子供化したせいか遠慮のなさに拍車のかかったアリスは、イライラしながら言った。

「しゃべりたければしゃべったら? ご親切な《ガイド》がいくらでもこの子の記憶は消してくれるわよ。

 ―――それに、私を食べなくっても、“今の”に反応してもっと美味しそうなものが現れそうな雰囲気よ」

ラエリナ@真鳥Xさん

「・・・何が起きているんですか?」

悪夢の世界を脱したと考えたのは早計だったかもしれない。

そんな予感に脅えつつ、私はそう尋ねていた。

「騒ぎが起きたら、『彼』をお呼び」

キャメロンさんはそう言った。氏が『彼』について私より深く知っていることは、不思議ではない。しかし、そんな事ができるだろうか。

この場を支配しているのは、夢の原理だ。キャメロンさんは明らかにそうした状況に慣れている。翻って、私はそうではない。

このことが、無用の誤解と混乱を招かなければいいが。

グリーシュは他の一行より一足早く、固い地面の上に辿り着いた。島を取り巻く、不思議な気配に肌が粟立つ。

私は地面に降り立ち、馬上の人の答えを待った。

竜酸さん

 手を洗ってから馬に乗り、しばらくしてから竜酸は、

上にコマドリが居ないことに気付いた。

「ん〜? アリスさん!?  ど、何処に!???」

慌てて辺りを見回すと、スティーブンの馬に見慣れない少女が乗っていることに気付いた。

竜酸は、スティーブンの馬と並ぶと、

後ろの方に乗っている少女に声をかけた。

「あ〜っと… アリスさん… ですよね? …頭に青猫さんを乗っけているようですが、重くありませんか?」

アリス@PACHIさん

アリスがいなくなったことに気づいた竜酸が怪訝な顔をして辺りを見回している。

しかし竜酸はぼんやりしているように見えて(失礼)鋭い。すぐに少女に変わった自分に気づいたらしく声をかけてきた。

「あ〜っと… アリスさん… ですよね? …頭に青猫さんを乗っけているようですが、重くありませんか?」

「はあい、竜酸さん♪ すぐにわかってくれてうれしいわ♪

 ああ、この猫ね。重さは感じないのよ、擬似肉体は感覚を調整してあるから。

 それより、桟橋を渡るときは気をつけてね。ゆっくりと、真ん中を歩いて、水に落ちないように……」

青猫さん

アリスの機嫌が悪い。

「ちぇ〜、可愛くねぇの」

猫も、いい加減黙っているのに飽きてきた。

馬に乗っているのも、飽きてきた。

「つまりは、一緒の速さで動ければいいんだろ〜?」

猫の毛並みが変わった。灰色の毛並みから、群青へ。

「これやると腹が減るんだけれど、ごちそうの気配もするし、ま、いっか・」

亜空間のお弁当を全部食べて、とりあえず満タン状態。

「空飛び猫、いきま〜す・」

首の後ろ、もうちょい後ろ、人間でいうと肩あたり。一対の白い翼がぽよんと生えた。

ぱたぱたぱた。

猫は、アリスの横あたりを飛びはじめた。

竜酸さん

「空飛び猫、いきま〜す・」
青猫がそういって、飛びはじめるのを目の前にして竜酸は少し驚いた。
「わぁぁ! ね、猫が… 猫が空とんでるーー 
 …ってなぁ〜んだ。 青猫さんでしたか。
 青猫さんならそれもアリかもしれませんねぇ〜」
少し驚いたものも、それが青猫だということに気付いたら妙に納得してしまった。

それから少しして、竜酸は何かを思い出したようにアリスに話し掛けた。
「あぁ〜っと アリスさん。 青猫さんが飛んでいるので思い出したのですが、
 実はというと、私も昨日、空とぶ夢を見たのですよ。
 なんか、どっかのお城から飛んで下を眺めていたら男と女の2人が倒れていたんです。
 なんか、気になったので降りてみようとしたところで目がさめちゃって…」
アリス@PACHIさん

黙っているのにもじっとしているのにも飽きたらしい『猫』が、いきなり背中に白い翼を生やして空中を飛びはじめた。
さすがのアリスも仰天して目を丸くしたが、そういう楽しいことは大好きである。不機嫌も吹っ飛び、たちまちはしゃいで笑い出す。

「うわあ〜可愛い、青猫ちゃん♪ そんな芸当もできるのね、ファンタスティックだわ〜」

もうスティーブンが見ていようがなんだろうがお構いなしである。アリスもこんな馬に乗っているよりは空を飛びたい気分になってきたのだが、ちょうどその時、竜酸が話しかけてきた。
ゆうべの出来事のことを言っている。彼はあれを「夢」だと思っているらしい。そういえば、竜酸はゆうべも“竜化”していた間のことを覚えていないようだった。
これは、本人に言ってもいいのだろうか……。かろうじて残っている理性(謎)で、アリスは思案した。